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叙勲

すみません、投稿日時を間違えました。


今日より2日投稿開始です。次回は明後日投稿になります。よろしくお願いします。

帝都にて。グランツ攻略を成功させたアルカディア軍を迎えたのは熱烈な民衆の熱狂であった。


「アルカディア万歳!」


「セフィロス陛下万歳!!」


多くの歓声に対しいつもなら晴れやかな顔で多くの将兵が応えるが、今回は複雑な表情をしている者が多い。

皆、解っているのだ。今回自分たちは何もしていない…いや


何もできなかったことを。




セフィロスより、今回の戦に対する評定と叙勲式を3日後に行う事が告げられたのは帝都に到着した翌日であった。

第二皇女シルビアはその報告をアレスとともにシュバルツァー大公家の屋敷にて聞いた。


「まさに貴公の望んだ通りの戦になったな……陛下が貴公に対してどの様な褒美を出すか……気になるところだ」


「恐らくはグランツ公の領土をそのままシュバルツァー大公家が合併…というところではないでしょうか?」


そう言うとアレスは静かに紅茶のカップに口をつける。


「遠隔地なので、その領主代理として私を据える…そんなところでしょう」


「しかし……あの功績に対してそれではあまりにも低くないか?」


シルビアは思う。私兵のみを率いて四カ国を降し、一国を救うなど古今東西聞いた事がない。


「陛下の事だ……また思いもよらぬ事を考えていると思うが……」


「何れにしても3日後には解ります。今はただ、その日を待ちましょうか」


「そう言えば、多くの諸侯から面会の希望がきていると聞くが?」


「………正直ちょっと困ってまして。どうしたら会わずにすみますかね?流石に疲れと称して断るのも明日明後日が限界かと思うので…」


そう零すアレスにシルビアは


「なに、明後日も明々後日も対して変わらんだろう。相手にするな」


と、答える。


「どうせ、娘の売り込みや甘い蜜を吸おうとする相談であろう?私としては、コーネリアとセリアスの後ろ盾になる前に、他の貴族の介入をされたくないんでね」


そう言ってシルビアは笑う。


「そう言えば、あれからコーネリアやセリアスに会ってくれたか?」


「流石にそんな時間はありませんよ。ましてやこの状況、難しいです」


「二人も随分と首を長くして待っているぞ。セリアスなどは戦の話が聞きたいらしい」


そしてシルビアは真面目な顔を向ける。


「お前はあの二人にとって大切な存在だ。くれぐれも軽率な行動は控えてくれよ」


シルビアの言葉に小さく苦笑するアレスであった。





帝都皇宮の大広間にて叙勲式は始まった。また同時に先の戦における処罰もここで決定される。


今回の式において誰の目から見ても主役は決まっていた。諸侯たちの関心は、果たしてその主役がどれほどの恩賞をもらうか、その一点であった。各貴族たちの顔を見ると、世話しなく諸侯たちと会話をしている者、つまらなそうに欠伸をしているもの、大貴族にゴマをすっているもの…それぞれの貴族たちが複雑な思いや思惑をもちながら皇帝セフィロスの登場を待っている。


