第3話:悪役令嬢は魅力で誤魔化す
悪役令嬢といえば魅力で誤魔化すのです
「あらあら。殿下ったら。それは本意ではございませんでしょう?」
あたしは計算された微笑と角度で王子にサインを送る。
王子とはいっても、その中身は十代後半の自信の欠けた不安定な男の子。
ときには突拍子もないことを言ってみたり、あるいは行動に出たりもするもの。
つまり「この場では何もなかったことにする」のが互いにとって一番穏当な対応。
どうしても婚約破棄をしたければ、それは王と貴族の間の政治問題。
互いに主張するべきは主張し、引くべきは引く。
そうした駆け引きの中で、今回の「婚約破棄騒動」の政治的決着が謀られるもの。
今はとりあえず置いておいて、後で話をしましょう。
あたしはそうした貴族令嬢のプロトコルに則って王子にサインを送ったつもりだった。
ところが、王子はサインを無視した。
あるいは、そうしたサインに気づくことができないぐらい無能だった。
「私は宣言する!この女との婚約を破棄する!!」
(あ、これはダメだ)
あたしは諦めた。この王子はアホだ。言葉が通じない。
頭の悪い男との結婚生活なら耐えられるけれど、言葉が通じないお猿さんとの結婚は無理だ。
「そうね。私も言葉の通じないお猿さんと結婚するのは無理ね」
「きっ・・・貴様!!私を愚弄するか!!」
うっかり、心の声が言葉に出ていたらしい。
「バカだからバカって言ったのよ!バカ王子!ケーキのスポンジでも詰めたら、もう少し知能が上がるでしょうね!!」
売り言葉に買い言葉。
トマトのように真っ赤になった王子は衛兵に「この女を牢に連れて行け!」と命令した。
「ちょっと!連れて行くならせめて自分の手で連れて行きなさいよ!この根性なし!!」
「う・・・うるさい!とにかく連れて行け!」
気の進まない様子の衛兵達に「さわらないでくださる?自分の足で行きます」と宣言すると、あたしは会場を大股で出て行った。
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魅力はあっても気が短い悪役令嬢は、もう少し修行が必要です