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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
第2章 〜グランツ攻防戦〜
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ハインツ攻防戦 その1

「なるほど、カルロス殿下とザクセン大公は帝都に戻ると…まぁ、事実上の更迭だな」


ローゼンハイム大公公子サイオンは書簡を見てそう呟いた。


カルロスとゲオルグの帝都行きは諸侯達に大きな衝撃を与えた。


失敗は許さない


帝国の宿将と言っても過言ではない二人が、敗北の責を問われたことで、改めて皇帝セフィロスの軍における姿勢を諸侯に知らしめることとなったのであった。


サイオンは書簡を握り潰しながら、物思いにふける。


「敗戦の責は両名のみ…か。これは幸運だったと言うべきであろうな…しかし不甲斐ないものだ。『アルカディアの若獅子』と『ザクセンの虎』の異名が泣く」


今回の策を提案したのはサイオンである。アルカディアの誇る二人の宿将に恩を売りつつ、その功を手に入れる…それがサイオンの目的であった。

しかし、両名が敗れたことで逆に責を問われる立場となってしまう。幸い不問とされたが、各諸侯からは今でも責を問う声が上がっているという。


「何も分からぬ馬鹿貴族がピーチクパーチク……私の足を引っ張ろうと見苦しい」


そしてサイオンにとって面白くない事実…それは先の戦で功績のあったアレスを望む声が多くなったことであった。


「これ以上、あの男に功績を立てられるのは…今後の事も考えて面白くない。あいつの影響が大きくなる前に消しとくか……」


そう言うとサイオンは近くに置いてあった小箱を眺め、手に取った。


「コレをつかうタイミングを見極めねばなるまい……慎重に動かねばな……」


そう言って、その小箱の蓋をゆっくりと撫でるサイオンであった。



セフィロスはアルカディア全軍をもって首都ハインツを包囲する作戦に切り替えた。


サイオンやシルビアと言った多くの諸侯達が持ち場につく中、アレスは皇帝セフィロスの横に近侍することとなる。自らはシグルドを背後に立たせ、同時に黒軍もまた、近衛兵の近くに配置させることとなった。


「持久戦に持ち込むつもりはない。明朝総攻撃をかけよ」


それが全軍に対しセフィロスから伝えられた命であった。各諸侯は気を引き締めながら、翌朝を待つことになったのである。


しかし、明日に…というこの時間の僅かなロスがアルカディア軍に大打撃を与えてしまう

こととなる……



「どうやらもうすぐ包囲網が完成しそうだな」


「そして朝には総攻撃…という所でしょうかねぇ」


ダリウスとディルクはその様子を高台から見ながら言葉を交わす。


「となると…一番有効的なのは今晩だな」


そう呟くとダリウスはディルクに命じた。


「千騎長を呼び伝えろ。今宵奇襲をかける。狙うはアルカディア本陣、皇帝セフィロスの首。取った者の褒美は自由だ!」


「承知!」


こうしてダリウスの名が世に轟いたハインツ攻防戦の幕があけるのであった。





翌朝の総攻撃を控えるアルカディア軍。


あたりはデパイ川から生まれる霧に包まれており、先の様子が見えない状況だ。

総攻撃を控えているのにもかかわらずアルカディア兵達は大軍の余裕からか、うとうと居眠りをしているのも少なくない。


あたりは静まり返っている。


その静寂を破ったのはセフィロスのいる本陣に投げ込まれた一本の長槍であった。


「敵襲!!敵は…背後よりきます!」


その一本の長槍で30万の兵は右往左往の大パニックになる。

アルカディア軍はこの地に明るくなく、全く地形を把握していない。

その反対にダリウスにとってアルカディアが布陣している地は幼き頃より駆け回った庭の様なものである。


他のものではとって霧が深く視界が見えない環境も、ダリウスにとっては何も妨げにはならなかった。


ダリウスはハインツには入らず、グランツ軍の背後の山に潜んでいた。そして最短距離を通ってセフィロスのいるアルカディア本陣への奇襲に成功したのである。


「狙うは皇帝の首、ただ一つ!それ以外は相手にする必要はない!」


ダリウスがそう叫び槍を振り回す度に、累々と骸が増えていく。


アルカディア軍の中でもエリートである近衛兵達が…次々と屠られていった。


「我こそは帝都にその人ありと言われた…プギャっ!!」


「この蛮族どもめ!この剣の錆としてくれる…ハギャッ!」


近衛騎士に属する名のある騎士が次々とダリウスに討ち取られる。


ダリウスの視界が皇帝らしき人物を捉えた時…

彼の視界の片隅に一人の男が笑って立っているのが見えた。


その時はなんとも思ってはいなかったが……

ダリウスはまだ知らない。


この皇帝の横にいた男こそが、己の運命を変える者であることを。



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