CODE5:始動
舞台は人の気配が一切無い交差点、見通しはかなり良いが反面動きやすい為、執拗に狙われる可能性が高いのは確実と言えるだろう……俺は鞄から手袋を取り出して両方にはめ込み、炎を出した。そして間合いを一気に詰める為に相手側へと駆け込んでいく。だが相手側はピクリとも動かず指先を銃のような構えをして俺に標準を定めてきた。俺はそれが危険な物だと判明し、相手側が異能を使う瞬間に横へと倒れ込んだ。くそっ、どうやら相手はビーム系統を扱うみたいだ。厄介な相手に出くわしたものだ。
「そんなんじゃあ、間合いを詰める前に僕の自前のレーザービームで穴が開きまくりますよ~」
相手はヘラヘラと笑いながらこちらに挑発を仕掛けてきた。俺はその挑発に乗らず冷静に考えることにした。
「この場所だと格好の的だな。こうなったら」
俺は広い交差点を抜け出し、路地を目指すことにした。相手はその行動にヘラヘラと笑いながら指先にレーザービームを照射した。俺は全力で逃げることに専念するが肩に焼き焦げた匂いがすることに気づいた。
「直撃したら、完全に命が無くなるな。それまでにはなんとしてでも逃げ切らなければ……」
俺は後ろの相手の攻撃を目で見ながらかわすことは不可能だと悟り、急いで横の路地に突っ込んだ。これで視界はある程度防げる筈だ。
「へぇ、面白いことをするねぇ」
相手はそう言いながらもビームを乱雑に照射してきた。コイツ……街を壊す気か
「どこに逃げようが無駄だよ。さっさと君の口からTGの居場所を吐かせないと……いつまでたってもこの下らない仕事が終わらないんだ。だから早く正体を見せなよ」
TGは恐らくTARGET、標的の略か。妙な隠語を使うな……いや、そんなことを考えている場合では無い。今はコイツをどうかすることが最優先事項だ。
「俺の現状は近距離武装のみか……あの男からコピーした異能も少なからず近距離に当たる。対して奴は遠距離のレーザービームを持っている。まともにやりあえば」
勝ち目は無いに等しい。だが必勝法は必ずあるはずだ。だからまずは奴の動きを様子見することに決めた。
「どこに隠れていようが無駄なことさ」
相手はお構いなしにビームを照射してきた。今はまだ見つかってはいないが見つかって捉えられた瞬間、俺は一瞬で亡骸となるだろう。俺はビームの照射音を聞きながら、対策を考える。急がなければ命が危うい……
「にしても、人の気配が一切しない。この場所は何か施されているのか?」
人を追い払う魔術みたいな物を施しているせいか、人の姿が一切見えない。奴の目標は悪魔でもTG……葉月桜だけということか。
「やれやれ、逃げるのがお上手だね!こうなったらトコトン潰すとするかぁ!」
ビームの照射音が激しく鳴ったため、ふと上を見ると空から降り注いでくるのが他の建物に直撃する音が聞こえた。
「アイツ、建物を次々と……これ以上長引かせたら建物が殆ど壊れるな」
俺は狭い路地から一旦外に出て、どこにでもよくあるビルに入っていった。ビルの中は夕方の時間帯にも関わらずそこらにあるインテリア以外、人の姿はやはり居なかった。俺は人が居ないことを確認するとすぐに階段口を目指して二階に駆け上がっていく。そして二階に到着たらすぐに曲がり角を左に曲がって、部屋に突入して窓から相手を確認する。運良く相手を見つけられた。
「ここから、やるしかないな」
覚悟を決め、胸ポケットに予め挟んでおいたシャーペンを手に持ち、異能を使い槍に変えた。いよいよあの男から貰った異能が役立つな。窓を開け、狙いをしっかりと相手に定めて相手が立ち止まる瞬間に全てを賭けることにした。その間、俺の鼓動は尋常になく緊張感が高まっていた……
「早く、立ち止まれよ」
俺は奴に念を送り、ひたすらチャンスを伺うことにした。そして数分後ようやくチャンスが訪れた
「今だ!」
右手で槍を大きく振りかざし相手側に投げつけた。その槍は一直線上にズレることなく飛んでいき相手のかかとに直撃させることが出来た。
「上か!」
相手は一瞬怯みそうになったが、反撃するためにこちらに振り向いて照準を定めて照射してきた。その前に俺は横に避け、なんとかぎりぎりのところで回避することが出来た。その後、俺はすぐに部屋を出て一階まで降り外に出るとあの男が右足に悶えながらもこちらを強く睨みつけて来た。
