第15話
今話まで、マーリス目線です。
次回から、ライフォードに視点変更します。
「あ、ああ……」
先程、王子に向かって告げた、殺害予告ととも捉えられる言葉が私の頭の中蘇る。
……そう私は王族、それもよりにもよって第二王子ライフォード様へと、殺害予告をしてしまったことになるのだ。
その事実に私はあっさりと冷静さを失い、反射的に言い訳をしようと声を上げる。
「ご、誤解で……っ!」
だが、私が発せられた言葉はそれだけだった。
自分が言葉を発した瞬間、ライフォード様の目に宿った怒気。
それに気づいた私は、もはや何も口にすることができなくなってしまう。
王子に怒りのこもった目で見つめられる今になって、ようやく私は理解する。
ライフォード様は、自分に何故かは知らないが、怒りを覚えていて、今から言い訳することなど無意味でしかないことを。
「………あ、」
私の背中に嫌な汗が吹き出し、私は呆然と辺りを見回す。
何故、こんなことになったのか、その理由を探すように。
……それだけの動揺が仕方ない程、ライフォード様に目をつけられるのは最悪のことだった。
第二王子ライフォード。
病弱な兄と違い、有能で次期国王だと囁かれる存在。
そんな彼に睨まれることは、貴族にとって考える限り最悪の事態だろう。
現国王様に目をつけられるよりも。
「ほう。私を勝手に不貞の相手として認定した人間が、これしきのことでここまで動揺するとは。どうやら、想像以上に愚かだったらしい」
「………え?」
その状況に、動揺する私を正気に戻したのは、隠そうともしない嘲りの含まれた、ライフォード様の声だった。
その声にようやく頭の動き出した私は、自分が何をしていたか、何故ライフォード様がここまで自分に怒りを露わにするのか、その理由をようやく思い出す。
……自分は知らなかったとはいえ、恋人を貶めるためにライフォード様を利用していた、そのことを。
「ぐっ!」
そのことに気づいた瞬間、私は何故こんなことになったのだと叫び出したい衝動に駆られる。
本来であれば、サラリアの浮気はたった一人の平民を殺すだけで闇に葬れるはずだった。
そうなるように念入りに準備もしてきた。
なのに何故、自分はこうして最悪の相手に目をつけられる事態となっている。
「苛立ちを覚えているのか?」
そんな私の内心を見抜いたように、ライフォード様はこちらへと笑う。
その目だけは、怒りの炎を燃やしながら。
「同じだな。私も非常に苛立たしくて仕方がないんだよ。なあ、アーステルト伯爵令息マーリス。──私を不貞相手に仕立て上げ、殺害予告までしたその責、どう償うつもりだ?」




