第10話
マーリス目線です。
私の言葉に、返答できなくなった父の姿。
それを見て、私は口元に嘲りの笑みを浮かべる。
最早父は、何を言おうがこの状況を覆せないと確信して。
そう、それこそがサラリアとの婚約破棄の後、早々にマルシェとの婚約を結んだ理由だった。
マルシェの父である、現辺境伯当主は決して頭のいい人間ではない。
彼に甘やかされたマルシェの存在が、その辺境伯の能力をありありと示しているだろう。
そんな先を見る能力のない貴族の娘との婚約を、不当に解消すればどうなるか、それは火を見るよりも明らかだ。
マルシェを侮辱されたと考えれば、辺境伯はその雪辱を晴らすためにどんな手でも使うだろう。
その先、何が起こるかも考えずに。
それが理解できるからこそ、もう父にはこの婚約に介入する事ができない。
今から手を出せば、最悪の結果になりかねないと理解しているからこそ。
そんな父の姿に、私は嘲りを覚える。
本当になんて愚かな父なのだろうか。
やはり、優秀である私が早々に当主になった方が、アーステルト家の為になるに違いない。
そして、マルシェと婚姻が正式なものとなれば、アーステルト家の当主の座は直ぐに私のものとなる。
「何もないのでしたら、これ以上の話は無駄のようですね」
愉悦で歪んだ口元、それを父から隠す為にそれだけ告げて私は背を向ける。
「……マーリス、何故お前はサラリア嬢との婚約を破棄した?」
だが、そんな私を引き止めるように、父はそう口を開いた。
父は本気で疑問に思っているような口調で、言葉を重ねる。
「あの辺境伯の娘よりも、サラリア嬢と共にいた方が、良いことがお前に分からないわけが無いだろう?」
「………っ!」
……その父の言葉に、自分の中から今まであった愉悦が消えていくことに、私は気づく。
「このアーステルト家がここまで栄えたのは、全てサラリア嬢のお陰だ。何故お前は、彼女程の才女を婚約破棄した?今のお前があるのも全て……」
「煩いっ!」
「っ!」
次の瞬間、私は感情的に父へと怒声をあげていた。
その私の言葉に父が目を見開き、絶句するのが分かり、私の胸にやってしまったという思いが浮かぶ。
「……最早何もすることができない負け犬の強がりをぐちぐち聞かされるのは迷惑なんですよ」
最後に、自分が感情的になってしまったことを誤魔化すようにそう吐き捨て、私は部屋を後にする。
……けれど、その言葉に含まれた気まずさまでは、誤魔化すことができなかった。




