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天界では



「何!異界の魂が紛れ込んだだと?」



天界。異世界アルカディアを構成し、維持管理を行う。その為だけに起源より残された場所。


金髪の女性が中年の容姿をした男性に報告を行っていた。



「はい!といっても初めは一つだけだったのでそれ程気に留めてはいなかったのですが…。迷い人には過去に天災級の人物もいたので一応調べてみたら、転生手続きが為されていたんです!

勘違いだと申し訳ないのですが、ここ直近で異世界からの転生なんて案件はありませんでしたよね…?」


「そのはずだが…。一度データを確認してみるか…、やはりないな。召喚による転移は度々発生しているが、転生となると4年前程に次元の狭間から運悪く紛れ込んだ魂に対して一度処理を行ったきりだ。

無許可で魂を送ってくる、しかも転生処理を完遂した状態で等、今までどの世界の神でも行わなかったはずだが。これでは規律も何もあったものではないな」


男性は嘆いた。

こちらの世界で転生者が一人生まれる、それだけの事だ。世界に影響があろう筈がない。今までにも異世界からの転生は何千何万と行われて来たのだ。


この世界は魔素という粒子が満ちており、その影響で魔物が自然発生しまう。

その為人類は魔物の討伐に追われ、文明を発展させる余裕がなくなりがちだ。


運良く先進的な文明が築けたとしても、力を求める人間の性がそうさせるのか、戦争で滅ぼし合い、壊し、退化してしまう。


その為この世界を発展させる為に定期的に異世界からの魂を取り入れ、異界の知識を広めてもらう。または異世界人に対して協力を仰ぎ、一時的にでも平和を生み出す事に尽力してもらう事によって今の安定を保っているのだ。


「どこの世界の馬鹿神が送って来たのかは分かるな?場所を特定しろ」


だが、異世界人とは利益を生み出す一方、危険な存在でもある。

過度な知識は身を滅ぼす。異世界ではちょっとした知識が、この世界では劇薬であった事など数えきれない程だ。


また、異世界人自体が善人であるとは当然限らない。転移または転生する過程で特典が生じる為、この世界の人よりも力を持っていることが多い。

前世で抱えた欲望が暴発し、悪行を働く可能性は高いのだ。


それを防ぐ為に、天界のほうで異世界人に対し最低限の監視措置を済ませた上で転移、転生を行う事が必須なのだ。


より重要な人物と判断した場合、直接天界に魂を呼び込み、面接のようにしてその危険度を測る。


善良だと判明した場合は褒美をとりつけて依頼を行うこともある。

明らかに危険だと感じれば、注意勧告を行った上で厳重な監視体制をとる必要がある。


これらは他の世界の神も大小あれど同じ事をしている。まるで交易のように、交渉を行いながら各世界の魂をやり取りする。


その際、無秩序に管理をせず魂を行き来させれば、世界の崩壊を招く事に成りかねない。

その為異世界間の魂の移動については、交流する全世界で共通の、様々な決まりごとを設けている。


従って、事故を除いて神を通さずに魂が流れ込む等ありえない。

今回は転生処理が向こうの世界で行われている。事故ではない。


つまりどこかの神が掟破りを行い、魂を送り込んで来た筈なのだ。

禁忌ともいえる行為。信用を失い、この世界のみならず、他の世界とも交流が出来なくなってしまう。


「は、はい…いえ、場所は判明しています。いえ、信じられないのですが、あの…。記録上は地球から…でした」


「地球だと!?あり得ん!!」


男性はどこかの世界の神が嫌がらせか、または余程間抜けだった為にこちらの承諾を得ずに魂を送り込んだのだと予想していた。

どのように苦情を送りつけようか考えていたくらいだ。


だが地球に関しては、それは起こり得ないはずなのだ。


地球、名前の忘れ去られた世界。魔法の存在しない世界。


ここから来た異世界人が「地球」と言った為、そう呼ばれている。

平和な国が多くこちらにない知識が豊富な為、魂を呼び込む事を奨励している。


その世界には神が既に存在しないのだ。真偽までは分からないが、世界維持管理システムのみが残されていると聞く。


神がいない世界とは、こちらの世界に魂を取り込む上でとても都合がいいのだ。何せ了承をとらずともこちたのリソースを消費するだけでいくらでも呼び寄せる事ができるし、この世界から魂を送り出す必要もない。何より揉める事がないのがいい。


