ロボットの彼女
そのロボットは、とある百貨店にバレンタインデーに展示されていました。
彼女はまるで誰かを待っているかのように動くよう、プログラムされていました。
夢見るような瞳、ほんのりと赤い頬。 彼女はきっと恋人を待っているのでしょう。
美しく可愛らしい彼女。
恋人が現れたとき、彼女はどんな風に微笑むのか知りたくなります。
けれど、彼女が待ち人にほほ笑むことは、永遠にありません。
なぜなら彼女の待ち人は、永遠に来ないのですから…。
そんなはかなさが、彼女を更に美しく見せていました。
彼女の姿は、そこを通る様々な人が見ていました。
サラリーマン、カップル、主婦…。
彼らは彼女の前を通り過ぎながら、口々に色々なことを言います。
「人間みたいだな…」
「私の方がかわいいでしょー」
「あら、最近はこんなものまでつくれてちゃうのね…」
エトセトラ、エトセトラ…。
彼らには彼らの日常があり、彼女のことなど通り過ぎたらすぐに忘れます。
彼女はどこまでも、むなしい、不幸せな無機物でした。
しかし、よく見てみると、彼女の前でずっと立ち止まっている一人の少年がいることに気づきます。
彼の眼は真剣で、どこか…どこか、夢見るような、決意に満ちてるような、そんな不思議な表情を顔に浮かべて、飽きずにずっとそこで見ているのです。
次の日、ロボットの彼女はそこにいませんでした。
少年は、またそこに来ていましたが、彼女がいないことに気づいて、そのフロアのインフォメーションセンターのお姉さんに、
「あの子は どこにいったの?」
と聞きました。
するとお姉さんは答えます。
「あれは撤去したの。バレンタインデーは終わったから…気に入ってたの?」
「ええと…いや、いいんだ」
少年はそう言って、とぼとぼと帰って行きました。
それから、二十年後、少年は研究者になりました。
立派な青年に成長した彼の前には、あの時の彼女によく似たロボットが様々なコードが伸びる複雑な機械に繋がれて座っています。
彼女は、あのときの彼女によく似てはいるものの、肌の質感や、目 を瞑って座っている姿を見ると、まるで人間にしか見えません。
そう、少年はロボットに関する技術を研究する学者になったのでした。
かつて少年だった彼は、今日、研究の集大成を迎えます。
人間と同じようなレベルの人工知能を持ったロボットを作る。
それが彼の仕事でした。
その仕事は、今日、完成しようとしているのです。
そして彼は、決死の覚悟で彼女の電源をいれました。
彼女は、複雑な椅子の上で、ゆっくりと、それこそまるで人間のようにまぶたを開けます。
彼女の瞳は、目の前に立つ彼を認識し、 それから静かに口を開きました…。
**
インフォメーションセンターのお姉さんは、すごすごと歩き去る少年の背中があまりにもさびしそうだったので、彼を引き留めようと声をかけました。
「待って!」
「……なに、おねえさん」
「あのロボット、どこにあるか、知りたい?」
「おしえてくれるの?」
「ええ、知りたいなら…公表されてるから、教えられるわ。ちょっと待って」
そう言って、お姉さんは彼に、ロボットのある場所を書いた紙を手渡しました。
そこにはある大学の、ある研究室の電話番号も書いてあります。
「ここにあるわ。この教授が作ったらしいけど…」
「うん、ありがとう!」
そう言って、少年は百貨店を出て行きました。
その後ろ姿は先ほどまでとは打って変わって、嬉しそうに弾んでいました。
お姉さんはそれを見送って、自分の業務に戻りました。
道に迷った人を、行きたい場所へと案内するという、その業務に。
***
ロボットの彼女が開口一番、言った言葉は、
――お久しぶりです。
立派な青年になった彼は、その瞬間、 まるで少年のように笑いました。 あの頃の、少年のように。
結構前に、新宿にある百貨店に飾られてたロボットを見て、ぱっと頭に浮かんだ話です。
六、七年くらい前だったような気がします。
あのロボット、見て覚えている人はいますか?
まさにバレンタインデーだったと思うんですが……。




