CODE14:緊急会議
俺達二年一組は無事に二年のクラスの中で総合優勝した。その後、一週間後に行われる中間テストを終えて今は皆が待ち望んでいた夏休みの期間に入っていた。勿論、葉月はこれを機会に色んな場所に行こうと提案してくれたのだが、この前の遊園地で起こったことや最近のリバースの動きが過激になっていることから、葉月は郷間に必要な外出は基本禁止だと言われてしまった。
その間は東條が常に警護して葉月を夏休みの期間中、一日中守っていく方針にするらしい……俺はというと、のんびりとダラダラと過ごしていた為、気が付けば宿題を一つもやっていないことに気が付き、どうすれば良いかと悩んだ末……結果的には頭の良い東條から教われば良いかと思い、相談のメールをして了承を得たため葉月の家に来ている。俺は葉月の家を少しだけ見上げてインターホンを押した。
インターホンからは葉月では無く東條から聞こえた。東條は俺の声を聞くとすぐに家に入るように促した。
「お邪魔します」
至ってシンプルな家だが部屋の辺りには何だか良い臭いがするな。俺はその臭いに少々酔いしれると横のリビングのドアから葉月が出てきた。
「ま、ま、まさか如月さんが家に来るなんて……とにかく早く上がってきて下さい!」
葉月の奴、随分と慌てているが何かあったのか?俺は葉月の様子に疑問を持ちつつ、靴を脱いでリビングの方に入っていった。リビングに入ると奥の机で東條が椅子に座って待ち構えていた。
「いらっしゃい」
「あぁ、その……悪いが教えて貰って欲しい宿題が……あるんだが良いか?」
東條は俺を睨みつけ、溜め息をつくと呆れ顔で俺に向かって向かいの椅子に座るように促した。俺は黙って椅子に座り、東條と向かい合った。葉月は俺達の為にテーブルに冷たいお茶を二つ置いて、斜めから静かに見守っていた。
「覚悟は……出来ているわね?」
東條の真剣な顔つきに俺は喉をゴクリと鳴らした後、覚悟は出来ていると答えた。
「じゃあ、分からないページを開けなさい。私が直々に教えてあげるわ」
「実は数学と英語の問題がさっぱり解けなくて、殆どスカスカなんだが……」
「なんてこと!あなたはそれでも私と同じ高校生なのですか!?やっぱり一応聞いておいた方が良さそうですね!この前の1ヶ月前の数学・英語の点数はどれくらいですか?」
俺はあまり答えたくなかったので首を横に振って拒否しようと試みるが、東條が眉一つ動かさず俺を見つめてきたので仕方なく答えることにした。
「数学は40点で英語は20点だ」
東條はその言葉を聞いた瞬間、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。葉月に至っては苦笑いをしていた。
「おぃ、どうした?俺の成績はそこまで悪いか?他の下位の奴らよりはマシだと思うが?」
「数学は目をつぶるとして問題は英語ね。そんな成績でどうやって社会に貢献するのかしら?」
「……まぁ、なんとかするだけだ。とにかく今は俺の宿題を手伝ってくれ。じゃないと植木や姉さんに色々と家で押し付けられる可能性がある……それだけは避けたいんだ」
東條は無言で椅子から立ち上がってリビングのドアを開けてどこかに行った。しばらくすると東條は再び、奥の机の椅子に座りペンケースを持ち構えた。
「今日は夕方までには私の手で終わらせます!じゃあ、如月……始めましょう!」
「あぁ、なるべくお手柔らかに頼む」
かくして俺と東條によるスパルタ宿題会が幕を切って訪れた。
※※※※
お昼休みの午後、郷間と春日井は部署内で弁当屋で買った手作り弁当を食べながら休憩を取っていた。他の者は食堂の方に行ったので居るのは二人だけだ。
「今日のトンカツ弁当は衣のパンチが弱いな……誰が揚げたんだよ。くそっ!返金してぇ」
「まぁまぁ、所詮は弁当屋だから、大目に見てあげようよ」
「そうはいってもさぁ……やっぱり金を出したのは俺なんだし、そういう権利は必――」
春日井は愚痴を言おうとした時、ドタバタと一人の受付役が出てきたので、郷間は食事を止めて箸を置き落ち着くように促し、事情を聞くことにした。
「怪しい男が郷間警部に繋いで欲しいという電話をして来ました。出来なければ何人かの命を奪うとのことでしたので急いで駆けつけてきた次第です」
「分かった。内線を回せ」
郷間は受付役にそう伝えて春日井の隣の席から自分の席に戻り、受付役が繋いだと同時に受話器を上げた。
「もしもし、こちらはゼクター大宮支部の警護課の郷間警部だ。何の用か聞いてやろう」
郷間がそのように喋るとダミーボイスでフッと笑い喋り始めた。
「俺は今、日本の政治を担っている総理大臣の身柄を預かっている。返して欲しければ俺の指示に従え」
郷間は馬鹿げた話だなと半々思いながらも相手をする事にした。だがその思いは裏切られる事となった。
