CODE4:ゲーム……スタート
様々な先生から授業を受け、遂に待ちに待った昼休みに突入する。皆は各自それぞれ行動を始めていた。俺は葉月桜の正体を探るため、東條にバレないように教室を出た。
「さて、あまり長くふらつくことは出来ないから早めに決着を着けないとな」
まず、手始めに手短な生徒から聞くことにするか……俺は一階の外に出て、茶色ベンチで仲良くランチをしている二人の女子生徒に声をかけた。
「食事中にすまない、ちょっと聞きたいことがあるんだが良いか?」
「はい、何ですか?」
「葉月桜という子を知らないか?ちょっとその子と話がしたいんだ」
俺がそう言うとすぐに情報を教えてくれた。情報によると葉月桜は一年五組に在籍しているらしい……
「助かった。ありがとう」
「いえいえ、どう致しまして!」
「それじゃあ」
さて、さっさと一年五組に向かうとするか……昼休みの時間もそう長くは無いからな。俺は途中にある階段を一段ずつ飛ばして行き、一年五組の教室を発見した。俺は躊躇うこと無く扉を開き、葉月桜がいるかどうかを確認する。だがそこに葉月桜らしき人物は居なかった。
「どこかに行ったのか……」
「あの、どうかしましたか如月先輩?」
ふわふわの髪の毛が特徴的な女の子は俺の困った顔を見かねたのか聞きに来たみたいだ。
「ちょっと野暮用でな……葉月桜という子を探している。どこに居るか分かるか?」
「葉月さんなら図書館に居ると思いますよ。この昼休み中はそこに居ることが結構あるので」
図書館か……そういえばあの子、本屋に新作の本を求めていたしな。なんとなく納得した。
「ありがとう。それじゃあ」
俺は急いで図書館へと向かった。とりあえず時間はまだ20分はある。この調子なら上手くいけそうだ。
「あの子の情報は何としても貰わないとな」
葉月桜……あの子の能力、どれだけの物かはわからないが今日必ずハッキリさせる必要がある。絶対にな……だが図書館に向かう途中、一人の男が前方で待ち構えて居た為、俺は止まらざるを得なかった。
「そんなに急いで、どこに向かうつもりですか?」
眼鏡をクイッと上げ、俺に強い視線を向けてきた。コイツ……
「図書館に入りたいんだが……」
「すみません、今日ここは貸し切りなんですよ。どこか別の場所で昼休みを過ごして貰いませんか?」
「今日はどうしても借りたい本があるんだ?良いだろ?」
「では、私が借りにいってあげましょう。タイトルは分かりますか?」
意地でも通さないつもりか……このまま話して断られるのが関の山だな。こうなったら無理やり通るしかないか。
「悪いが、本当の目的は葉月桜と話すことなんだ。そこを退いてくれ」
「護衛任務に着いたばかりの分際で、初日早々に勝手な行動をするとは……処罰が必要なようですね。ということでそこの男の処分はお任せしますよ東條君」
振り返ると東條が怒り顔で俺に睨み付けた。ちっ、見つかったか……
「勝手な行動は厳禁だと言った筈だけど?」
「俺がどうしようが勝手だろ」
「あなたの場合は監視対象なの。気ままな行動は最悪、研究所送りもあり得るわ」
研究所送りだけは嫌だな。仕方ない……だがあれだけは試しておくとするか
俺は目の前に立ちはだかる男に近づき、握手を求めた。
「何のつもりだ?」
「俺の名は如月蓮……本日付けで護衛任務に配属された勝手気ままな男だ。宜しく」
「突然態度を変えたな……まぁ、良い。俺は三年一組の並木悠介だ。以後勝手な行動は慎むように」
俺は素直に従うふりをして左目の異能の力を使い、奴の目を見つめた。俺の脳内に並木の異能のビジョンが浮かんできた。俺はそれを確認すると振り返り素直に帰った。並木には怪しまれてない感じだし、恐らく大丈夫だろう。
「あなた、今さっき異能を使ったでしょ」
東條にはバレていたか。
「何か悪いか?」
「はぁ、せめて私が居ない所でやってちょうだい。今度からは
……」
ふぅ、今度この目を扱う時は東條が居ない時に使うとするか。それにしても並木の異能は中々使えるな……今度戦闘があった時に扱ってみるか。俺達は静かに教室に戻り、午後の授業を受けた。
その後、放課後になり皆は帰宅を始めていた。俺は今日の教材を鞄にしまい込み東條にある断りを入れることにした。
「今から葉月に会っても良いか?」
「……会うのは基本的に厳禁よ。分かって言っているの?」
「俺は悪魔で郷田から一時期に協力しているだけだ。お前達と同じ組織の人間では無いから従う必要性は感じない。だが監視対象に入っているせいで俺は身動きが取れない。だからお前に許可を貰おうとしている訳なんだが」
「……如月蓮を見失ったわ。仕方ないわね……探しに行くとしましょう」