「よくもやってくれたね。このお返しは倍にして返してあげるよ」
「……そろそろお前を倒しておくか。生かしておくと面倒だからな」
俺は奴に向かって一気に駆け込んでいく。対して相手はヘラヘラと笑いながらこちらに余裕の構えを見せ付ける。俺はその余裕な顔に苛立ちつつも、すぐに切り替え俺もヘラッと笑い道路に落ちていた一本の小さな木の枝を拾い上げる。
「そんな木の枝で、僕に刃向かおうなんてね!ついに進退窮まったかな?まぁ、いいか。さっさとやってみなよ……その無力なおもちゃみたいな物でさ!」
相手は照準を俺に定めたまま、ピクリとも動かないようにしていた。俺はそんな余裕の行動に勝利への確信が持てた。そのまま前へ前へと進み、相手と俺の距離幅が普通に会話できる所で赤い目を使い、木の枝を槍の形に変貌させ相手がその形に気づいた瞬間に槍を右手に直撃させた。そして大きな声でもがいている間に横一線に切り裂いた。「ぐはっ、そんな……有り得ない。どんな異能でも遠距離攻撃で裁くこの僕がぁぁ」
「自分から勝てると確信して舐めきった余裕の行動を取ったからだ
……自意識過剰がお前の敗北要因なんだよ。じゃあな」
俺は左手で奴の襟元を掴み、奴の異能を俺に取り込んだ。俺の脳から奴の所有するビームの異能を貰っていくことにした。この遠距離攻撃さえあれば今度何かあった時に必ず活躍するだろう……用が済んだので俺は相手の襟元を離し地面に突き放す。相手はゴホッゴホッと咽びながらも俺に対して
「今、僕の目を見ていたな。一体何をしたんだ!」
「何のことだ?俺はただ旦にお前のその鬱陶しい顔を近距離で拝んだけだ……さてと、今からゼクターに連絡して来て貰うとするか。お前をこのままにしておくのもあれだし。だがその前に聞いておきたいことがある」
「何かな?」
「名前と所属名を答えろ……あぁ、でも黙秘はするなよ。そんなことをしてもゼクター大宮支部内で無理やりでも吐くことになるしな」
「時崎晴斗……所属は私設武装組織リバースだ」
聞いても全くわからないが恐らくゼクターならかなり知られているのかもしれない。俺はその後、ゼクターに電話を掛けた。すぐに来ますと連絡を受けたものの結局現場に到着したのは30分後だった。理由は人避けの結界を解除していたためだった。
どうやら時崎は予めTGを確保する際、一般人の視線に注目が集まるのを恐れるために、人避けの結界を貼っていたみたいだ。俺は時崎の身柄をゼクター大宮支部に任せて、大宮総合病院へと向かっていくことにした。何故ならスマホのメールに東條からの連絡が来ていたからだ……先ほど時崎と最初に知り合った十字路の交差点に戻り、南方向へと向かう。ここから道なり進めば10分後に到着する筈だ。
「なんとか、到着したな」
周りに囲まれた木々の中に大きくそびえ立つ真っ白い大きな病院が視界に広がった。それが大宮総合病院だ……ここではありとあらゆる治療を手掛けている。俺からいや皆から言えば物凄く優秀な病院だ。そのせいかこの間、テレビでも病院特集として映し出されたことがある。俺はそんな大きな病院に目を取られながらも、玄関へと目指していき、東條の指定された場所へと向かっていく。場所は二階中央広場……か。俺はエレベーターの前で上の階に行くボタンを押し、待ち構えた。そしてしばらくするとエレベーターの扉が開いたので、すぐさま乗り込み閉めるボタンを押す。
「葉月、無事だと良いのだが……」
俺が一言呟くと、エレベーターはお目当ての二階に到着し、扉が開いた。俺は右に曲がって中央広場を目指した。歩いている最中、病院内の人の気配があまり無いということに気づいた。葉月のことを考慮しているのか?……いや考え過ぎか。
「あっ、如月さん! ソファーに座っていた葉月は俺の姿に気づき、元気良く手を振ってきた。どうやら杞憂だったようだ。俺は葉月の隣に座っている東條にアイコンタクトをし、葉月に話しかけた。
「葉月……もう大丈夫か?」
「はい!全然大丈夫です!ご心配お掛けしました!それより如月さんこそ大丈夫だったんですか……」
