第3話
マーリス目線です
「くははは、あのサラリアがここまで惨めな姿を晒すとは!」
サラリアが去って少ししたあと、私は優越感に浸りながらそう笑う。
出ていく前のサラリアの表情、それは鮮明に私の脳裏に鮮明に残っている。
その表情を自分が彼女にとらせたという事実は、私に強い優越感を覚えさせるものだった。
今でこれだけ衝撃を受けているが、この件の真実に気づいたときどんな表情を浮かべるか、その考えがさらに私に愉悦を覚えさせる。
「本当にあの女は情けなくて馬鹿ですわね。自身がマスリー様に捨てられたことにさえ気づかないなんて」
隣にいたマルシェが、私に同調するように言葉を重ねたのはそのときだった。
そう、実のところサラリアが浮気などしていないことなど私は理解していた。
それどころか、先程浮気相手だと映し出した男性とサラリアは、少し話すだけの関係でしかないことも知っている。
それらを全て理解した上で、サラリアを貶めるために私は彼女を裏切り者に仕立て上げたのだ。
全ては、辺境伯の令嬢であるマルシェと婚約するために。
辺境を領地とするが故に、辺境伯は合法的に戦力を有することを許されている。
つまり、辺境伯は侯爵家に次いで物理的な力を有する貴族で、だからこそ私は自身の目的とのために辺境伯との伝手を得たいと望んでいた。
幸運なことに、辺境伯の愛娘であるマルシェは私に想いを寄せており、辺境伯よとの伝手を得るのは難しくないように思えた。
……それを妨げたのが、婚約者であるサラリアの存在だった。
別に一夫多妻が認められていないわけではないが、このまま行けば先に婚約しているサラリアの方が正妻となり、マルシェは側室となる。
だが、本来伯爵家のサラリアよりも格が高いマルシェは、そのことを受け入れようとはしなかったのだ。
── だから、サラリアが一方的に非難されるやり方で、彼女との婚約を破棄しようとした、それが今回の一件の真実だった。
「ここまで上手く行くとはな。所詮あのサラリアも口だけだったということか」
そこまで考えて、私はもう一度笑う。
サラリアは、決して無能ではなかった。
にも関わらず、今回はあっさりと騙されていて、その姿に私は再度笑いを浮かべる。
今まで、他の人間と違って自分に意見してきたサラリアの姿を思い出し、溜飲が下がる。
「最終的に、あの女も馬鹿でしか無かったということか」
……しかし、そう嘲笑を浮かべた私は気づいていなかった。
自分が手放したのが、どれだけ大きなものだったか。
そして、今回の件で決して相手にしてはならない存在の逆鱗に触れてしまったことを。
それを私が気づくのは、最早手遅れになってからだった……