東條は急いで鞄を右手にぶら下げ、教室を後にした。どうやら許しは貰えたみたいだ。
「素直じゃない奴だな。まぁ、ありがたく行かせて貰うとするか」
教室を出て、今いる二階から一階に降り一年五組に向かう。向かっている最中扉が開いているのを確認した俺は葉月桜が居るかどうかを確認することにした。だが俺はその本人に声をかけられた。
「如月さん!やっと会えましたね!」
まさかそちらから声をかけてくれるとはな……
「葉月ちょっと色々と話したいんだが、帰り一緒に歩けるか?」
葉月はニコニコと喜び「大丈夫です!」と大きな声で返事をしてくれた。これで色々と聞けそうだな……高校の玄関先に向かい俺は外出用の靴に履き替え、葉月を待つことにした。葉月はすぐに来たので俺は再び歩くことにした。夕暮れの太陽が俺の目に強く焼きつけていく…… よくよく注意深く周辺を見てみると葉月を監視しているような奴らがちらほらと居た。そしてそんな警護対象の近くに居る俺はかなり強い視線を感じた。やはり警戒されているな……俺は。
今の内に葉月から色々と聞いておくとするか。そう思って、口を開こうとしたが
「如月さん、この前の新作小説ありがとうございました!それで、あの……お金返しますね!会ったら必ず返したいと思っていたので!」
薄いピンク色の財布からこの前俺が買った小説の代金を俺に渡してきた。俺はその正直で律儀な感じに少し驚いたが、すぐに表情を戻し断った。
「葉月が楽しめたなら別にその代金は要らない」
「えっ!?でも!」
中々食い下がってくれないな……仕方ない。
「じゃあ代金の代わりに色々話がしたいから、今から俺が聞く質問に正直に答えてほしいんだ。いける?」
そう説得すると葉月はあまり納得していなさそうな顔で渋々小銭を財布に戻し「良いですよ。答えられる範囲で答えさせて頂きます」
「……じゃあ、葉月の家族構成を教えてくれ」
「母は私が小さい頃に亡くなって父は遠くで暮らしていると聞きました。あんまり会った事が無いんで分からないんですけど」 父に会った事が無い?……まぁ現状葉月は一人暮らしみたいだし、そんな物か。それよりももっと重要な事を聞かせて貰うとするか。
「そうか……今から単刀直入に聞くが葉月、君の異能を教えてくれ」
さっきまで普通に喋っていた葉月の表情が一瞬で固まった。
「葉月?」
「ごめんなさい……私には分からないんです。お偉いさんには分かっているみたいですけど」
真実は上層部が持っていると言う事か。だとしたらこれ以上この件について問い詰めても無駄だな。俺は話を区切って雑談をすることにした。
「悪かった。さっきの質問は忘れてくれ……話は変わるが、葉月はいつから小説を読むようになったんだ?」
「えっと、確か中学一年生になった辺りだと思います。休み時間にたまたま目についた本を読んだ時どんどん好きになっていったんです!それからはいつも家で暇な時間がある時、小説を読んでいます!」
こんなに目をキラキラさせるとは……本当に好きなんだな、小説が。俺はじっくりと読むのがあまり好きでは無いから全く読んでいないが……
「そうか、俺は本とか読むのは苦手だからうらやましい限りだな」
「今度、私が如月さんでも読みやすいと思う本を持っていきます!楽しみに待っていて下さい!」
俺はそこまで言っていないんだが……駄目だ、目がきらきらしている。諦めるか……俺は葉月に「あぁ、気が向いたら頼む」と返事をした。歩いている内に広い交差点の赤信号に引っかかり、俺達は足を止めた。だがその景色に妙な違和感があった……それは夕方の時間帯にも関わらず車は愚か、通行人が殆どいないと言うことだ。深夜の時間帯ならあり得る話だが、こんな時間帯に殆どいないのは明らかにおかしい。それは葉月も気づいていたみたいだ。
「如月さん、何か変です」
「落ち着け、まだ何も起きてはいない。とりあえずこの信号が青になったら向こうに渡るぞ」
「……はい」
怖がっている葉月を何とか落ち着かせ、俺は赤が青になるのを待つことにした。そして赤信号がチカチカと点滅し青信号になった所で奥の方から一人の人影が姿を現してきた。俺達はその場で立ち止まり様子を見る。すると人影の指先から怪しい閃光が――
「葉月!!」
左手で葉月を強く押し、攻撃をかわさせた。ギリギリの所だった……
「お前、何のつもりだ……葉月を殺す気だったのか?」
「やだなぁ、君が余計なことをするからTGの肩ギリギリにしか当たらなかったじゃないかぁ。本当は胸部らへんに当てて動きを止めようと思ったのに」
栗色のバサバサとした形が特徴的な男はヘラヘラと笑っていた。俺は直感的にヤバい奴だと感じた。くそっ、警護班なにしてんだよ!
