CODE17:夏の終わりは鮮やかに散りて
あの世間を大きく騒がせた事件は無事に終わり早くも1ヶ月が経った。その間は何事も無く過ぎていき、俺は未だに終わっていない夏休みの宿題を東條と葉月に付き添って貰いながら文字を埋めていき、何とか終わらせることが出来た。あの二人に正直、感謝の気持ちに満ち溢れている。そしてふと自室にあるカレンダーを眺めると月日はいよいよ8月11日となっていた。
どうやら俺達の夏休みは終わりが近づいて来たようだ。俺はベッドに横になり何となく天井の方を見上げてじっとしていると、ドアのノックが聞こえてきたので返事をすると姉さんが入ってきた。右手にチラシみたいな物が見えたので俺は姉さんにそれを問い詰めることにした。
「姉さん、それは何?」
すると姉さんは嬉しそうな顔で、チラシを俺の目の前で見せつけた。
「大宮花火大会よ!今年も立派な花火が打ち上がるわよ!一週間に開催するから蓮もお友達を連れて、私と一緒に行きましょう!」
大宮花火大会は長い歴史を大会でもう40年もやっているが……連れていくとなると東條と葉月で決まりだが葉月の場合、色々と厄介な事があるからそう簡単にはいかないよな。
「葉月さんと東條さんを連れて行きなさい!あの二人なら喜んで行くわよ!」
何で喜ぶんだ?あぁ、色んな屋台があるからか……ん?それより何で知っているんだ?東條と葉月のことを?
「姉さん、俺一回も葉月と東條を紹介した覚えがないんだが?何で知っているんだ?」
「私が高校の卓球部 に居た時に指導していた後輩の文月ちゃんから聞いたのよ。蓮が東條さんと文月とで両手に華みたいなことをして毎朝学校に登校しているってね」
両手に華……あいつらから見たらそう見えると思うが、ただ単に葉月は護衛対象だから護衛しているだけに過ぎないし、東條は俺の監視と葉月の護衛の為に付き添いとして登校しているだけなんだがな……俺がベッドの上で困惑していると姉さんは詰め寄って
「とにかく!一週間後までには葉月さんと東條さんに花火大会のことを行っておきなさい!蓮がお世話になっているから一杯奢りたいのよ!それと色々と女の子だけでお喋りしたいし!じゃあ、そういうことで宜しく頼むわよ!お休みなさい」
姉さんはそう言って、そそくさと自室に戻っていった。参ったな…
…とりあえず明日の朝に東條と葉月に相談して、それから支部に許可を貰うしかないか。
俺は姉さんが机に置いた花火大会のチラシを表と裏に交互に見てから、メールで郷間にアポを取り付けて電気を消灯して横になった。
※※※※
「花火大会ね……私は行っても良いのだけれど」
「問題は私ですよね……私は家で待機になるんですかね?本音を言うと間近で花火を見たいですんけど……」
「そうだな。ただ、せっかくの花火大会なんだから葉月にも見に来て欲しい。ここの花火はやけに力を入れているからな」
大宮花火大会は全国でも中々に有名な大会で主に花火の点火量が凄い。ラスト付近に近づくと400連発の尺玉が空に一気に舞い上がる。だからこれを見ないと損をするだろう……ここに初めて来た転校生の東條や家で待機せざるを得ない葉月には何とかして見せたいとそんな決意が心の中にあった。そしてそんな俺の表情を汲み取った東條は、机の上に置いてあったアイスティーを一口付けてからまた机に戻して、手元に置いてあったスマホでスライドしてから呟いた。
「大宮花火大会……面白そうね。一週間後なら許可は取れるかは分からないけど支部に行って取ってみたらどうかしら?」
東條は許可が取れるなら是非とも行きたいと言ってきた。葉月も東條の意見に賛成して、同様の事を言った。約束は何とか取り付けることが出来た。あとは郷間に会いに行って許可を頂くだけだな。そうと決まれば、さっさと出発するとするか。俺は勢い良く席を立って、扉を開けようとした時東條に呼び止められたので振り向く。
