CODE2:警護対象の名は
清々しい朝を迎え、姉の出された朝食を食べた後俺は素早く支度をして玄関の扉を開ける。するとそこに待ち構えていたのは監視役の東條であった。いきなりコイツに出くわすとはな……
「お前、俺のことをつけたのか?」
「いいえ、この位の時間になると玄関を出ると言う情報があったので待っていただけです」
俺のプライバシー情報は東條によってことごとく潰されそうだな。俺は無言のまま、学校への通学路を歩き始める。東條は俺の後ろからやや離れた所で歩き始めた。正直いって監視されている感が尋常になくヤバい。早く学校に着かないものだろうか……そんな思いを胸に数十分、皆の謎の視線と共に俺は教室の椅子へと着席した。俺が座ったと同時に一人の男が近づいて来た。
「おい、蓮。お前……東條さんと随分仲の良い登校を見せてくれたな。学校の通学路で見たとき俺、発狂したぞ!」
黄色の髪でをバサバサな形をしたオシャレに決め込む友人、二階堂琢磨は何故か俺に怒りの視線を送っていた。俺は「奴が勝手に付いてきているだけだ」と言い、机の上に顔を沈め込んで寝たふりをかます。二階堂はそんな俺を見て諦めを悟ったのか、すぐに自分の席に戻っていった。チャイムが鳴るまで後五分……それまで寝させてもらうとするか。ん?メール?
「こんな朝早い時間に誰だ?」
俺は胸ポケットからスマホを取り出しさっき送られてきたメールを確認する。宛名はどうやら……東條らしい。俺は溜め息をつきメールの内容を開ける。すると内容には「無闇に行動をしないように……あなたは観察対象に入っています。そのことを充分お忘れ無きよう」
メールアドレスまで知られるとは……俺のプライバシー情報はもはや無くなったに等しいな。後でメアド変えておくか。そう思った瞬間チャイムが鳴り、担任の植木が教室に入ってきたので黙って朝礼を聞き、黙々と授業を受けた。
そして待ちに待った放課後を迎え俺はせっせと帰り支度をし、学校の教室を後にした。勿論後方には東條が付いてきている。俺はなるべく早足で自宅の方向へと向かった。
「待ちなさい!そんな早足で歩かれては私の足が疲れてしまいます!」
通学路の途中で俺に毒を吐く東條……やれやれ面倒くさいことになったものだ。
「別に俺の勝手だろ。今日は早く帰りたいんだ……付いてくるのは別に構わんが、お前のペースに合わせる義理はない」
「冷たい人って良く言われない?」
何だこいつ、ちょっと腹立つな。俺は東條の言葉に一瞬カッとなったがすぐに我に返り冷静に返した。
「俺はもともとこういうドライな人間なんだよ。
ほっといてくれ」
そう言った後、俺は前を見て再び歩き始めた。それに対し東條はその言葉に対し、何の言葉も返さず素直に付けていった。果たしてこんな生活が一体続くのやらそんなこんなで一週間が経った所で俺がベッドに就寝しようと試みようとした所で机の上から知らない電話番号が掛かってきた。
「誰だ?」
普段は家族関係しかかからない筈なんだかな……俺は軽く深呼吸し、スマホを耳に当てた。
「こんばんは郷田です。ちょっと時間大丈夫かな?」
「……俺のプライバシー情報は皆無なんですか?いい加減にしないと弁護士と一緒に訴えますよ」
「まぁまぁ、それよりも今日、君にこうして掛けたのは特別な話があるからなんだ」
コイツ、軽く俺の話をスルーかよ。俺は苛立ちを隠しつつ話に応じることにした。郷田は淡々と話を始める……そんな俺は黙って頷いていたがある一言でピクリと反応してしまった。
「警護だと?普通そういうのはあんたらがやるものだろ。何故一般人である俺に協力を仰ぐ?」
「一週間前、君のデータを本部に送信したらすぐに翌日に来いとメールが来て、行ったんだよ」
「話がかみ合ってないぞ」
「まぁまぁ、この話にはちゃんと意味があるから聞いてくれ……翌日僕が本部に来た瞬間、上層部による会議が始まったんだよ。議題は君のことについてだった。意見としては君を観察対象のままにして生かしておくか、君を拘束して研究所で研究するか……結局の所、結果は前者の方に決まったんだけどね。その後会議が終了して皆が解散しようとしていた時がある一人の男が提案してきたんだ。名前は紅玄武……本部では一番のエリートで階級は警視総監だ。紅警視総監は君の異能を見て、皆に警護の任務をやらせると言った。勿論多数の者はそのことについて猛反対したけど、紅警視総監はやらせるとの一点張りで会議は強制的に終わってしまったんだ。僕はその後急いで紅警視総監に何故か?と問いただした。するとあの人は……」
「話が長すぎるな……もういい。つまり警視総監である紅玄武は俺にある人物の警護をしろということだよな?」
「やれやれせっかちだね~。まぁそういうことだよ。とにかく今日から君は東條に観察されると同時に警護任務に付いてもらう」
「ターゲットは誰なんだ?」
俺がそう言うと、郷田は「聞きたい聞きたい?」と焦らしてきた。俺は最高潮にむかつきながらも「教えろ」と命令口調で言いねじ伏せた。郷田はやむなしに警護対象である人物の名を言った。
「警護対象は葉月桜。君の通う大宮高校の同級生だ」
葉月桜……どこかで会ったような。そうか確かあの図書屋に居た女の子か。
「わかった。だがいくつか質問がある。それに答えてもらうぞ」
「良いよ。答えられる範囲内であるならば何でも質問に答えるよ」
郷田から了承を得た後、俺はいくつかの質問をした。まず始めの質問は葉月桜をいつまで警護するのか?という質問。
答えとしては首謀者を逮捕またはやむなく殺害を行うまで……そしてそれが終わればある程度の自由な生活が送れるらしい。そして次の質問は葉月桜をどこまで警護するのか?と質問。これに対しては一応、学校の校門からから出るまでという回答が返ってきた。実際の所彼女の周りには学校の先生・生徒、歩道を歩く一般人と沢山の警護に囲まれているようだ。よっぽど重要な存在なのだろうか?俺は最後の質問として
「葉月桜は何者なんだ?一回見掛けた時、ごくごく普通の女の子に見えたが?」
この質問に対しては何故か重い沈黙をし始めた。何分か時が経ち、郷田は口を開いた。
「……守秘義務だ、教えられない」
「東條にも言っていないのか?」
「少なくとも葉月桜を何故守るのかを知っているのは僕を含めた階級以上だ」
そうなると、下級の者はただ任務に従っているみたいだな。
「さて、その質問で最後ということは、この話は終わりということで良いかな?」
「あぁ、構わない」
「じゃあ明日から東條君による軽い説明があるから宜しく!」
俺は適当な返事をしてスマホを切り、照明の電気を切った後、ベッドに潜り込んだ。
「明日から警護か……なんかどんどん面倒くさくなってきたな」
俺はそんなことを呟き、深い眠りに入った。