負の天鎖
さらに一月程経っただろうか。
判然としないが、そういう事にしておこう。
体は割と動けるようになった。といっても手足をバタつかせる程度で、寝返りすら打てないが。
やはり生前に比べればボンヤリとしか見えない上に、首が座らない為か頭を振れず、視界も狭い。
それでも初日と比べれば雲泥の差だが、たぶん普通の赤ん坊より貧弱なのだと思う。
母であるエリザと、いつも傍にいるメイドのリューネも俺があまりに動かないので心配していた様子だ。
観察する限り、この2人以外は殆ど部屋の出入りがない。
父らしき男性も初日以来顔を出していない様だがどういう事だろう?
この期間に俺ことアルフの活動は、自分の持つスキルに対して《解析》を使う事に終始していた。
これから先どう生きていくかを決める為に、自分の情報を最優先で調べるべきだと考えたのだ。
スキルの詳細を調べるには、まず自分のステータスを、次に調べたいスキルを《解析》するので、必ず2回分の魔力を使う事になる。
現状の俺の魔力だとそれだけで気絶してしまうので、昼と夜、それぞれ寝る前にスキルを使って気絶する事で、効率的に調べて行った。
魔力が身体から抜けると倦怠感と苦痛に襲われる。これは今でも耐え難い感覚だが、何度もスキルを使っていると徐々に慣れてきた気がする。
そこまで無理をする必要もなかったが、スキルを調べるくらいしかやる事がなくて暇だというのもある。
そもそも、ユニークスキルはともかく、通常のスキルは何一つ取れずに終わった筈だが。俺はいつこれらの見慣れないスキルを取得したのだろう?
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名前 アルフレート・ブロンベルク
種族 人族
性別 男
職業 無職
年齢:0歳
LV: 1
HP:1 (15)
MP:1 (7)
筋力:1 (8)
魔力:1 (6)
耐久:1 (4)
敏捷:1 (5)
器用:1 (8)
運:100
【固有スキル】
《負の天鎖》
【ユニークスキル】
《解析》《生活魔法+》《成長性拡大》《言語理解》
【スキル】
直感Lv2 不屈Lv5 身体強化Lv1 視覚強化Lv1
聴覚強化Lv1 思考加速Lv1 苦痛耐性Lv3
精神耐性Lv3
【称号】
転生者 *** ブロンベルク公爵家
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これが今の俺のステータスだ。
能力値が1なのは相変わらずだが、よく見ると、括弧の中の数字が一部上がっている。理由は分からない。
スキルも少し増えていた。『視覚強化』と『聴覚強化』だ。
これは、目と耳の悪さに辟易し、頑張って周りを見ようと注視し続けていたら、ふと鮮明に物が見えるが出来るようになった。
しかしそれも一瞬の事で、体から何か放出したような苦しさを感じた途端、気絶してしまった。
また周囲の声を聞き取ろうとしたときにも同じような流れで、一瞬だけ聞こえやすくなったと思ったらすぐに気絶した。
《解析》スキルを使ったときと似たような感覚を覚えたので、おそらくこれはスキルか何かで魔力を使った事が原因だろうと予想した。
その日にステータスを確認したらそれぞれのスキルが増えていたので、それがあの時芽生えたものだと判明したのだ。
今現在で調べ終わったスキルをまとめてみる。
『直感』…第六感により物事を判断する。
『不屈』…忍耐力が強化される。理不尽に抗い、限界を超えて耐え続ける事が出来る。
『身体強化』…魔力を消費する事で身体能力を強化する。レベルに伴い魔力効率が向上する。
『思考加速』…思考速度が向上する。
《成長性拡大》…保有者自身の能力に対してあらゆる成長性を拡張する。
名前だけでは分かりづらいスキルを優先して調べた。それでもやはり説明が不十分で、何に役立つのか分からないスキルもある。
《言語理解》に関してはは既に恩恵を得ているので今調べる必要はないだろう。
『視覚強化』『聴覚強化』は実際に使ったし、耐性系のスキルも字の如くだと思うので後回しだ。
そして今、一番気になっているのはこれだ。
《負の天鎖》…%rm#A€を司る鎖。<$鎖またはその帯に触れている物に対して÷Q/¥aj°を強制する。また鎖に囚われたものの潜在力を任意で解放する。
【固有スキル】。
母エリザのステータスには欄すら載っていなかった。単に《解析》では表示されないだけ、かも知れないが。
おそらく、ユニークスキル以上に特別なスキルなのではと予想している。
そして、俺の今のステータスには、あの時ミスで獲得したはずの《昇華付与》というユニークスキルが何故か表記されていない。
これは『直感』スキルのおかげなのか分からないが、あのスキルはこの固有スキルに吸収されたのではないかと思っている。
元々のスキル名には『天』という文字は見当たらなかった筈なのだから。
ミスとはいえ元々はこの固有スキルに干渉させる為に選んだのだから、吸収されていたとしてもそう不思議ではないだろう。
文字化けが気にはなるが、このスキルを鑑定して内容を知った今、予想が正しければ俺はこのスキルを一度使ってみる必要がある。
正直、文面からは危険な匂いしかしないが、おそらくここで躓けば前には進めないと感じた。
…部屋には今誰もいない。真夜中なのでメイドも出払っている。
これからスキル使用によって何が起こるか分からないからな。最悪、バレたら一騒動起きる可能性もある。
軽く深呼吸をして気持ちを落ち着け、覚悟を決めた。
己の固有スキルを発動する。
(《負の天鎖》…!)
