第34話
「なんで、それを……」
数巡の後に、ようやく自分の秘密を暴露されたことに気づいたらしい若い貴族が、掠れた声でそう私に尋ねてくる。
そんな彼の姿に、私は思わず呆れを覚える。
何故、罠があると分かりきっているこの場所に、対策もせず私がくると思い込んでいたのかと。
マルシェの傘下の貴族、彼らの弱みを私はこの結婚式にまで調べていた。
マルシェがなにかを仕掛けてくるとすれば、それは傘下の人間を使ってだと分かりきっていたからこそ。
もちろん、だからといって現在私を貶めようとしているマルシェ傘下の貴族のすべての情報を私は理解できていない。
結婚式に招待されてから、結婚式が始まる期間だけでは、圧倒的に時間が足りなかったのだから。
ある伝手のお陰で、他の貴族の弱みをかなり知っている私ではあるが、それでも数日で全てを知り尽くすのは不可能だったのだ。
「アーゼラム家、アイリム様。貴方様を誑かした覚えは私には無いですわ。──強いて言えば、昨年のアーゼラム家の失敗に微力ながら協力させて頂いたことでしょうか」
「なっ!」
だが、それでも私の中に不安は無かった。
最初の貴族の弱みを暴露した時と同じように、淑女然とした笑みを浮かべながら、口を開いた。
そんな私に、アイリムと呼んだその貴族の顔は、先ほどの貴族と比にならぬほど青く染まる。
「す、すまない!ど、どうやら、私の勘違いだったようだ!」
次の瞬間、その貴族は懇願にも似た、謝罪を告げた。
それは明らかにおかしな状況だった。
相手を売女呼ばわりしておいて、勘違いで済むわけが無いのだから。
「あら、そうでしたか」
「ほ、本当にすまない」
しかし私は敢えて笑顔で彼を許す。
彼を許すことで、引き起こるだろう状況を狙って。
「そ、その、サラリア嬢。私も勘違いしていたみたいで……」
「わ、私もだ!」
私を貶めていた他の貴族が、次々と勘違いと言い出したのは次の瞬間ことだった。
それが私の狙いとも知らず、若い貴族は頭を下げて謝罪をし始める。
── 私が弱みを握っている貴族は、後一人二人しか居ないことも知らずに。
「お気にならなくても大丈夫ですわ」
内心、思い通りに発言を撤回してくれた貴族達に笑みを覚えながら、私はそれとなく辺りを見回す。
先程まで、私に白い目を向けて来た貴族達は、今や唖然とした表情を浮かべてこちらを見ていた。
それを見て、私は決断を下す。
今が最大の好機であることを。
「そういえば、一つ皆様にもお聞かせしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
その判断のもと、私は勝負に出ることを決断して口を開いた。