「その感じ、嘘だと思っているだろう?残念ながら本当だ。今、テレビを付けてもそのニュースは流れないとは思うが……もうじき俺達が国民に向けてニュースを流す。その時にお前らは事の重大さを知るだろう」
ダミーボイスで喋る男から電話を切られてしまった。郷間は怪訝な顔になりながらもどうしようもなかったのでとりあえず、警護課全員に集まるように伝えた。それを横目で見ていた春日井は少しだけ残っていた弁当を自分の机に置き、テレビを付けて様子を窺うことにした。
郷間が召集を掛けた瞬間、すぐに警護課のメンバーは郷間の所に駆けつけてきた。郷間は皆が集まった瞬間、皆に何が起きたのかを伝えて言い終えた次の瞬間、突然バラエティー番組が暗転して場面が変わり、目隠しと手錠を掛けられていた男が壁に張り付けられていた。
そこに一人の真っ黒の顔が見えない人間が画面を見つめて張り付けられある男を見ながらお茶の間に居る俺達に向けて言い放った。
「これで証明は出来たな……ではこれから、俺の要求に答えてもらうとするか。要求に答えてくれればこの男を解放してやる。但し要求を呑まなかった場合は……画面外に居るお茶の間に地をさらすこととなる。では最後にこの男が総理大臣だという証明をしよう……ほら、なんか喋れよ」
壁に張り付けられている男はうなだれている顔を上げて
「私を……助けてくれ」
と一言だけ告げた。その時、画面はまたしても暗転し、元の画面に戻った。だが事態が事態な為、先ほどの番組は急遽中止となりニュース番組へと切り替わった。この時に郷間はいよいよ事の重大さに気が付いた。その時にまたしても郷間の机の電話が鳴り響いた。郷間は心の準備をしたのち受話器を取った。
「さっきの番組……いや脅迫を見させてもらったよ。要求を聞いておこうか?」
「要求は至って簡単、葉月桜の身をこちらに渡せ。出来なければ、さっき宣言した通り……総理大臣を処刑する。それともう一つ……葉月桜の素性をネット上及びテレビに晒す」
「葉月桜……何故あの子を知っている?一体何が目的でそんなことをするんだ!?」
「返答は三時間後に聞かせてもらう。その時までに良い返事を期待するよ」
ダミーボイスの男はそう言うと電話を切った。郷間は受話器を戻した瞬間、大宮支部全体に緊急事態宣言をして本部に繋ぎ、連絡を仰いだ。連絡はすぐに来て、本部のメンバーが合流することとなった。春日井は事態を読んで色々と準備をし始めた。郷間はメンバー全員に本部を迎えるために第一会議の準備をしておけと伝えてから、ポケットからスマホを手に取り、事情を知らせるために如月に電話を掛けることにした。
※※※※
鬼のような宿題会が始まり、あれから五時間が経った。葉月特製のお昼ご飯も食べたのだがいかんせんに乗り気にはなれなかった。何故ならまだ英語の長文問題が所々空白だったからだ……これではモチベーションすら上がらない。どうすれば良いんだ?
「まだ、諦めるには早過ぎるわ。如月、とにかく今は目の前の問題に集中しなさい!そうすれば自ずと自然に解けるはずよ!」
「そうか。ならこの問題を教え――」
駄目だ。東條が完全に鬼になっている。これはもう自分で解くしかないのか……英語苦手なのに。俺はうなだれもシャーペンを持って仕方なく挑むことにしたがその時、俺のスマホから着信音がしたので東條に平謝りをしてからリビングの扉を開けてから廊下内で通話ボタンを押した。
「何の用だ?俺は今、宿題に明け――」
「緊急事態発生だ。今日、12時お昼辺りに総理大臣を誘拐された!今すぐにでも着てくれ!詳細は後で伝える!」
俺は電話を切って、リビングの扉を開き帰り支度を始めた。東條は初めにその姿を見て止めようとしていたが、やがて何か気付いたのか葉月に聞こえない声で喋り始めた。「何か良くないことが起きたのかしら?」
「まぁ、そんな所だ。悪いが宿題の件については落ち着いてから、またやろう。東條は葉月のことを頼む。葉月、すまない。急用を思い出したから帰ることにする、じゃあ」
「えっ!如月さん!」
俺は玄関を出て急いで交差点まで走っていき、右手でタクシーを拾い上げてゼクター大宮支部に向かった。支部には20分くらいで到着して運転手に金を払い領収書を貰ってから支部内に入った。中には支部の人間が所狭しと行き来しておりちょっとしたパニックになっていた。
俺はとりあえず、人を掻き分けながらも郷間が居る10階の部屋まで行くことになり入った時には、郷間と春日井と偉い感じの人が待ち構えていた。郷間を俺を見かけた瞬間、俺を連れ出して紹介をすると言い出した。
「蓮君。こちらの方は大宮支部で支部長に着任している大和支部長だ。支部長!こちらが例の如月蓮君です!」
俺は一応ぺこりと頭を下げることにした。支部長も同じく頭を下げて顔を上げ喋り出した。