「花火大会には誰と行くのかしら?まさかあ―」
「姉さんと俺だぞ。何でも、日頃から俺が世話になっているみたいだからお礼をしたいとかしつこく言われたからな。だからこうして誘ったんだ」
瞬間、葉月と東條の表情が落ち込んでいるように見えたのが不思議でならなかったが、東條はすぐに表情を元に戻してさっさと行きなさいと促してきたので、俺は葉月の家を出てゼクター大宮支部まで自転車で漕いだ。
支部に近づいた時、俺は自転車を専用の駐車場に止めて受付の者に事情を話して警護係の部屋に入る。すると、俺と最初から会うのを想定していたのか郷間は俺を別の部屋に連れ込んだ。部屋には机の上にパソコンを置いてネットゲームに勤しむ春日井とじっと座っている北神が居た。
俺は何でこいつら座ってるのかよく分からなかったので、後ろに立っている郷間に振り返って静かに問いただした。
「……何で別室なんだ?俺はただ、ちょっとした話をしたかっただけなんだが」
郷間は部屋の隅に置いてある湯沸かし器からお茶を3つ入れて机に置き、椅子にゆっくりと座った
「いやいや、そのちょっとした話を僕達に聞かせて欲しいから今日はこうして三人で集まったんだよ」
「と、郷間さんは柔らかく言ってるけど本音はこの前、夏目とかいう奴から何か情報は聞き出したかと言うことを俺達は聞きたいんだよ。もしかしたら青髪君の話でリバースのボスが分かるかもしれないからね~」
そういうことか。郷間の意図を理解した俺は椅子に座って、緩めのお茶を手に取って一口飲んでから話をした。
「まず、その前に本題に入る……一週間後の大宮花火大会に葉月を連れて行きたい。だから、郷間警部の方から上層部に許可を取って来て欲しい」
「ふ~む。花火ね~……今の所、2ヶ月くらい葉月さんに対する直接的な襲撃は無いから何とか取れるかもしれない……ふ~、何にせよ俺が決めることじゃ無いから、その件は許可が取れ次第すぐに連絡しよう」
さて、これで言いたかった話が済んだな。後は7月に起きた大きな事件で夏目から聞いた事を伝えて、郷間に詳しく聞くだけだ。
「宜しく頼む。じゃあ、ここからは夏目から聞いた話だ。聞いた話によると葉月は始まりの異能者と呼ばれる存在らしい。つまり俺達が今手にしてる異能は葉月の謎の異能によって出来たということだ。そして夏目にその証拠の動画を見せられた……動画を撮っていた人は随分と葉月に心酔していて、葉月が覚醒している時に近づこうとしたが背後の人物に拳銃で射殺された動画だった」
俺の話に深く考え込む郷間は次の瞬間、予想だにしていなかった事を告げた。
「始まりの異能者に動画を撮影した人間……そしてそれを快く思わなかった人物。色々と繋がりがあるということは分かった。だが葉月さんの異能がそんなヤバい奴だったとは……恐れ入ったね~。しかも君が言った証言を参考にすると、その葉月さんを保護しようとした人物は動画の撮影者を撃った人物になる」
「ちょっと待て。郷間警部、あんたは葉月の異能について知っている筈だ。何で今日初めて知ったようなセリフを吐いているんだ?」
俺の言葉にビクッとした表情になった郷間は悪いと思ったのか俺にその場で一礼して
「悪い悪い!あれは嘘だ。本当は何にも知らされてなんていなかった。葉月の異能を知る人物は上層部の中で特に位の高い人物だけなんだ。だが今回、君が話してくれたお陰である人物は特定が出来そうだ」
横に座ってる春日井に郷間が目配せして、情報を調べさせる。何分かノートパソコンの音だけが部屋を包み込んでいたが春日井が突然嬉しそうに叫んでいたので俺は向かい側の席に座っている春日井の方に行き、パソコンを見ると偉く威厳のある人物達がデスクトップ上に並んでいた。