俺は葉月に「問題ない」と返事をして安心させることにした。余計なことは言わない方が良いと思ったからだ……そんな時、後ろの方から廊下を歩く足音が聞こえてきた。気づいて後ろを振り返ると郷田が軽く会釈しこちらに近づいてきた。顔つきは真剣そのものだった。
「葉月さん、我々のせいであなたを大怪我を招く事態になってしまった。本当に申し訳ない……」
「そんな、顔を上げてください!今回の件は皆さんのせいではありません!悪いのは襲ってきた奴らです」
「本当に申し訳なかった。では私はこれで失礼するよ……とその前に如月君と話をしたいから少し借りても良いですかね?」
葉月は首を傾げていたが、すぐに承諾した。俺は葉月に目配せをして、郷田の後ろについていった。郷田は無言のまま、エレベーターの上の階に行くボタンを押して、扉が開かれた瞬間最上階の20階のボタンを押した。
「最上階か……何か重要な話か?」
「まぁ、そんな所かな」
いつものスカした表情は嘘のように消えたな。今回の件で相当落ち込んでいるみたいだ……重い沈黙が流れ、エレベーターが最上階に付いた時到着の音と共に扉が左右に開き視界が広がった。どうやら屋上に着いたみたいだ。郷田は奥の方に進み、手すりに両手で吊って大きな溜め息を吐き出した。
「溜め息か……責任者は大変だな」
「まさか、こんなことになろうとはね。いや、こんなことになるのは必然だったね。全く……嫌になっちゃうよ」
「彼女……葉月桜はどうなるだ?やはり今回の件が起きてしまった以上、葉月を別の場所に移送させた方が良いと思うが……」
俺は郷田に意見を出した。郷田はその言葉にピクリと反応するが、目を閉じて首を左右に振った。
「その意見には大いに賛成なんだが、上がそれを全く認めてはくれないんだよ。勿論、今回起きてしまった件も上にバッチリ連絡したけど返ってくる返事は「今回の件はこちらで考える。貴公は警護対象の任務を続行せよ」という謎の黙りだよ。裏がありすぎて呆れたよ……」
上層部はこの件が起きても、続行なのか。一体何を考えているんだ?
「おっと、それより今日は君に確認したいことがあるんだよ」
「何だ?」
「警護対象である葉月桜を……直接警護して欲しいんだ」
直接だと?そうなると俺はこれから葉月を直で守ることになるのか。まるでボディーガードじゃないか。直接だと?そうなると俺はこれから葉月を直で守ることになるのか。まるでボディーガードじゃないか。
「今回の件は君が片付けてくれたんだろ?わかっているんだ。どうも、周りの警護係では相手との差がありすぎたみたいだ。その点、君はその謎の異能で奴らを退けられる大きな力を持っている……だから手を貸して貰いたい」
「はぁ、面倒事が次々と降りかかってくるな。上層部はそのことについて認知しているのか?」
「あぁ、認知している……いやそれどころか警護対象を如月蓮に直接警護として任命させることを上層部が新たなる指令として出してきた」
「正直な所、今回の直接警護はかなり裏があると思っている……もし君が断れば研究所にてほとぼりが冷めるまで研究をするみたいだ、どうする?」
選択肢は一つ。結局、俺は面倒事に巻き込まれるしかないのか。
「わかった。引き受ける……その代わりに奴らのことをさっさと調べておいてくれ。そいつらのせいで葉月は平和な日常を送れないからな」
「リバースか。奴らの組織は網状に連なっていて実態が掴みづらいが……善処しよう」
明日から葉月の直接警護か。面倒なことになってきたな……郷田と話している内に心身共に疲れが来たので、帰る前にスマホで連絡先を交換し二階の中央広場に戻っていった。その時、俺の顔を見て葉月は心配していたが何とかごまかして、東條と俺の付き添いで葉月を家に送ってあげた。そして帰りしに東條は
「直接警護を任されたみたいね。郷田警部から連絡が来たわ」
「そうか」
「私もあなたの監視として警護対象である葉月を警護させて貰うから、安心しなさい」
東條が?まぁ腕はあるし、一人で警護するよりかは二人で一緒に警護対象である葉月を守った方が相手からの奇襲を防げるからそっちの方が良いか……
「あぁ、これからも宜しくな。東條」
「えぇ。それじゃあ私はこの辺で」
東條は後ろに振り返り、自宅の方へと向かっていった。さてと俺も帰るか。空が暗くなりそうな感じがしたので、俺は急いで自宅の方へ向かっていった。