アレスはそんな大広間の端にシルビアとロクシアータ伯爵ロイドとともに立っていた。

アレスと繋がりをもちたい貴族は多数いるが、流石にシルビアを差し置いて話しかけるわけにはいかない。アレスにとってシルビアの存在は非常にありがたいものであった。


「殿下のおかげで面倒な貴族とのやり取りもしなくてよさそうです。感謝いたします」


「当然だ。下手に貴族にちょっかいを出されても困るしな。」


そうやってシルビアと談笑しているところにセフィロスが広間に到着したことを知らせる声が響き渡った。


諸侯たちはそれぞれの場所に戻り、大慌てで頭を下げる。

アレスやシルビアも当然それに習った。


セフィロスは玉座に座ると重々しい声で口を開く。


「各々、顔を上げよ」


その言葉に全員がセフィロスの方を見つめた。


「此度の戦大儀であった。これより先の戦においての処罰と功績のあった者に褒美を取らす」


そういうとセフィロスは宰相クラーク公ジルベールに目配せをする。

ジルベールは皇帝の勅許を手に取り、オホンと咳払いをした後、それを朗々と読み上げた。


「まずは先の戦においての処罰を行う」


その瞬間、その一声で広間の温度が急激に下がったように感じる。諸侯は固唾を飲んで次の言葉を待った。


「まず初めに…………ザクセン大公ゲオルグ、および第一皇子カルロスは所領に戻り謹慎とする」


言葉が終わるのと同時に、諸侯から溜息にも似た声が上がる。


この決定によりゲオルグは派閥争いから、そしてカルロスは皇位継承問題から一歩後退した事を諸侯達は認識したのだ。それだけでなく彼らは多大な罰金を命じられた。


またその後、ダリウスが本陣に乗り込んだ際逃げまどった諸侯達の処罰が続く。

所領を没収されたもの。財を大幅に減らされるもの……当主が処刑になるケースもあり、諸侯達はセフィロスの決定を戦々恐々と見守っていた。


処罰が終わり、続いて論功賞にうつる。


先ほどと異なり、諸侯達の態度が変わる。


恐れでなく興味へと……


「では近衛騎士より……陛下をお守りした功績において………」


複数の者たちが名前を呼ばれ、その功績を称えられ褒美を授けられていた。それに合わせてそこに居合わせている諸侯たちの拍手が鳴る。近衛騎士の中には今回の功績で貴族に列せられたものもいる。彼らは誰がどのような活躍をし、どのような褒美を与えられたのか確認しているのだ……今後味方になるのかどうか見極めるために。


そして最後に名前を呼ばれたのは……全ての貴族たちが注目している男であった。


「では最後に最も功績のあった者を称えたいと思う…アレス・シュバルツァー公子、前へ」


「はっ!!」


アレスがセフィロスの前に出て跪くと諸侯たちは固唾をのんでその様子をうかがう。

好奇心を抑えられないもの、嫉妬に顔を歪めるもの……様々な思惑の視線がアレスに集まった。


ジルベールは初め、勅許を確認し……驚いた顔でちらりとセフィロスの顔を見た。セフィロスは顎をしゃくり、先を読むよう促す。


「アレス・シュバルツァー。ブルターニュ、トレブーユ、レドギア、グランツの4か国を破り、また数多の魔獣を追い払った汝の功績は、古今東西の英雄に比類なきもの也。よってその論功に最大の栄誉を取らす」


そう言うと一呼吸おいてからジルベールは続けた。


「汝、今名前の挙がった4か国…いずれも所領として認め治めるべし。グランツを本領とし、残りの3国はいずれもそれに属すこと。かの地を治めている貴族は彼の下につき、指示を仰ぐべし。またアレス・シュバルツァーに『辺境伯』の地位を授けることを認める」


この決定に諸侯たちは動揺が広がる。


「まさか……辺境伯とは……」


「元々、大公家の跡取りではないか……そのような高位を与えずとも……」


「しかしあの地は魔獣や蛮族の巣食う地。旨味があるかと言われると……」


『辺境伯』……位は侯爵と同等、公爵の下の立場である。だが、それ以上に認められているのは一定の自治権。本来定められている最大兵数も一任され、また政も自由に領の法律を作ることが許される。自領内においてはいわば独立国と言っても過言でないほどの権力を持つ。

アルカディア帝国において歴史上辺境伯は一人しかおらず、またすでにその家も現在は絶えていた。


また、グランツだけでなく残り3国もその支配下になると広大な領土をもつこととなる。

アレスは元々大公家。その領土と合わせると、帝国内に最大の領土を持つ家の誕生となるのであった。


しかし、アレスの褒章はこれだけではなかった。次の言葉は諸侯たちを絶句させた。


ジルベールは続ける。


「またグランツ領内は蛮族や魔族といったアルカディアの方に属さないものが多い。これを罰し、制圧することがこの地における最大の仕事となるだろう。それゆえアレス・シュバルツァーを『征夷大将軍』に任じ、その任を任せることを認める」


「征夷大将軍」……「夷」、すなわち異民族を討伐するために授けられた臨時の武官の職である。異民族と戦うための将軍……それは国内における武官において一番高い身分……最高司令官ということになる。

過去、アルカディアにおいてもこの職に就いたものは一人しかおらず、まさに幻の役職であった。


アレスは大公家に属すれど武官としてはまだ二等官ほど。それが一足飛ばしどころか大幅に位を上げることとなった。流石にこれには諸侯たちも騒ぎ出す。


「お、おそれながら申し上げる!!征夷大将軍とは元々軍の最高司令官。それを一戦のみの功績で決めてしまうのはあまりに早計!」


「某もそう思います。いくらなんでもこのような話聞いたことがありませぬ」


「確かにシュバルツァー公子には多大な功績がある。しかし、さすがに『征夷大将軍』とは……」


「二等官から一気に最高位など聞いたことがありませぬ!」


反対意見をあげているのは武官に属する貴族たちだ。現に帝国元帥を務めるランドルフ公などは苦虫を噛み潰した顔をしている。反対にもう一人の元帥、マクドール公は面白そうな顔をしていた。


ドン!!!