その為アルカディア世界の人間が異世界人の召喚する際、必ず地球から招かれるように天界のほうで調整が加えられている。


「確かに地球からの異世界人は多い。だがあの世界はここと直接繋がっているわけではない。召喚された場合でも必ず天界を経由する必要がある。

迷い込む事もなければ、神がいない以上次元の壁を超えて送られて来る事はない筈なのだ」


「でも間違いなく、その地球で転生処理が済まされているようなのです!私、あの世界にそんな機能が残っていた事にビックリですよ」


「そうだな…。神がいない事が間違いない筈だが、正直あそこはブラックボックスだ。交信すら出来ないから、こちらにやって来た異世界人の口伝でしか情報が入らない」


地球からの魂がただで手に入った事自体は喜ばしいことだ。それに地球人が何人もいる以上、最低限の情報はある。過剰に危険視するべきではない。

しかし問題なのは。


「転生と一言に言ってもあの地球での処理となると、異世界人にどんな能力が付与されているか予測がつかん。前例がない以上、危険なのは確かだ」


どんなチート級の能力も、危険はあれど対策が取られている。

世界のバランスが傾くくらいであればともかく、それが滅亡のきっかけや天界に力が届きうる場合には、事前に察知され封印措置が為される。


かの魔王も人類を滅ぼす可能性はあっても、世界崩壊まで起こす事はシステム上不可能なのだ。


だが未知の能力が付与されているとしたら。

システムの力は通用しない。

神は下界に降りることが出来ないので、対処し切れない可能性がある。


今回はそういった意味で不確定要素が強い為、放置してその人物を一人歩きさせるべきではない。


「何にせよ、原因を調査しなければならない。天界を経由せずに送られた以上、その魂の行き先は不明だが、その魂の状態は他に特定出来たのか?」


「いえ。下界を通過した際に辛うじて記録が残されていたので、地球から処理の必要のない転生体が侵入した事までは判明したのですが…。それ以上は何も分かっていません」


「そうか…。記録が誤認する事はない、やはり転移ではなく間違いなく転生だろうな。既に母胎に入っているとなると魂が変質しているだろうから簡単には見つけられん」


「はい」


「お前、なんとかして探し出せ」


「はいっ!!?」


女性は驚愕した。

ただ不審な事があったようなので規則に則り報告しに来ただけ。前例のない事態といったところで実際は魂が一つ転生するに過ぎない。


他の神につけこむ材料が出来れば、男は交渉が有利になる。自分の査定も上がる。ウィンウィンだと思っていた。


しかし報告を始めているときに改めて部下から受け取った資料を読むと、地球からの魂だと気が付き、今回は無駄骨だったと感じた。


一緒に悩んでいるふりをして、要注意ですね!と済ませて後は帰って寝るだけだと思っていたのだ。


「無害な者であればいいが、後手に回っては取り返しのつかない事にも成りかねん。

今ならまだ魂が変質仕切る前に発見すれば、地球人だと特定できるやもしれん。

特殊な能力を使ったり異常な強さを見せる幼児を虱潰しに探す必要があるな。念入りに下界を確認しろ」


「わ、わかりました」


「あと、同じ地球産の異世界人をマークしておけ。同郷なら接触する可能性が高い」


「は、はい。うう…、やっと先輩と交替で管轄者に選ばれたと思ったらこんな事に。なんで私の代で変な事が起きるんですかぁ」


女性は決めた。部下に丸投げしようと。

直属の者に大まかな監視を任せ、下界に降りられる者を走らせて調査してもらおうと。


次に地球から異世界人が来たら、探すのを手伝ってもらうのも有りだ。


「では、直ちに調査を行います。失礼します」


「うむ、任せたぞ。最上位女神として世界の維持に努めよ」


女性は退出した。

下界で唯一、神が立ち入る事を許され。人間界を観察する事のできる、神層へと。





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