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 聖女が竜人の鱗を気持ち悪がり、王が竜人を皆殺しにしようとしている。



 これを聞いた時、そんなことあるはずがないと思った。

 竜人は他種族と比べ、子供が出来にくく絶対数が少ない。また、成長すると飛竜へと変化することができるため非常に貴重な種族だった。竜人自体は非常に穏やかな種族であり、一国を潰せるほどの力を持ち合わせながらも決して己の翼を闘いに用いることはなかった。


 竜人は縄張り意識が強く、一族で固まって住んでいることが普通だが、先先代のクジャール王と親交の深かった竜人が王宮近くに住み始めたことが始まりで今も少数の竜人が存在するのだ。




 これには流石に様々な所から反対の声が上がったようで殺す必要はない、国外追放にすればいいという意見が多かったようだが、そうなると仕返しに怯えなければならないと思ったのだろう。なんと騎士団の団長が賛同し、実力行使で竜人を排除しようと動き出しているらしい。

 しかし、騎士団員は反対し続けているため何とかまだ弾圧するには至っていないとのことだった。


 ラウルはこみ上げてくる怒りに我慢できず、酒の入ったグラスを壁に投げつけた。

「何考えてんだあのクソ野郎」

 久しぶりに見た絶対零度のラウルを見て、集まってきた団員達は身動きがとれなくなっていた。


 ラウルはどうにかしてこの状況を打破する方法を考えるも、自分が関与できないところで起こっている出来事であり打つ手は限られている。


 一つだけ残されているとすれば、弾圧される前に安全な国へ送ることだが、竜人が多く住むと言われるヒュンドラ地方までは遠すぎる。隣国となると、国境までの道のりは険しく全員で避難できるかも分からない。また、

成体となれば竜化して飛ぶことも可能だが、飛べない子供はどうする。


 そこで思いついたのがアストラ王国だった。

 あそこは大国であり、様々な種族の者達が住んでいる。

 その中であれば竜人もうまく身を隠せるであろうし、橋さえ越えてしまえば、クジャールごとき小国が手を出せる国でもない。

 きっとここに集まっている団員達は手を貸してくれるだろう。

 


 それから急ピッチで手回しを始めていたラウルのもとに2つ悲報が飛び込んできたのだ。


 団長が竜人を殺した。

 クジャールがアストラとの国間の橋を壊そうとしているらしい。


 最初は手回ししているのがバレたのかと思ったがそうではなく、弾圧に抗議した竜人を弾みで殺したようだった。また、クジャールがアストラへ意味不明な交渉を持ちかけ、羽虫を払うかのように断られたクジャール王が逆上し橋を壊すに至った事を聞き、こんなに最悪な状況があるのかと頭を抱えた。


 しかしそれこそ悩んでいる暇はない。



 橋が壊される前に動かねば。


 幸いなことに竜人の子は1人だけだったはず。



 その日のうちに密かに竜人を集めたラウルは王宮内の警備を緩める時間を作ったので、その間にクジャールを越えアストラに向かうよう伝えた。

 子供に関しては、背中にのせることはできないためラウルが責任を持ってアストラに連れて行き、後で落ち合う約束をした。


 皆ラウルを巻き込んでしまって申し訳ないと思っているようだったが、あのクソ野郎を殺しておかなかった自分のせいなので気にするなと伝える。


 竜人唯一の子供は、まだ6歳になったばかりだ。

 先程からぐすぐすと鼻をすすって泣いている。


「おとうさんは、どこにいったの」


 最悪だと思った。殺された竜人は、この子の親だったのか。

「カイは母親を病気で亡くしていてリュートと2人暮らしだったんです」

 そう言って女性はカイを後ろから抱きしめた。

 こんな小さな子が背負うには大きすぎる荷物だ。


 ラウルは、カイの頭に手を乗せた。

「坊主、お前の父ちゃんはお前や周りの人を守ったんだ。絶対に生きて、上手いもんをたらふく食う。そして幸せになる。それが今お前ができることだ。少しの間、みんなと離れるがまたすぐに会える」


 そう伝えると、カイはしゃくり上げながらも強くうなずいたのだった。





 竜人とわかる可能性が高い金の瞳に関しては、他国の魔法使いに協力してもらい認識阻害の魔法をかけてもらった。



 こうして、アストラを目指し男2人の旅が始まったのだった。


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