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改革 軍務編成

「では続いて、今後の戦略について話し合いましょう。シオン、お願いできますか?」


ジョルジュが、そう言うと全員の目がシオンに集まる。


「相変わらず自分のペースで進めていくねぇ……」


そうブツブツ言いながらシオンは苦笑を浮かべ、三枚の紙を提示した。


一枚目は軍の組織図である。


「まずは軍の組織から改編しましょう。こちらを見ていただきたいと思います」


シオンが提示した紙には綺麗な字で簡潔にまとめられていた。



最高司令官 アレス・シュバルツァー

参謀 シオン・トリスタン


第一軍団長 アレス・シュバルツァー

副軍団長 シャロン・ロクシアータ

副軍団長 リリアナ・レドギア


第二軍団長 シグルド・ドラゴニア

副軍団長 アルノルト・ノイアー


第三軍団長 ダリウス・グランツ

副軍団長 ディルク・ヴィンケルマン


第四軍団長 シオン・トリスタン

副軍団長 エアハルト・グランツ

副軍団長 ロラン・グランツ


「アレス様の第一軍団は、アレス様の私軍二万を当てます。グランツ兵五万は、各二万ずつを第二軍、第三軍にわけ、主力として配備します。残り一万をセインツ守備兵として第四軍に駐屯させます」


シオンの言葉にシグルド、ダリウス両名は頷く。


「ちなみに私の副官はエアハルト殿とロラン殿にお願いしたいと考えております」


ロランもまたゲイルの四男、ダリウスの弟であり、先の魔獣との戦いで三男エアハルトとともに活躍した若き勇将である。若干の幼さが残るロランは急な抜擢に戸惑いながらも


「承知しました!」


と張りのある声で答えた。


「はっきり言って、私は前線に出て剣を振るう事はありません。それゆえ貴方にはその代理を勤めていただきます。無論、一人では責任が重いので大切な時にはエアハルト殿とともに勤めてもらいましょう」


その様子をダリウス達は満足そうに眺めていた。


「「はっ!」」


エアハルトとロランは声を上げて低頭する。


「では反対意見はなさそうなので……」


「ちょ、ちょっと待って!!」


決まりかけている中、意外なことに反対意見を出したのはアレスだ。


「えっとさ。組織としてはいいんだけど、僕の副官がシャロンとリリアナ殿っていうのは……」


「先程帝都とレドギアより急使が来まして」


トリスタンは何を言ってるんだ、とばかりの顔でアレスを眺める。


「帝都からは主の「婚約者」殿達が準備が出来次第いらっしゃると。またレドギアからは落ち着いたら精兵とともに、将としてリリアナ殿を送るとのことでしたが?」


「根回しが早えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ」


アレスは思わず絶叫する。

シオンはそんなアレスを無視しつつ話を進めた。


「はい、他に反対意見は?」


「僕の意見は……」


「却下です」


がっくり項垂れるアレス。


「あのですねぇ、主。シャロン殿は皇立学院の騎士科を優秀な成績で卒業されております。それにほら……主が渡した『あれ』を使いこなしているらしいですから。また『白銀の姫騎士』リリアナ殿は間違いなく大きな戦力です。今はただでさえ人が少ないのですから、お二人にも力になってもらいます。リリアナ殿は精兵を集めてから……とのことだったので、すぐとはいきませんが、ゆくゆくはシャロン殿と共に主の副官として活躍してもらいましょう。あと……主の痴話騒動は今に始まったことではありませんから……自分でなんとかしてください。はい反対意見もないようなので、主、サインを」


言われるがままに、渋々サインをするアレス。そして組織図が輝き、正式に認証されることとなった。


「では続いて今後の方向性を。この二枚の地図を見て下さい」


そう言って今度は二枚の地図を広げた。シオンが指し示した地図にその場の全員が目を向ける。見るとそこにはグランツ地方の地図とアルカディア大陸全土の地図であった。


「まずはグランツ地方からですが……」


そう言ってシオンが示した箇所はグランツ西部、魔境の大地だった。


「まずはこの魔境の大地を制圧しましょう」


シオンはそう言うと魔境の大地と妖魔貴族について自分の見解を語り始めた。


「この魔境の大地は元来肥沃な地であり、開発をする事によって国の基盤となる地になります。この地を制圧し開発できれば、グランツ領はアルカディア帝国でも有数の国力をもつ地になれます。また全力を上げて異民族に当たることもできます。できるだけ早急に手を打ちたいと思っております」


そう言ってシオンはジョルジュを見る。ジョルジュは無言で頷いた。


「グランツが魔境の大地を制圧できない理由はここにいる3人の妖魔貴族の影響でしょう」


「むぅ……まさにその通り」


ゲイルは渋い顔をしながら低い声をあげた。


「各個撃破ならダリウスでも可能であった…が、ダリウスが出ると残り二人の妖魔貴族がセインツに現れる。また同時に北の蛮族や西のアーリア人もチャンスとばかりに攻め寄せてくる…上手くいかなかったのが実情だ……」


