雪の音
親父さんがそろそろ僕に昼食の賄いを作ってみろと言われた。合格点が出れば店に出すことも考えてもらえるみたいだ。
僕は何を作ろうか考えた。どうせなら親父さんのような本格的な洋食…は僕にはまだまだ無理なので基本的なメニューを作ることにした。
ポークカツレツとコンソメスープを作ることにした僕は親父さんのカツの揚げ方を見て覚えたやり方がある。衣をつけた豚肉をまず低音の油で火が通るまで揚げて、少し置いてから高温の油で揚げる。そのためにフライヤーが二つあったのだった。少し冷ましてから提供しないとお客様が火傷するかもしれないから注意しないといけない!
コンソメスープは玉ねぎ、ニンジンともう一つ重要な野菜があった。セロリである。これが味に奥行きを与えていたのか…
親父さんに味見してもらうと「カツレツは揚げ時間と温度をもう少し研究したほうがいい。スープは…合格だ!よく勉強したな。それとお前さん、カツレツに少し味付けして普通にソースをかけて食べるより美味しくしてある。これは…塩だな。」
僕は笑って「そうです。塩と相性が良いと思って…スープだけでも合格で良かった。時間と温度もう少し研究します。」
僕がそう言うと、親父さんも雪さんも微笑んだ。
僕は料理の修業のためにこの店に入れてもらったが、本当にこの店で働けて幸せだと思う。
親父さんにも雪さんにも本当の家族のように優しくしてもらっている。早く一人前にならないと…
閉店時間を過ぎ、後片付けを終えて着替えた僕は店を後にした。ふと街灯が照らし出す道の先の神社の石段を上がって行く雪さんを見かけた。雪さんは何かを持っている?あれは…ギター?
僕は雪さんの後を追って石段を上がる。
石段の一番上で腰掛けて、雪さんがギターを弾く。綺麗な音色…まるでギターが語りかけてくるようである。優しい音色なのにとても悲しく聞こえる。結真のギターの音色とは何かが違う…
涙を拭っていると雪さんは僕に気づいた。
「しょ、翔くん!いつからそこに…」
「すみません、姿が見えて…雪さん、ギター弾かれるんですね。」「父さんには言わないでね。もうやめた事になってるから…」「そうなんですか…」
僕はそれ以上訊かなかった。何故ならギターの音色から雪さんの悲しい気持ちがすごく伝わってきたからだった。