北神も気になって仕方が無いのか横からこっそりと覗き込んできた。俺達の姿を後ろに振り返って確認した春日井は再び前を向いて説明を始めた。
「コイツらが青髪君の証言を基にした葉っぱちゃんの異能のことを良く知る上層部の連中だ。葉っぱちゃんというか謎の巨大な光柱が現れたのは二年前の6月の夕方辺り……場所はここから支部よりかなり離れた東京都にある帝王山。撮影した人物はこれから現地に行って調査していくことにするが、撃った人物は口封じの為に排除した可能性が高い。それは、恐らく葉っぱちゃんの謎異能をこっそりと研究したい為……そういう風に推理していくと色々と分かることがある」
「どういうことだ?さっぱり分からんぞ」
春日井の話にいまいち理解が追い付かない北神は問いただした。すると春日井は首の周りを軽く一回転してから再び説明をし始めた。
「この前、というか5月に起きた0524襲撃作戦の後に実は斑目異能研究所が襲撃されたんだが、あの調査は一切を持って出入り禁止になっていた。俺はそう言った無慈悲な規則には従いたくなかったんで、勝手に夜な夜な忍び込んで事務室で監視カメラをこっそりと改竄してから極秘調査をしてきた訳だが……郷間さんには一度見せたけど青髪君や北ちゃんにも見せておくよ。気分が悪くなったら遠慮無く、トイレに行ってくれよ」
デスクトップから画像ファイルを開いてスライドショーにして俺達に見せた。それは見るも無惨な人達が倒れており、人の姿か怪しい人物や外骨になっている人やら酷い有り様であった。
俺はその光景に何とかして堪えながら見ていたが、北神はその光景に目を閉じて後ろを向いた。スクリーンショットは20枚で終了し、春日井はいつも通りのデスクトップに戻した。
「今の酷い画像は俺がこっそりと調査した成果だ。俺の推測だが、遺体は恐らく無能者の人間だと思っている。そしてこの集められた人達は異能暴走者や違反異能者の脳に適合させる為の餌として利用されているに違いない」
「研究所らしい酷いやり方だな。人を何だと思っているか……」
「表向きは政府に援助して貰う形になってはいるが、裏では異能を無闇に使った容疑者などをゼクターの上層部によって裏から手を回しているとなれば、春日井の見立ては正しくなるな」
斑目異能研究所の他にもその可能性は高い……上層部の奴らは何を企んでいるだ?まさかこの世の中に居る全ての人間に異能を持たせるつもりか。俺は心の中にどうしようも無い不安が募っていた。同じく、北神と郷間も不安な表情で顔を下げていた。
「とにかく、この件はこれから慎重に進めていくから今日のことは警護係だけで内密にしていこう。分かっていると思うけど、外部には絶対漏らさないでくれよ。命の保証は無いと思うからね~はい!ということで今日はお開きにしよう!あと他に質問とか気になることがあれば聞いてくれよ。青髪君」
気になることか……まだあるから一応聞いておくか。
「なら、この謎の異能について葉月自身は知っているのか?」
この質問に対しては、春日井からでは無く郷間が答え始めた。
「いや、多分葉月さんは覚えていないだろう。どういう訳かは知らないが……今思えば、葉月さんに異能の関する記憶を消されている可能性があるかもしれないな……上層部の奴らに」
だから葉月は普段通りに生きていけるのか。あんな異能を間近で感じてしまったら普通はこの世界では暮らしてはいけない筈だ。
何よりメンタルが持たないだろう。さてと葉月については色々な情報を貰えた。後はこの前気になった、あの事について聞いておくことにするか…………
※※※※
許可を貰えたのはぎりぎり大会が始まる2日前だった。まさか許可の申請が通るなんて思ってもみなかったが、勇気を振り絞って正解だったな。何よりその事について一番驚いてたのは郷間だった。許可が降りたよと言う連絡をくれた後
