第21話
ライフォード目線です
「マーリス様、いったい何が………え?」
マーリスに釘を刺し、部屋を後にした私だがそのまま屋敷を後にすることはできなかった。
部屋を出て廊下を歩いている途中、辺境伯令嬢マルシェとばったり出くわしてしまったのだから。
足音をマーリスのものと勘違いしたのか、笑顔で少し前にあった扉から顔を出したマルシェは、次の瞬間その顔に驚愕を浮かべ固まった。
その時になり私は、最初頭に被っていた帽子は手にあり、サラリアに会うときにしている変装もしていないことに気づくがもう遅い。
「ら、ライフォード様?」
私の正体は、あっさりとマルシェに気づかれることとなった。
一瞬、マルシェに正体を看破されたことに私は焦燥を覚える。
二年前、辺境伯のパーティーに訪れた際、自分のことを追いかけ回してきた この令嬢に私は苦手意識を抱いていたからこそ。
だが直ぐに、今の状況ではサラリアが自分にちょっかいを出せないことに思い付く。
何せ、マルシェは婚約者をもつみだ。
気軽に他の男性を誘惑できるわけなどないのだから。
「失礼」
だからこそ、私はそれだけを告げて未だ正気の戻らないマルシェの脇を通り抜ける。
「な、何でライフォード様がその服を……」
しかし、マルシェが思わずといった様子で漏らしたその言葉に、私は足を止めることになった。
今私が身につけている服は平民のもの。
確かに王族である私が身につけていれば、驚くのも仕方ないかもしれない。
けれど、マルシェの動揺の理由は明らかにそれではなかった。
──マルシェの反応は、見覚えのある服を私が来ていたからのものだった。
次の瞬間、その事の意味を理解して私はマルシェへと振り返った。