ゲイルの言葉にシオンは頷いた。


「妖魔貴族……しかも魔境の大地の妖魔の中には、上級妖魔貴族……別名、八魔貴族と呼ばれる強者も含まれると聞きました。一人でも太刀打ちできるものは数少ないのに、複数で襲ってきたら厄介な存在と言えるでしょう」


そう言うとシオンはシグルドを、ダリウスを、そしてアレスを順に眺めていく。


「それゆえ、第一、第二、第三軍、いずれも出ていただき、同時に制圧しようと思っています」


「確かに、アレス殿、シグルド殿、そしてダリウスは比肩するものがいない猛者。それもできるかもしれぬ。しかし、空になったセインツに北の蛮族やアーリア人が来たら……」


ゲイルの意見に対し、シオンは事も無げに答える。


「あぁ、それは大丈夫ですよ?」


「!?」


「一応、戦の前に少し痛い目を見てもらおうと考えています。また北の大地は今、牧畜の繁忙期です。馬や羊の子が産まれ、ここを大切にしなければ彼らの生活は賄えません。本腰でこちらにかかる余裕はないと思います」


一呼吸置いてシオンは言葉を続ける。


「またアーリア人は今、隣のドワーフ族と諍いが絶えない様子。恐らく攻めてくることはないでしょう…そして仮に攻めてきても追い返す策はいくらでもあります。ご安心下さい」


そう言うとシオンは再び視線をアレスの方に向けた。


「それゆえ、今が魔境の大地制圧の好機とも言えます。この機会を逃すわけにはいきません」


シオンの力強い言葉を聞き、全員が頷く。その様子を見て、シオンは魔境の大地攻略のための策を話し始めるのであった。





「魔境の大地を制圧し、基盤を整えましょう。ジョルジュの提案通り進めていければ3年後には大きな力を手にしているはずです。そして、その力をもって、近隣の異民族やアーリア人、ドワーフを制圧します」


「その間、襲ってこられたらどうする?」


「時には財力で懐柔し、時には武力で追い返しましょう」


シオンは言葉を続ける。


「まずは3年。3年で領内の改革を推し進め、そして異民族を含むすべての問題を解決しなければなりません。そのころ、間違いなく大陸は大きな変革期を迎えます。それまでに『国』と争っても負けない力をつける必要があります」


「でも、皇帝がそんなに待ってくれるのか?来年には東方遠征というように聞いたが……」


ダリウスの疑問にシオンは答えた。


「おそらく、東方遠征はなくなりますよ」


「!?」


全員が息を飲む。


「西方のトラキアの動きがあります。そして南方のシンドラ王国も何か企んでいるようです。近々西方、そして南方で大きな戦があるでしょう…」


そういうとシオンはアルカディア帝国の地図を指し示す。


「主にも恐らく遠征への勅命がくるかもしれませんが……この異民族征伐を理由にすれば、行かずに済みます」


「シュバルツァー領からは出ることになるよね?」


「それは断りきれないでしょう。おそらくはローエン殿かアルベルト殿が出るかと思われます。まぁお二人なら間違いありません。私も今度シュバルツァー領の大公閣下に策を書いた密書を送りましょう」


ただし、とシオンは付け加える。


「東方にも動きがあります。どうやらバイゼルト公国と新興国のドルマディア王国が周辺諸国を切り取っている様子。東方に超大国ができるのは厄介です。『龍の目』を使い、情報を集めるのと同時に、共に喰らい合うよう仕掛けておきましょう。また今からレドギアと隣同士のファーン公国やその隣のイストレア王国といった小国達に使者を送り、多少手を打っておきましょう」


「勝手に国に使者を送るのは……越権行為とみなされないか?」


ゲイルの質問に対し、


「『辺境伯』という地位は一定の自治を認められています。めんどくさい役職ではありますが……今回はその権利を目一杯使いましょう」


トリスタンはそう言うと長い髪の毛を掻き分け、言葉を続けた。


「繰り返しますが3年。この3年間は力をつけることに集中しましょう。そして……ここから世界を変えていきましょうか」






政治、軍事における初めての話し合いはこうして終わった。各々、緊張した面持ちで部屋から出ていく。


執務室に残ったのはアレス以下、トリスタン、ジョルジュ、シグルド、ダリウス、エランの直臣、顧問のゲイル、そしてベルガン、ラムレスの文官たちであった。


「これから忙しくなりそうですねぇ」


シオンが溜息をつきながら、茶化したように言った。

その言葉の後、ゲイルは神妙な面持ちでアレスに尋ねた。


「アレス殿……貴殿の目指しているものは何でしょう?」


ジョルジュの、そしてシオンの話を聞き、その規模の大きさに驚いたゲイル。

まるで一国の国主の政略、戦略のようではないか。


アレスは表情を変えず、ゲイルに視線をむけて言葉を発した。


「大陸の変革を」


「!?」


「王や領主の欲に振り回される時代を終わりにしたい……そう思っています」


「アレス殿……それは即ち、王位につこうと……」


「それは正直分かりません。そして、興味もありません。ただ、自分が今できることを着実に行い、『天の時』を待つのみです」


そう言うとアレスは掲示されていた地図を丸めながら、静かに微笑むのであった。

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