「いや~、まさか申請が通るとはね~。驚き桃の木山椒の木だよ!これで花火大会も行けるからバッチリ楽しみなよ!勿論辺りには沢山の一般人の見張りを付けるからそれだけは頭に入れといてね!じゃあ、ばいばい!」
と陽気に喋って、電源を切った。俺はすぐさま葉月に行けるようなったとメールを入れて、電源を落としてベッドに横になった。2日という長くて短いような日にちはあっという間に過ぎ、約束の花火大会が訪れた。俺は集合時間の夕方5時の30分前になった時に起きて、身だしなみを整えることにした。
服装は事前に予定していた服を着込むことに決めた。上に最新の薄型のあれを着込んで、更にその上から普段よく着る黒いシャツを着込んで下に青いジーパンを着てから、最後に仕上げとして黒いジャケットを着てから部屋を出て、綺麗な白色の浴衣を着た姉さんと一緒に葉月の家へ向かいに行くことになった。
歩いている道中、姉さんからダサいダサいと連呼されてたが俺は気にすることなく葉月の家に向かった。
20分後、目的地である葉月の家に到着した俺達はインターホーンを押して呼び出す。しばらくすると葉月では無く、東條が出た。
「ちょっと待っててくれるかしら?葉月さんの着こなしが終わったら、すぐに出るから……と思ったけど、外は寒いと思うから鍵を開けるわ」
インターホーンが切れた後、すぐにドアの開く音がしたので俺と姉さんはお邪魔して扉を開くことにした。だが扉を開くといつもとは違う東條が姿を現した。
見慣れたロングの茶色の髪を簪で団子結びにして、淡い水色の花模様が入った浴衣を着飾っていた。
まさか、クールな東條が浴衣を着るとここまで綺麗になるとはな……ちょっと驚いたぞ。目の前に居る東條は頬を赤らめて
「あんまり、ジロジロ見ないで欲しいのだけれど……」
そんなにジロジロ見ていたのか俺は?悪いことをしたな……とりあえず軽く感想を言っておくか。
「悪い……綺麗だったから見とれていた。気分を害したなら謝る」
「そういうお世辞は必要ないわ……でもまぁ、ありがとう。そこで待っていて。すぐに終わらせるから」
東條は俺のお姉さんに軽く一礼してからリビングへと入っていった。横に居る姉さんが何やらニヤニヤと怪しい表情をしていたが俺は気にすることなく、玄関に座ってただひたすら待っていた……
そして五分後、リビングの方から音がしたので立って振り返ると、そこには葉月と東條が居た。葉月はいつもの薄い桃色の髪にオレンジ色の華やかな浴衣を着飾っていた。葉月は俺と姉さんに一礼して
「すいません!着付けに時間が掛かりました!」
「別に良いわよ!まだまだ時間はあるし!早く行きましょう!」
「あぁ、姉さんの言う通りだ。のんびりと歩いて向かおう」
そう言って玄関のドアを開けようとした時、葉月は俺に
「如月さん、私の服装似合っています?」
感想を求めてきた。俺は振り返って、改めて葉月の着こなしを見てから感想を言った。
「良いんじゃないか。オレンジ色の華やかが相まって、中々似合っているぞ」
「そう……ですか。ありがとう御座います!」
葉月はそう言った後、そそくさと馴れない下駄を履いてから俺に目線を合わし
「如月さん、早く行きましょう!」
「あぁ……分かった。行こうか」
俺と葉月は一緒に玄関を出て横に並んで歩いた。姉さんは俺の後ろに付いていく感じで歩き、東條は二つの鍵を締めてから葉月の横に並ぶ形で歩いた。
大宮花火大会に行く駅まで、ここから10分……ちょっと長い。無言のまま歩いていると後ろで歩いていた姉さんが前に飛び出して、声を掛けてきた。
「今日は二人ともありがとう!私はようやく、あなた達に会えたから嬉しいわ!」
姉さんが笑顔でそう言うと横に並んで歩いていた東條と葉月がそれぞれに口を開いた。
