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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
序章 〜アレス・シュバルツァーという男〜
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領都 ロマリア

魔獣および野盗の征伐を終え、シュバルツァー辺境伯領、領都ロマリアの街にアレスは凱旋した。


野盗や魔獣を討ち、疲労困憊のアレス一行。そんな彼らを待ち構えていたのは、多くの民衆からの歓声であった。


「ありがとう!これで安心してまた商いができる!」

「隣村の父のところまで、薬を持っていくことができるわ!」

「農作物を荒らされることもなくなるし、夜安心して眠ることもできるな!」

「アレス様はまだお若いのに大したお方だ!!」

「そうだ、これでシュバルツァー公領は安泰だ!!」

「アレス様万歳!」

「若様、万歳!!」


初めは騎士団を褒め称えていたのが、徐々に自分を褒め称える声に変ったことで、アレスは少しムッとした顔になる。


「僕だけの功績ではないんだけどな……」


小声でぼやくとその声に傍らにいたシグルドが答える。


「皆、英雄を求めるのはいつの時代も変わりません。そして、実際今回の討伐の指揮をとられたのはアレス様です。策を考え実行したのもアレス様です。自ら剣をふるって誰よりも多くの賊や魔物を葬ったのもアレス様です」

「それでも命を懸けて戦ったのは皆も同じだ。彼らもまた、ここの英雄さ」


そう言って渋い顔をするアレスを見ながらシグルドは小さく笑った。

そう、自分の主はそういう人間だ、と。


「そうかもしれませんが……ではアレス様。ここで皆に一言かけてあげてはいかがですか?誰もがきっと魔獣を討伐した真の英雄のお言葉を待っていることでしょうし……そんな名もなき英雄に目を向けさせることができるのも……アレス様のみだと思いますが?」


見れば多くの民衆がアレスの方を一心に見つめ声を挙げ称えている。アレスはその様子を見て、そして後ろにいる兵士たちを眺めた後、はぁと小さくため息をつく。そしてそっと手を挙げた。

それを合図に、あれほど大騒ぎだった民衆たちは声を静め、ただ1人の人間に注目をする。

と、同時にあたりは静寂に包まれた。


「皆さん、わざわざ来てくれてありがとう。暖かい歓迎に感謝しかありません」


そう言ってアレスは聴衆に目を向ける。皆、笑顔でアレスに目を向け、耳を傾けている。


「帰りを待ってくれてありがとう。そして……盛大な歓迎をありがとう。ただ一つだけ……僕は不満がある」


その言葉にその場の雰囲気は一変する。


このような盛大な歓迎で不満がある?

たしかにアレスが華美を好まないことは知っている。だが、民衆の自由意志は受け入れないタイプの人間ではない。


何が不満なのか?その場にいた者は一様にアレスの次の言葉を待った。


「今回の作戦は僕だけの力では何もできない。褒めるのは僕ではなく、ここにいる全員に言ってほしい。今、皆さんは僕の名前をあげてくれる。それは嬉しい。でも僕じゃない。褒め称えられるのは、ここにいる騎士たち全員だ。だって彼らこそ、この領土を守り、魔獣を討伐した英雄なのだから……」


しんと静寂が辺りを包み込む。だが


パチ パチ パチ


誰が始めたのか……遠くの方から拍手の音が聞こえた。それを合図にあちらこちらから同様の音が聞こえ始め、静寂はその音にかき消されていった。そして次第に熱狂的な歓声に変わり、多くの騎士たちは民衆たちにもみくちゃにされ始めた。

騎士たちの顔を見ると誰もが照れくさそうに笑っている。どの顔も誇りに満ち溢れて。


それを見て、満足そうに笑うとアレスはシグルドとともにその喧騒を後にするのだった。


ロマリアはシュバルツァー領の中心都市になる。

その歴史は古く、シュバルツァー家の初代、『不敗の名将』ジェラルド・シュバルツァーが大公になった際に定められたと言われている。


「大公家」とは初代皇帝に付き従った4人の名臣が興した家である。初代皇帝はこの4つの家に自分の娘を嫁がせ、「大公家」として家臣の中では最大の権力を与えたのであった。


そしてシュバルツァー家はその「四大公家」として、ジェラルド以後何代もの当主によって発展し、ロマリアは神聖アルカディア帝国内でも有数の都市として大陸中に名が知られるようになった。


シュバルツァー領、ないし、その領都ロマリアは農業・商業ともに盛んであり、アルカディアの中でも有数の治安もよい街として名が知られている。しかしそれ以上にこのロマリア、およびシュバルツァー領の名が知られる点。


それは


獣人、エルフ、といった亜人を含む、様々な人種に対して差別や偏見がないこと


であろう。


本来、獣人やエルフ、ドワーフなどの亜人種は人族の地においてはどこでも差別の対象であった。場所によっては奴隷として使役している地も少なくない。


これは人族の彼らに対する潜在的な恐怖心から来ているものであるといわれている。

獣人は人族より筋力や瞬発力に優れている。戦闘能力としては人族よりはるかに上をゆく。

エルフは森の王者ハイエルフを筆頭に魔力に優れているものが多い。

ドワーフは筋力と手先の器用さが人族の比ではなく、優れた武器や防具をつくることができた。


それゆえ、人族は彼らを蔑み、数の力で押さえつけ、そして使役するようになったのである。


また、神聖アルカディア帝国が定めている国教。その教会においても、教えの中で亜人たちを非難する言葉が見られる。それ故、教会においては亜人たちは差別と偏見の対象となっているのである。


しかし、ここシュバルツァー領内ではそれが皆無であった。これは初代当主、ジェラルドからの方針であり、それがシュバルツァー家の方針となっていた。教会もまた、相手が皇室に次ぐ権力をもつ大公家であるため、中々手出しをすることが難しい。


そのため多くの種族がこの町に集まり、現在の繁栄を支えている。

今回遠征した領軍も、獣人族をはじめ、様々な種族が混成している部隊であった。



城門をくぐると多くの家臣や召使たちがアレスを迎えた。


「若様、お帰りなさいませ」

「「「「「「お帰りなさいませ!!」」」」」」


「あぁただ今。」


アレスはそう言うと家令のセバスチャンに声を掛けた。


「父上はどこにいる?」


「はい。若のお帰りをお部屋の方でお待ちしています。」


(このままのんびり皆と話をしながらすごしてもいいんだけど、報告が先だよなぁ……)


アレスは皆を見渡すとすぐに指示を出す。


「皆、悪いんだけど父上にこれから報告をしなければならない。片づけの方を宜しく頼む。シグルドは疲れたと思うから少し休んでいてくれ。兵たちにも解散の指示を出しておくこと」


そういうとアレスは中央の階段をゆっくりと上がり始めた。


それを眺め終わってから家令のセバスチャンは皆の方を向き指示を出し始める。


それを後ろに聞きながらアレスはこれから報告することを頭の中でまとめていくのであった。



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