第39話
ライフォード目線です。
「さ、サラリアの言っていることは、全て嘘よ!」
自身でも無理があると思いながら、そう叫ぶマルシェと、最早マルシェにまるで反応を返さなくなった会場内の貴族達。
その光景を前に、私は思わず口元に笑みを浮かべていた。
「あんな手札を隠していたとはな」
どうやら、自分がこの場所に来たのは、無駄だったことを理解して。
私が、ただの貴族に扮してマーリスの結婚式に忍び込んだのは、マーリスを監視するためだった。
だからこそ、マーリスが怖気付いて口を閉ざし、マルシェがサラリアに余計な手出しをした時、私は自身の身分を明らかにしてもサラリアを守るつもりだった。
なのに、サラリアは自身の身に降り注いだ危機をあっさりと回避してみせた。
それも、マーリスとマルシェに報いを受けさせながら。
おそらく、この後アーステルト家と付き合いを持つ貴族は激減するだろう。
マーリスのサラリアが裏切ったという発言が嘘だということは貴族達も理解している。
その上、《仮面の淑女》という王国一の商業組織を敵に回したマーリスと付き合うのは、損しかない。
そんな家と付き合おうとする貴族などいない。
辺境伯と付き合っていた貴族達も、同じく離れていくことになるだろう。
それだけ《仮面の淑女》という組織は大きいものだったのだから。
「私が今まで準備してきたこと、全てが無駄となったか」
それを理解し、私はそう呟いた。
今まで私は、辺境伯に手を出す準備に、サラリアを自身の婚約者とするための準備を整えてきた。
だが、最早そんなものはいらない。
私がサラリアに結婚を申し込んでも理解できる力が、《仮面の淑女》にはあるのだから。
つまり、私が今まで必死に頑張ってきた準備は全て無駄となることになるだろう。
「……本当に、どれだけ私の予想を超えてくるのだ」
しかし、それを理解しながら、私は顔が緩むのを抑えられなかった。
自分の創造など遥かに超えてくるサラリアは、本当にどれだけ規格外なのだろうか、そんな考えを私は抱き、けれど次の瞬間すぐにその考えを頭から振り払った。
「たしかに大きな心残りは消えたが、まだ安心するわけにはいかない。今すぐ、次の準備に取り掛かるべきか」
そう小さく漏らし、私は会場を後にするべく歩き出す。
マーリスが自分の存在をサラリアにバラさないよう、彼の自室には脅しの意味も込めた手紙を置いてある。
だとしたら、今一番きにせねばならぬのは、サラリアが《仮面の淑女》であることを明かしたことにより起こる騒ぎだろう。
「どの貴族よりも早く動きを起こす必要がある、か。さて、どうやってネタばらしをするか」
騒がしい会場を尻目に歩く私の顔には、隠しきれない喜色が浮かんでいた。
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