「いえいえ、今日は誘って頂いてありがとう御座います。私、ここに来てからどこも遊びに行ったことがなかったので、大宮の花火……とても楽しみです」
「私もありがとう御座います!今日の花火、間近で見られるのでとても楽しみです!」
「良かった良かった。そう言って貰えて……弟の蓮は無表情であんまり笑わない子だけど、たまに格好いい所もあるから、これからも仲良くしてあげてね」
余計な事を言う姉さんに俺は溜め息を一つ付いて姉さんに横槍を入れた。
「姉さん、あんまり余計な事を言わないでくれ。あと俺は別に無表情じゃない。感情はそれなりにある方だ」
「ごめんごめん!けど小さい頃よりも明らかに表情が堅いから、そう思っちゃったのよ!」
「えっ、如月さんの小さい頃は表情が豊かだったんですか!?」
「ふ~ん、葉月ちゃん聞きたいの?」
「はい、聞かせて下さい!」
どうして、そうなった……俺は葉月を止めようと頑張って試みるが、当人の葉月が姉さんの横に並んで物凄く聞きたい姿勢に入っていて、姉さんが話し始めた為俺は諦めざるを得なかった。俺の諦めの姿勢に見かねた東條は慰めを入れてきた。
「残念だったわね。後ろであなたの幼少期の話が盛り上がっているわ」
「お前はそういう話に参加しないんだな」
「私は……過去話とかそういうのは好きじゃないから」
東條はその事を言ったきり、一切を持って喋らなくなった。俺は東條の無言にそれ以上踏み込むことはせず、前で俺の昔話に盛り上がっている姉さんと葉月に目線を合わせて歩いた。
そうして黙々と歩き始めて10分……花火大会に行く電車に乗って会場へと向かった。車内は花火の影響で人がごった返していたが、俺と東條はその狭さに気にすることなく葉月に危害が出ないように奥の方で守った。
その時の葉月はとても申し訳無さそうな表情をしていたが、俺は気にするなと声を掛けてリラックスさせた。
そしてごった返した車内は目的地の駅に着いた途端、掃き出されるように大半の客は駅のホームへと歩き出した。
俺達は沢山の客が降りた所で、ゆっくりと降りて会場へと歩いた。会場までは警備員などが場所の誘導をしていた為にそんなに迷うことは無かった。とはいえ、警護対象の葉月が居たので中々気が緩まなかったが……
「蓮、とうとう着いたわよ!」
「屋台がいっぱいありますね!どれに行こうかな?」
姉さんと葉月の声に気づき俺は会場の辺りを見ると、至る所に提灯が灯されており、たこ焼き屋やフランクフルト屋などの食べ物は勿論のこと金魚すくいやくじ屋という色々な屋台があった。
俺は最初にどれにしようか迷っていた時、奥の方で人の騒がしい声がしていた。
「如月さん、あそこの奥で何か騒いでいますよ」
「本当だな……気になるし、ちょっと一緒に見るか?」
葉月は俺の問いに元気よく返事をしたので、俺は葉月を人混みから守りながら進んでいく。
姉さんと東條はそれに付いていくように歩いた……そして真っ直ぐ歩いて数分で目的地の場所に到着した時、辺りに集まっている人達に俺を除いて驚いていた。
さっきからポンポンと言う音が聞こて物が落ちる音が聞こえる。
「如月さん!どうやら射的屋みたいです!一体どんな人が撃ってるんでしょうか!?私、凄く気になります!」
周りに居る人は勿論のこと、葉月も興奮している。とりあえず葉月と一緒に近づいて間近で見てみると、そこには射的屋で使うコルク式の銃で無双する男が居た。
向こうに50代の年老いた男は見るに耐えられないのか凄く辛そうな表情をしている。俺は心の中で男にお悔やみ申し上げた。その時に向こうの左側から茶色のコートを着こなした人物から声が掛かってきた。
「やぁ、何だかここが騒がしかったから来てみれば、君達が祭りに来ていたとはね!また会えて嬉しいよ」
「あなたは確か……神崎さんですか?」
