第15話:武略系悪役令嬢は敢えて地下牢へ向かう
台風が近づいています。準備しないと。
「まあ、いいわ。ついて行ってあげる」
振り上げかけた拳を納め地下牢への同行を首肯すると、衛兵たちは腰がひけたまま先導をはじめた。
王城の地下牢。
その歴史は常に王国の暗い側面と共に語られてきた。
建国王の実弟は反乱を企てた罪で30年もの間監禁され続け、真っ白な肌と髪で灰をかぶったかのような風体で出所した折りには3代目国王の時代であったとか。3代目国王の后が重臣と姦通した罪で投獄された際には、たったの二晩で狂死したとか。今も先々代の国王に反旗を翻した貴族や辺境の蛮族が囚われたままであるとか。
突飛な話になると、そもそも現代の王城は所謂古き帝国の巨大な城塞の跡地に建てられたもので、その地下の全貌は未だ不明であるとか。通行が禁止された地下の奥には怪しげな呪われた怪物や魔導の仕掛けが生きているとか・・・
事実と真実と噂が入り交じり、王国の地下牢に送られることは実質的な追放系である、などと口さがない貴族達は畏れている、らしい。
「ちょっと、面白そうじゃない」
地下牢に入るのは願い下げだけれど、こんな場合でもなければ立ち入ることのない場所でもある。
「ちょっと、そこのあなた。剣を貸しなさい」
「え、ちょっと」
前を歩いていた隙だらけの衛兵の腰の鞘からスラリと小剣を引き抜き、目の前に刃を翳す。
「ふうん。わりといい剣を使ってるわね」
きちんと鍛造された小剣は刃も真っ直ぐで欠けた部分もない。
つまりは使用されたことがない、ということでもあるけれど、きちんと金のかかった装備は安心感がある。
ひゅん、と軽く振り下ろすと小気味よく空気の避ける音がする。
「ちょっと一刀だと心許ないわね。あなたのも貸しなさい」
立ちすくむもう一人の衛兵に剣を構えて迫ると「ひ、ひえっ」と悲鳴と共に鞘ごと投げ渡してきた。
これで二刀。両手に小剣を構えると、御婆様に叩き込まれた双剣術の基本の四型を流してみる。
一剣で相手の武器を抑えて敵の喉を切り裂く。
一剣で相手の武器を跳ね上げ敵の腹を突く。
双剣で相手の武器を受け止め、体当たりを仕掛けると同時に相手の前足の甲を踏み抜く。
一剣で前の敵を牽制しつつ背後の敵を斬る。
一つ一つの動作を淀みなく、連続で動作をつなげるよう意識する。
抑えて斬る、抑えて突く、受けて踏む、虚実で斬る。
少しずつ足の向きや体の向きを、剣の短さや衣装の不自由さによる足下の不安定さを補正しながら型を続けるうちに、だいぶ体が剣を思い出してきた。
「少しブランクがあったけれど、まあまあ動けるわね」
あたしは型を終えると、ぽかんと立ち尽くしている衛兵に命令した。
「ほら。早いところあたしを地下に連れて行きなさい。つまらない場所だったらすぐに出て行くから」
地下牢へ行くことに同意はしたけれど、出て行かないとは言っていないのだから衛兵達も命令を破ったことにはならないはず。
それに、あの退屈な王子とつまらない婚約を続けるよりは楽しい場所だ、とあたしの直観が囁くのだ。
あたしは、両手に小剣を携えて、手ぶらの衛兵達をお供に地下へ向かった。
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