だが、そんな気持ちを察したのか、すぐに現場に警護班が駆けつけて来た。人数は六人ぐらいか……
「お前は対象と一緒に遠くに逃げろ!その間に俺達が時間を稼ぐ!」
俺は素直に従い、動けなくなった葉月を抱えて遠くの場所へ行くことにした。その時、俺のブレザーの中のポケットからブルブルとスマホが震えていた。俺は数km離れた河原で葉月をゆっくりと下ろし、スマホに手をかけた。
「……東條か」
「遅い!一体何が起きたのか説明しなさい!」
俺は今起きている現状を東條に事細かく説明した。東條は「失態だ」と口にして
「とにかく、如月はそこに居ろ。今からすぐに向かう!」
電話は唐突に打ち切られた。俺はスマホをポケットにしまい込み葉月の様態を詳しく見ることにした……
「肩にビームが直撃している。血を止めないことには命が持たないな」
俺はズボンのポケットから青いハンカチを取り出してから、苦しそうにしている葉月に
「葉月、上着だけ脱げるか?」
「わかりました。ちょっと待ってください」
葉月は上着を何とか脱ぎ去り、その場に倒れ込んだ。
「くっ、葉月まだ痛むか?」
「肩にちょっと当たっただけなんですけどやっぱり痛みますね。うぐっ!」
俺はすぐに葉月の直撃した左肩にハンカチを巻きつけ最低限の応急処置を施した。これで止血はある程度出来ただろう。
「如月さん、このハンカチ……」
「気にするな。それは後で時間が開いた時に返してくれたら良い。今は気休め程度に過ぎないがな……」
「そんなこと無いですよ。これでも充分な治療です」
「如月!」
遠くの方から東條の声が響いてこちらに駆け寄って来た。
「東條、すまない。今回の件は俺のせいだ……俺がゆっくりと帰ったせいで」
「如月さんは悪くありません!全部私のせいなんです……私が――」
「はぁ……私は別に如月のせいにもしてないし、警護対象であるあなたのせいにもしていません。むしろ、警護を怠っていた私達の責任です」
東條は俺達に謝罪の言葉を述べ、深く頭を下げた。俺はそんな東條がいたたまれなくなり、すぐに頭を上げるよう促した。
「東條、今から俺は奴と戦いにいく。東條は葉月を抱えて、どこか適当な病院に連れて行ってくれ」
「行くの?今の現状はあまり芳しく無いのよ」
「奴の存在はかなり危険だ。本当ならこういうことはセンテンスに任せた方が良い。だが、今ここで逃げたら男じゃない気がする……だから」
「わかったわ。でも絶対に無理だけはしないで!良いわね?」
「あぁ」
「如月さん!」
「安心しろ。今日中に終わらせてやる。だから病院で静かに待っていろ」
さっきの場所へ急いで駆け込んで行く。早くしないと事態はもっと思わぬ方向に行くかもしれない……それだけは何としてでも阻止する。そして全速力で駆け込み、先ほどの交差点に着くとやはり一人の男が待ち構えて居た。
「へ~。戻って来たんだ。面白いね~……けど、君が戻るの遅すぎたせいで、ここの人達片付けちゃったよ。本当に警護班か?って疑うレベルで弱かったよ。君はこんな無様に倒れている人達みたいに弱いのかな?」
先ほど、俺達を遠くに逃げるよう指示していた人達は意識すらなく、倒れ込んでいるようだ。しかもよく見るといくつか身体に数ヶ所の穴が開いている……もう手遅れだな。俺はそんな人達に黙祷を捧げた後、奴の目を鋭く見つめ
「どうかな?やってみないことにはわからないぞ」
「良いねぇ。その目……気に入ったよ。僕を充分に楽しませてくれよぉ。ではゲーム……スタートだ」