「覚えててくれて光栄だよ葉月さん!今日のその浴衣……とても綺麗だね!まるで姫みたいだ!本当に美しい!」
べた褒めの神崎に葉月は少し嬉しそうな顔をしていたが、すぐに表情を戻して
「神崎さん、今日は一人で来たんですか?」
「さっきまでは友人と居たんだけどね……ちょっと用事が出来たみたいで、すぐに帰っちゃったんだ。そのせいで今は一人だけの祭巡りになっちゃった」
「神崎さん……それなら一緒に行きましょう!皆と居た方が楽しいですから!」
葉月がそう言うと、神崎はすぐに嬉しそうな顔をして
「うん、ありがとう!君達と一緒に居た方が一人で居るよりとても楽しめそうだ!」
しばらくすると、ゴタゴタの人混みから合流してきた姉さんや東條が来たので姉さんに一応の紹介をしておくことにした。
「姉さん、これからこの知り合いの神崎も一緒に連れて行きたいんだが……良いか?」
「……別に全然良いわよ!神崎君だっけ?初めまして蓮の姉の如月です。宜しくね!」
「なるほどお姉さんでしたか……神崎零です。短い間ですが、宜しくお願いします」
「じゃあ、行くか。今日は色々な屋台があるから、花火が打ち上がる前にたくさん遊ぼう」
「ごもっともだ」
俺達は一斉に歩き出し、色々な屋台に行くことにした……最初に行った焼きそば屋では店主の入れる量が多いと思ったので、二つで五人に分けて食べ終わった後、たこ焼き屋や焼鳥屋などの各所の食べ物屋さんを巡り歩いて堪能した。
食べ物を一通り堪能した後、輪投げ屋やヨーヨーつりに行った。俺は釣りが下手過ぎて一つも取れなかったが、葉月はその点かなり上手くて、ヨーヨーを4つ釣り上げた。
神崎も東條も姉さんも皆一つずつ釣り上げいたので、俺は何だか疎外された気分になった……
そして俺は今、金魚すくい屋で金魚をすくっている葉月と神崎を遠巻きで見ている。
「そんなに落ち込むとはね……ヨーヨーつり恐るべし」
「姉さん、古傷をえぐるの止めろ。嫌な事を思い出す……今から金魚すくいで5匹以上釣り上げてやる」
俺は横でクスクス笑う姉さんを無視して、金魚すくい屋に金を払おうとした時、金魚すくいを終えた神崎が俺に自慢し始めた。
「良い感じに取れたよ!如月君、見てくれ!」
神崎の右手に吊されてあるビニール袋を見てみると、そこには1匹のデメキンと3匹の金魚がヒラヒラと限られた範囲で自由に泳いでいた。
「金魚をすくうのが随分とお上手だな。祭遊びに向いているんじゃないか?」
「葉月さんに比べたらまだまだだよ……まぁ、頑張って一杯すくってね」
「あぁ」
神崎の声援を軽くいなして、店主から金魚を取るための容器と金魚すくいを持って金魚が優雅に及ぶ所に座り込んで、隙を窺うことにした。横に居る葉月は次々と簡単に金魚を器に持っていっている。
よく見ると容器の中には20匹以上の金魚が戯れていた……俺は開いた口が塞がらない状態になっていた。後ろに居る子供達も注目して見ている。
「葉月……何故、お前の紙はそんなに破れないんだ?」
金魚鉢を使ってヒョイヒョイと小さい金魚をすくいながら葉月は呟いた。
「そんな簡単に破れないですよ。ちゃんとした扱い方をすれば余裕で30匹いけます!」
いけるのだろうか?俺は横で意気揚々と金魚をすくっている葉月をチラリと確認した後、前を向いて水面に浮かぶ金魚を見定める……赤くて小さい金魚と黒くて大きい金魚。
俺は当然、安全に取りたかったので前者の方向で見定めて取ることに決めた。
「よし……いくぞ」
ゆっくりと浮かんでいる1匹の金魚に狙いを定めて、ガサッと水に入れ込んで対象の金魚をすくい上げて
「頼む……」
入れ込むと、小さな金魚は容器の中に入り込んだ。そして内心喜びつつ水面に付けると、俺の持つポイは惨めに破れ去った……後ろで見ていた姉さんは
「ドンマイ!」
