大切な人
目が覚めて、ガラステーブルの隅にある名刺を手に取って昨夜のことを思い出す。
おそらくは春奈さんを忘れていたのは介抱した女の子に無我夢中で顔をあまり見ていなかったのと、髪型や服装が違ったことの二点だろう。
先輩とトモヤは好みのタイプの女の子だったらしく、
終電で帰るための駅への帰り道で
「カオリちゃんは俺が好きみたい」だの、
「ユミちゃんか今の彼女で悩んじゃう」とか
幸せな人達が近くにいました。ハイ。
でも、エレベーターを降りる時に見送ってくれた
春奈さん、口唇に人差し指を当ててウインクしてた。とても綺麗で可愛いかった…
その時、スマホに結衣からおはようのメッセージが届いた。
僕はドキッとした。そして自分の優柔不断さを恥じた。
何やってんだ…これじゃ先輩やトモヤと変わりゃしない。自分には結衣が、大事な彼女がいるじゃないか?
たまたまお店で出会った女の子のことは忘れて、彼女を大切にしなきゃ。
僕は結衣におはようと返信すると、夏休みに海に行かない?と聞いた。
結衣からの返事はOKのスタンプだった。
どこの海に行こうかなぁ。
ふと、足元を見ると春奈さんの名刺がテーブルから落ちていた。
よく見ると裏に携帯番号が書いてあった。
所詮彼女とは棲んでいる世界が違う。
僕からはかけることはないよな。
そう。確かに自分からかけることはなかった。
数日後、僕のスマホに見覚えのない番号から着信があった。
誰だろう?
「もしもし宮田さんですか?」
表示されている番号は名刺に書いてある番号だった。
「はい。そうです。」
「お願いがあります!」「はい?」
「チケットを買ってほしいの!」