第47話
「……え?」
突然響いた声に対し、私は動揺を隠すことができなかった。
何せ、私の記憶にある限り私には、このパーティーでダンスの約束をした貴族などいないからだ。
そうしていた方が、ほかの貴族をあしらいやすいとは理解していたが、男性の行方を探すことを優先しすぎるあまりに、一切準備をしてこなかったのだ。
だからこそ、私は戸惑いを隠せない状態で声の方へと振り返り──こちらに微笑みかけてくる第二王子、ライフォード様の姿に言葉を失うことになった。
「っ!?」
遠目であれば、何度か目にしたことがある整ったライフォード様の顔。
それが、自身に向けて微笑んでいる状況に、私は混乱を隠すことが出来なかった。
何故、こんなことになっているのか。
私は混乱する頭を必死に動かして状況を理解しようとする。
確かにライフォード様は、令嬢たちの憧れというべき存在だが、私は婚約者がいる身であることを考え、あまりライフォード様に近づかないようにしていた。
多少名が売れていたとしても私は伯爵令嬢で、ライフォード様に目をつけられることは無かっただろうが、殿方に近づくことをマーリスがあまり良く思っていなかったからだ。
だから、そんな私のことをライフォード様は顔さえ知らないはず。
……なのに何故、ライフォード様はこんなにも親しげに私に近寄ってくる?
「では、行こうか」
だが、そんな私の混乱など知るよしもないと言いたげに、ライフォード様は私の手を優しく掴み、広場の中心へとエスコートしていく。
ライフォード様に続いて歩きながら、未だ混乱が消えない私の頭の中、嘘をついて逃げ出そうか、なんて考えが浮かぶ。
けれど、その私の考えはライフォード様に連れられいく私の姿を見て、諦めたように去っていく貴族たちの姿に霧散することとなった。
ライフォード様にエスコートされていることが、どうやらほかの貴族達を避けるいい口実になることに気づいたのだ。
突然のライフォード様の出現が気にならない訳ではないが、今は貴族達を巻く方が先決だ。
そう、覚悟を決めた私は抵抗することをやめ、ライフォード様にエスコートされるのだった……