と嬉しくない言葉で慰め、その横に居る東條は哀れんだ目で俺を見ていた。神崎に至っては苦笑いをしている……
「お嬢さん!それ以上は取らんでくれ~金魚が居なくなっちまう!」
ガンガンに金魚鉢に金魚を詰め込んでいた葉月は店主の悲鳴でやむなく止めた。容器には数え切れない程の金魚が泳いでいた……
「葉月さん凄いね!」
神崎は葉月に近づいて容器を見た後、驚きの表情を浮かべていた。
「そんな事無いですよ!」
照れ隠しをする葉月を横目で見て俺はポケットからスマホを取り出して時間を確認する。
時間はPM7:50……そろそろ祭の醍醐味である花火が打ち上がるな。俺は破れ去った無惨なポイと容器を店主に渡して
「葉月、神崎。花火が打ち上がるから、さっさと急ぐぞ。見る場所が無くなってしまう……」
皆を呼びかけて、俺達は花火が打ち上がる場所に向かった。歩いている歩行者も同じことを考えついたのか……皆、花火の場所へと向かっている。おかげで少々動き辛い。
俺は最低限、葉月だけは守らなければならなかったので葉月の側に居ながら必死で守ることにした。それでも人の勢いが止まない為に葉月は吹き飛ばされそうになっていた……
俺は止むを得ないと判断して葉月の右手を掴んだ。東條も俺の咄嗟の行動に反応して、すぐに葉月の左手を掴んだ。葉月は俺に申し訳なさそうな顔で
「すいません、如月さん」
「気にするな……今日は花火だから人が多い。落ち着くまではしっかりと握っていてくれ」
「はい!」
葉月はニコリと微笑んで、元気よく返事をした……後は悔いの無いようにするか。
「葉月、こんな時に話すのはおこがましいが良いか?」
「……?別に良いですよ」
「花火が終われば葉月にとって、良くないことが訪れるかもしれない……だが、そうはさせない。絶対に……だから葉月は絶望的な状況になったとしても、俺を忘れないでくれ」
「何言ってるですか!?縁起でも無いですよ!そんな下らない事を言わないで楽しみましょうよ、如月さん!」
「あぁ、そうだな」
話を終えた俺達は花火が打ち上がる場所に到達した。辺りは真っ暗だが、よく観察してみると敷物を敷いて、座りながら夜空を眺める者達や直立して眺める者達が居た。俺達は敷く物を持って来てはいなかったので直立して見ることになった。
開催まであと3分……長いようで短い。俺は目を閉じて、これまでの人生を振り返るとあとで合流してきた神崎が俺に声を掛けてきた。
「これが、上がれば高校生いや学生達の夏休みももうすぐ終わるね」
「長いようで短い夏休みだった」
「夏休みの宿題は終わったのかい?」
「この前、終わらせてやった。無事に始業式を迎えられそうだ」
「そうか……それは良かった」
神崎が満足そうな顔で夜空を見ると、一発の始まりの花火がヒュルヒュルと空に上がり、大きな音と共に綺麗な紫色の花火が夜空を映した。後ろを振り向いても神崎は何でも無いと言う表情で俺を見た後、打ち上がる花火に感銘していた。
花火は次々と夜空に舞い上がって皆の目を虜にしていく……そんな時に後ろから神崎が俺の耳元で微かな声で囁いた。
「心残りは無い方が良いからね。君もそして……僕も」
その瞬間、腹に強烈な痛みが俺の身体全体にほとばしった。感覚的に一発では無く二発は確実に撃たれている……
今まではっきりと見えていた綺麗な花火が一瞬にして視界がぐらつき、俺は耐えることが出来ずにそのまま後ろへと倒れ込む……横に居た観客はすぐに異変に気づき、叫んでいた。
花火の歓声から一転、辺りは瞬く間に悲鳴へと変わっていった。俺の僅かな視界に葉月が映り込んでいる……泣いているのだろうか?雫が妙に当たる。
「如月さん!如月さん!しっかりして下さい!……どうして?何でこんな事に?いやぁぁぁぁ!」
葉月の叫び声を最後に俺の視界は暗転していった…………




