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ワガママ姫の優雅な獄中生活  作者: あまがみ


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王都仮面舞踏会05

「ダンスはお好き? わたくしは好きよ」


「好きでも嫌いでもありません」


 正直な男である。


「それでは何がお好きなの?」


「剣術でしょうか」


「まぁ、すごいわ。貴方が剣を持っている姿は様になるでしょうね。剣術のどこがお好きなの? わたくしは剣など持ったことがないから分からないの。教えてくださる?」


「そうですね……。他者と戦い、勝利を得るというのが分かりやすい成果で、喜びを実感しやすいです。ですが私は強くなるために身体を鍛え、精神を鍛えるといった日々の鍛錬こそが喜びではないかと思っています」


 くっつけていた身体を離し、くるくると回ってからティーナは再び男に身体をくっつけた。


「素敵ね。剣術もお好きなのでしょうけど、ご自分のことが大好きなのね」


 男は灰色の目を少しだけ大きくして沈黙した。


 1、2、3 1、2、3


 ワルツが三拍子を刻んでいる。


「……そうかもしれませんね」


 それだけ言ってまた男は黙ってしまった。唇を引き結び、目は目の前のティーナではない何かを見つめている。無表情のため分かりにくいが、何かを考えている様子だった。ティーナも口を閉じたので、二人は無言で踊り続けた。それでも不思議と居心地の悪さを感じなかったのは、踊っていたからだろうか。


 曲が終わって、ティーナと男は離れて向かい合った。すると男が深く頭を下げた。


「申し訳ありません。少し考え事をしてしまって……。貴方に楽しい時間を与えられたのか、自信がありません」


 真面目な男である。


 ティーナはくすくすと笑った。


「ご自分のことを考えていたんでしょう? やっぱり、ご自分のことがお好きなのね」


 男は口を閉じた。無表情だが、どこか、バツの悪そうな顔のような気もする。ティーナはそんな男の両手を取った。


「いいのよ。わたくしも自分が大好きよ! 当たり前のことだわ。自分のことが大好きでないと自信なんてつかないのだから、自分を好きでいるべきなのよ。貴方は大きな自信を持った、素敵な方なのよ」


 真っ直ぐな笑顔を向けられ、男は初めてはにかむように笑った。


「そう言っていただけると嬉しいです」


 それからすぐ無表情に戻り、男は胸に手を当てた。


「このお返しはまたいつか。再びお会いできることを天に祈りましょう」


「あら。わたくしを探して会いに来てくださらないの?」


 くすりと笑うティーナ。


「……ごもっともです。では、後日改めてお返しに伺いましょう」


「待っているわ。その時はわたくしをうんと楽しませてちょうだいね?」


「私の出来る限りを尽くします。それでは」


 男は軽く礼をしてから機敏な動作でティーナに背を向け、人々の間に消えていった。


ワッ


「!」


 突然会場が湧いた。小さな悲鳴も交じって聞こえる。


 ティーナは急いで首を右や左に動かして会場が湧いた理由を探した。見つけるのに苦労はしなかった。探し始めてすぐ、ホールの真ん中あたりに不自然な空間が出来ていることに気がついたのである。ティーナは何が注目されているのか確認しようと、少し移動して人々の隙間から空間を覗いた。


 男が立っていた。


 真白な男だった。白い衣装に、白い仮面、白い肌。そして、一際目を引く白く真っ直ぐな長髪。


 何もかもが、白い。男が立っている部分だけ漂白したように白い。この世のものとは思えないような、あまりにも現実離れした容姿であった。


 周りの人間は完全に気圧されていた。言葉を発することなく、およそ人とは思えないその男を見つめていた。


 騒然とした空気の中で次の曲が、始まる。


 男はふと目が合った若い女をダンスに誘った。言葉は発しない。ただ、女に赤い目を合わせ、手を差し伸べたのである。女は微笑をたたえる男と差し伸べられた手を何度も交互に見て、恐る恐るといった様子で手を取った。


 そうして二人はゆったりと踊り始めた。


 1、2、3 1、2、3……


 白い男と若い女がステップを踏みながら回っている。女の着ている赤いドレスに白い男はよく映えた。


 周りの人間はしばらく二人を見つめていたが、ふと我に返って各々ダンスをし始めた。皆の動きがぎこちない気がするのは、意識の隅に白い男の存在があるからかもしれない。


 ティーナの前にも男が現れた。赤毛の男だった。ティーナは笑顔で男の申し出を受けようとした。


「きゃっ!?」


 しかし、横から誰かが赤毛の男のために差し出したティーナの手を取り、身体をかっさらった。ダンスの足の運び方だが、動きが大きいのでほとんど移動しているだけに近い。


 びっくりしたティーナが目を大きくさせ、身体をくっつけている人物を見上げた。それでさらにティーナは驚いた。


「貴方っ」


 先ほどの男だった。あの、壁際にいた真っ黒な男だ。


「貴方、わたくしとは踊りたくないと言ったじゃない!」


 堪らずティーナが不満を漏らすと、男は赤い目で睨んだ。


「光栄に思え。私と踊ることなど二度とないぞ」


「勝手な人ね! 貴方こそ、わたくしと踊れることを光栄に思いなさい! わたくしと踊れる機会は二度とないわよ!」


 ティーナはぷんぷん怒りながらも動きを止めなかった。ホールを横断する勢いで大きく動く男にしっかりついてきているのである。これだけ動きが大きいと振り回されるだけでダンスというよりは連れ回されているといった印象になるのだが、二人のそれはダンスに見えた。


 男はじっとティーナを見た。


「なあに?」


 むすっとした顔でティーナが見上げる。男はすぐに目を反らしてしまった。


 足がもつれるのではないかというくらい目まぐるしく立ち位置が変わっているにも関わらず、二人は美しい姿勢を保ったまま踊り続けている。人々の間を縫って足を運び、人にぶつかりそうになる度に、男は乱暴にティーナを振り回した。ティーナは「もうっ」とか「危ないわよ!」などと口に出すが、男は聞こえているのかいないのか全て無視だ。コミュニケーションも何もない。それでもダンスの形が取れているのは、双方の技量あってのことなのだろう。


 ぐるぐる回る視界に慣れてきた頃、ティーナの目にはあるものが頻繁に映り込むようになっていた。


 あの白い男だ。


 離れたところにいたのに今は近くにいる。どうやら目の前の黒い男は、あの白い男に近づこうとしているようだった。ティーナは目を細めて男を見上げた。案の定、男の目は白い男を捕らえていた。


 もう少しで隣に並ぶ。そう思った時、ティーナの肩甲骨あたりに添えられていた男の手が離れた。不審に思って動かしてみた視界が、何か、光る物を捕らえた。


「貴方っ何を考えているの?!」


 光るものが刃だと気づいたティーナが声を荒げる。

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