不思議な感情
久しぶりに結衣と鴨川デートをしている。
さざ波に夕陽が反射して目を細める。
結衣が飲み物を買って戻ってきた。
僕はお店であったことを結衣に話す。
「じゃあその二人は結婚して頑張ろうと思ってくれたんだ!翔くんが背中を押してあげたんだね。
あーん。やっぱり優しいなぁ。大好き!」
そう言って結衣は腕に抱きついている。
「あ、そうそう。はい、これお姉ちゃんから!」
そう言って結衣はチケットを僕に二枚手渡した。
「余ったから誰かに一枚あげてって。私の分は貰ったよ。」次の月曜日の夕方、steedのライブがある。毎回ライブをするたびにお客さんは結構多くなってきていた。定休日だし、トモヤでも誘おうかな?
夜の営業時間と後片付けが終わって僕は帰宅しようと着替えて厨房の親父さんと客席にいた雪さんに「お疲れ様でした。」と声をかけた。
雪さんは少し緊張した感じで「あ、あのね。翔くん、次の月曜日は何か予定がある?」ライブの日だと思い出した僕は「あっ、ちょっと行くところが…どうかしたんですか?」
雪さんは少しガッカリした感じで、「あっ、それなら仕方ないね。実は父さんがたまには翔と一緒に遊びに行ったらって…父さんが言ったんだからね!」 親父さん、そんなに強く推したのか…
僕はライブのチケットが二枚あることに気づいて「雪さん、一緒に行きませんか?」と差し出した。雪さんは少し考えて「翔くんと一緒なら行こうかな?」と言ってくれた。
「知り合いが出るんです。」「この間お店に来てくれた子ね。楽しそうにギターを弾く…私、羨ましかった。でも最近ちょっと楽しいことがあって。もう一度聴いてみたいな。あの子のギター。」「結真のギター、聴かれた事あるんですか?」「前に父さんの知り合いの人の会社のイベントの給仕を手伝いに行ったのよ。その時に一度ね。」
そうか!それで僕は雪さんを見かけた事があったのか。「ライブ配信したのがネットにアップしてあります。よければまた聴いてみて下さい。」
「分かったわ。じゃあ楽しみにしてるわね。」
雪は自分の気持ちに驚いていた。以前なら他の人のギターなんて聞きに行く気になんてならない。
でも翔となら、聴いてみようかな?と思った。
不思議な感情が確かに生まれていることを実感した瞬間であった。
関西国際空港にオフィスで結真のライブ配信を見ていた女性の姿があった。黒服の二人の男と一緒にゲートに到着した。