第37話
マルシェ目線です。
「嘘よ！そんなことあるわけない！」
そう叫んだ特、私の胸にあったのは焦燥だった。
本来であれば、私はこの場所で泣き叫ぶサラリアを眺めているはずだった。
そのために今まで準備を整えてきたのだから。
にもかかわらず、その全てをサラリアは利用してこの会場内の空気を変えた。
それだけで、私にとっては我慢ならないことだった。
私は、サラリアを貶めるためにお父様にも黙ってあの貴族達を集った。
知られれば私に甘いお父様も激怒することを理解しながら。
それでも、サラリアを貶めるために。
だが、それだけしたのにもかかわらず、私はサラリアの名誉を貶めることはできなかった。
それどころか、サラリアは私の送った貴族達を利用し、会場内の貴族達に私達に対する疑惑を植え付けたのだ。
そのまるで思い通りにいかない事態、それは私にとって非常に苛だたしいものだった。
……だからこそ、さらにサラリアが《仮面の淑女》であると明かした時、最早私は口を閉じていることは出来なかった。
「あの女のいうことは全て出鱈目だわ！あの裏切り者が《仮面の淑女》なわけがないでしょう！」
貴族達が私達に疑惑を抱いている今、余計なことを話せばその疑惑を深めることになる。
それを理解しながらも、私は感情を抑えることは出来なかった。
どうしても私は、あの忌々しいサラリアが《仮面の淑女》であることを認められなかった。
「そもそも、この場で私よりも派手な服を着ることが非常識でしょう！そんな人間は、そもそも貴族としておかしいわ！」
最早その時の私には、サラリアが《仮面の淑女》であると示す決定的な証拠がることも、頭の中にはなかった。
サラリアを何とかして貶めなければならないという考えが頭を支配し、激情のまま言葉を重ねる。
「サラリア・マーセルラフト！貴女は辺境伯令嬢であるこの私の結婚式を台無しにしてただで済むと思っているの？」
私はそう叫びながら、サラリアの側にいる自分の手の者である貴族に目を向ける。
私の言葉に同調させ、サラリアを一緒に貶めるために。
………しかし、若い貴族達はその私の視線に気づかなかったような素振りをして、サラリアに頭を下げた。
「さ、サラリア嬢、先ほどの勘違いを謝らせてほしい！私の本意ではなかったのだ！」
「そうだ！私たちは嫌だったのだが、辺境伯令嬢であるマルシェ嬢に強要され、抗うことなどできず……」
先程言い寄っていた剣幕が嘘のように、若い貴族達がサラリアに謝罪をし始めたのは、次の瞬間のことだった……