「かはっ…!?」
瞬間、俺は嘗てない苦痛に襲われた。
脱力感、嘔吐、頭痛、あまりの想像を絶する苦しさに気絶する事すら許されなかった。
生前ですら感じた事の無いような激痛。身体だけでなく、心が掻き乱されていく。生命が脅かされるような感覚があった。
叫び出したいのを押し殺して必死に堪えていたが、すぐに耐えられなくなって泣き出してしまった。
ある意味で幸いなことに、すぐに呼吸すら圧迫されたので、声が部屋に響かずに済んでいた。
酸素を供給出来ずに血管が浮かび上がり、内からは引き裂かれそうな痛みと悍ましい悪寒が身体を巡る。
破裂しそうで、壊れてバラバラにされそうな恐怖が迸る。
ぐっ…!
このままでは死んでしまう。というか既にまずい。…
苦しい…
なんでもいいから、この苦痛を無くしてくれ!!!
そう強く願ったとき、身体から重さが消えた気がした。
息も絶え絶えの中で閉じていた目を開くと、視界が何処か変わっていた。
いや、どうやら目の前の景色に変化はないようだった。
そこには存在しない、目には見えていない筈なのに、己のの周囲には轟くように浮かぶ『鎖』があったのだ。
目を向けずとも何故か分かってしまう。
色を持たないが、薄暗くそれでいて輝いた鎖が身体に緩く巻かれており、何重にも雁字搦めにしている。
縛られた場所から、1本だけ鎖の先端が浮かび上がり、1mほどの長さで宙を揺らめいていた。
鎖には不思議と存在感を感じなかった。意識を逸らすと消えて見えなくなってしまいそうだ。
試しに目を閉じてみた。それでも鎖だけは意識するだけではっきりと知覚できた。
やはり、目で見えているわけではない。
そして気づけば先程まで襲っていた筈の苦痛が、嘘のように引いていた。
いや、苦痛が無さすぎる…?
むしろ普段よりも体が楽かもしれない。
もしかして、この『鎖』が緩んでいるからか?
不思議な事に初めてそれを目にしたのにも関わらず、その『鎖』が今までずっと自分の傍にあったように感じられた。
この鎖こそが前世から常に自分を苦しめ、陥れてきた呪いそのものであり、不幸を齎した「元凶」なのだと、己の直感が囁いた気がしたのだ。
これさえなければ、自分はもっと楽に、苦しむ事なく前の人生を謳歌出来た筈だ。
そうであるのに、今は不思議と恨みや憎しみがまるで湧き上がって来ない。
この鎖からは既に害意を感じず、むしろ長年を共にしたという愛着だけが残っている。
過去はただの呪いとして存在したのかも知れない。
しかし今のこれは自分の体の一部であり、紛れもなく自分の『力』であると自然と理解させられた。
意を決して、鎖に対して「一度離れてくれ」と念じてみる。
すると己の意思に呼応する様に、身体に巻き付いた鎖が抵抗もなくシュルシュルと解けて行く。宙空へ浮かび上がり、周囲を取り巻いた。
それと同時に、俺は今まで抑圧されてきたものが一気に花弁いていく、嘗て無い解放感と喜びを味わった。
(《解析》)
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名前 アルフレート・ブロンベルク
種族 人族
性別 男
職業 無職
年齢:0歳
LV: 1
HP: 27
MP: 20
筋力:11
魔力:9
耐久:5
敏捷:7
器用:9
運:100
【固有スキル】
《負の天鎖》
【ユニークスキル】
《解析》《生活魔法+》《成長性拡大》《言語理解》
【スキル】
直感Lv3 不屈Lv6 身体強化Lv1 視覚強化Lv1
聴覚強化Lv1 思考加速Lv1 苦痛耐性Lv5
精神耐性Lv4
【称号】
転生者 *** ブロンベルク公爵家
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果たしてこれは夢なのだろうか。
世界の見え方がまるで違う。地獄から天国に急転したのではないか。こんな安らぎを俺は知らない。
生まれて初めて束縛から解放された。
ステータスが何倍にも上昇した事で信じられない程に身体が楽…いや言葉では形容出来ない強烈な快感を得ている。
気力が満ち溢れ、脈動している。
(最高の気分だ…)
すべてが報われた気がした。
今まで逃れたくて堪らなかった苦しみ。
もうこれからは脅える必要はない。
俺は歓喜に打ち震えた。