諸侯たちの反応を聞き、セフィロスは軍靴を鳴らして場を静まらせた。


「今回の褒章に関しては余が決めた。それに反論すると言うのは余に反逆の心あり、ということになるがそれでもよいか?」


静まり返る諸侯。そしてセフィロスはアレスの方を見て言葉を続ける。


「汝に『征夷大将軍』の位を授ける。この職にふさわしく、見事『呪いの大地』の蛮族どもを平定せよ。失敗は許さん。またこの職を断ることも許さん。また、帝国兵を連れて行くこともできぬ。自らの兵のみで解決せよ」


『自らの兵のみで解決せよ』


その言葉に諸侯は気付く。これはセフィロスがアレスに課す「呪い」のようなものであると。征夷大将軍は軍における最高司令官とは言え、皇帝からの勅許がなければ兵を動かすことはできない。実質飾りのようなものである。

しかし、アレスが赴任するのはグランツ。蛮族、魔族など数多くの敵が内存している場所だ。「征夷大将軍」という役職上、それらと戦い続けなければならない。

正規兵を動かすことができず、己の兵のみでそれらと戦い続けろという命令。

セフィロスはアレスに最大の名誉を渡すと同時に過酷な試練を与えたのだった。


セフィロスがアレスに目をかけていると思っていた諸侯も戸惑いを隠せない。セフィロスの本心はどちらなのか……??


鋭い眼差しでアレスを見つめるセフィロス。アレスもまたセフィロスをじっと見つめていた。そして意を決したように


「臣アレス。承りました」


と口を開いた。

鷹揚に頷くセフィロス。

その様子を見た後、宰相ジルベールは再び言葉を続けた。


「またアレス・シュバルツァーに婚姻の議を申し付ける」


「……はっ??」


その場の空気が再び固まる。

アレスもまた、思わず素っ頓狂な声をあげ固まった。


とくにアレスとの婚姻を狙っていた諸侯からすれば寝耳に水であった。


口を開いたのはセフィロスであった。


「余の四女コーネリアを伴侶として受け入れることを命じる。今コーネリアは18歳。そなたとは年も近いゆえ、似合いであろう。一年後にはグランツに送る故、伴侶とすること。これも拒否はできぬ。命令である」


四女コーネリアは後ろ盾のない、弱い存在であることは誰の目にも周知の事実であった。本来婚姻は双方に事前に伺いをたて計画的に決めるもの。例えそれが皇族であってもそこに変わりはない。ましてや相手は大公家の人間だ。

それゆえ勅命として急遽強制することは前例にない。


辺境にとばすのは皇位継承争いから遠ざけるためのコーネリアに対する父の優しさなのか、それとも逆にアレスを皇位継承争いに巻き込む策略なのか………


決定が下された後、貴族の動揺の声が大きくなる。その声を割るように手を挙げたものがいた。


「陛下、よろしいか?」


今まで黙っていた第二皇女シルビアだ。


「許す」


「今、コーネリアとともにいるセリアスの処遇はこれから如何なりますか?」


シルビアとしてはセリアスもまた彼女の心配事の一つである。


「セリアスもそろそろ武官として経験を積ませようと思っていたところだが……」


「それなら私にいい考えがあります」


シルビアは続けて言葉を発した。


「セリアスとコーネリアは仲がよい。それを引き離すのも哀れであります。コーネリアと合わせてグランツに送るのが上々かと」


セフィロスはシルビアの顔を見る。シルビアはここぞとばかりに口を開いた。


「グランツを治める予定のアレス殿はこの四ヶ国を平定した英雄。学ぶ事も多々あると思いますが」


シルビアの言を聞き、セフィロスは静かに頷く。


「あいわかった。セリアスについてはおって沙汰をだそう。アレス・シュバルツァーもそのつもりでいるように」


そう言うとセフィロスは立ち上がった。


「今回、アルカディアは東方への要、グランツとレドギアを手に入れた。年が明ければ東方を平定する予定である。各々、準備を怠らないように」


「「「「「「ははっ!!」」」」」」


こうして、アレスにとっても予想を超えていた叙勲式は幕を閉じたのであった。




アレスはグランツを主とする、レドギア、ブルターニュ、トレブーユ4ヵ国の領土を持つ貴族に叙勲された。

アレスが大公家を引き継ぐ際、これらもまた合併されることも同時に定められた。


「正直、僕もここまでになるとは読めなかったよ……確かに問題は山積みだ。だけどやりがいのある仕事だと思う」


そう言ってアレスは一度帰宅した後シグルドに笑いかけた。


「とりあえず、シュバルツァー領に一度戻って父上と図ろうと思う。これから領地経営をしなければいけないんだから…人材も確保しないとね」




これより「呪い地」と呼ばれしグランツは大きな転換期を迎えることとなる。


後に歴史書にはこう記される。


「呪いの地」はこの日より英雄皇がその大陸制覇の第一歩を踏み出した「始まりの地」となる、と。

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