「私が大和元康だ。話はあらかじめ聞いている……今日は例外的にではあるが君にも参加してもらう。まぁ、勿論嫌だというならば止めはしないよ。どうする?」
恐らくこのまま行くと総理大臣を救出する話になるな。だが一つだけ気になることがある……それを聞いておこう。
「犯人の要求は何ですか?やはりお金ですか?」
俺がそう言うと、郷間は「あっ、しまった」という顔をして事情を説明し始めた。
「犯人の要求は一つ……葉月桜を引き渡すこと。取引が成立しなければ葉月桜の異能を全国にばらまき、総理を抹殺するらしい」 葉月桜を狙っているのか……だとしたら犯人はこの前まで葉月を襲ってきたリバースのリーダーなのか?いや、リーダーでこんなに大胆な動きはするのか?総理を誘拐して脅迫は少しやり過ぎている気がする。
リーダーならもう少し段階を踏んで実行する筈だ。だが今回の件は葉月のことがある……この件の犯人に話を聞けば色々とわかるかもしれない。だから……俺は考えるのを止めて、顔を上げ支部長にやりますと伝えた。支部長は一瞬驚いていたが、すぐに了承してくれた。
「よし、では如月君は郷間警部と共に第一会議室に行きたまえ。間もなく本部の方も来られると思うから、くれぐれも失礼の無いように……では私は本部の方を出迎えるのでここでお別れだ」
大和支部長は郷間に右肩に手をポンッと置いて部屋を立ち去った。俺と郷間は目配せして第一会議室に向かった。第一会議室はエレベーターで下がって五階の所にある大きな部屋だ。そこは本部が来るときや緊急会議の時にしか使われていないらしい……とエレベーターの中で郷間は説明した。
そして到着して真っ直ぐ進んで突き当たり右にあったので入室すると、そこにはせわしなく準備をしているメンバーが居た。どうやら北神刑事も会議室の準備をしているみたいだ。俺が広い第一会議室の周りをじっくりと見ていると後ろから春日井の呼ぶ声がしたので振り向いた。相変わらず呑気に棒付きのキャンディーを舐めている。
「いや~まさかこの部屋が使われとはね!今日は凄い日になるぞ!」
「呑気ですね。そんな感じで大丈夫なんですか?」
「大丈夫!大丈夫!俺はやる時にやれる人間だかさ!期待しといてよ青髪君!じゃあそろそろ幕開けだから所定の位置に着席するよ!バイナラ!」
春日井はそう言うと、前方の一番前の端っこの席に座りつかの間の睡眠を始めた。何故春日井はあんな重要な席に座れるだ?ますますわからない……俺はとりあえず、席は自由席だと思い遥か後ろの席に着席した。その時机の上に書類が置いてあるのでパラパラと適当に捲った。始まりの時間は14時……後20分か。俺は何もやることが無いので黙って待つことにした。そして俺が黙って待っていると次々に支部の皆が席に座りだし、本部らしき人が二名来た時は全員起立をしてブレることなく立っていた。
「おい!如月!お前も立て!」
隣に座っている北神に忠告をされたので俺は仕方なく起立することにした。一人は頭が禿げている人でもう一人は眼鏡を掛けたインテリ風の男性に見えた。本部の人は真ん中の机に並んで立つと同時に座るように指示を促した。俺は一応周り立っている人達と同時に座るように心掛けた。俺達が座るのを確認した後、本部の方は椅子に座ってマイクを持ち号令をかけた。
「では、これより村上総理大臣誘拐事件についての会議を行う」
午後14時……いよいよ本部の人が来たことにより緊急会議が始まる。
※※※※
1、2、3……まだ出ないコールに男は片指で机をリズムを刻んでイラついていた。そしてコール音が鳴り止むと男は電話の向こうで怒りを露わにした。
「てめぇ!何してんだ!今すぐ、総理を解放して終わらせろ!今はまだ動くときじゃねぇとこの前、しっかりとアジトで宣言したばっかりだろうが!」
「そうは言いましてもね……色々と準備はしたので、お目お目と引き返す訳にはいかないのですよ。大丈夫ですよ……今回の作戦は必ず成功します。この私の実力を見誤らないで下さい。TG、いや葉月桜氏は必ず私がお連れします。あなたの為にも」
「お前、今何処にいるんだ?」
「場所ですか……答えたら殺されるかもしれないんで黙秘権を実行しても宜しいですか?」
「良い度胸をしているな……お前!」
「おぉ、怖い怖い。仕方ないですね場所位は言っておきましょうか……場所は」
男は自室に移動して、紙切れを一枚乱雑に引きちぎって場所の詳細を書いた。
「分かった……最後にもう一度聞くが、今回の件……止めるつもりは無いんだな」
「マスター、男に二言は無いですよ。心配せずとも、私は必ず成功させます。では」
電話は切られてしまった。男はスマホの画面を閉じて、その場で左の拳に力を込めた。
「くそが!こうなったらアイツは潰す。組織の為にも……俺の為にも」




