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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
第2章 〜グランツ攻防戦〜
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降伏

レドギア国王ウィルフレドは馬上から、妹であり、レドギアの切り札たるリリアナが敗北した姿を眺めていた。


ふと周りを見渡すと、多くの家臣達が騒いでいるのが目に入る。


「ま、まさか殿下が敗れるとは」


「ど、どうするのだ。アルカディア軍はそこにいるぞ」


「いや、まだこちらにも兵は残っている。なんとかなるのではないか?」


何人かの家臣がすがる様にこちらを見ている。全員が動揺しているのがよく分かる。

ウィルフレドは胃が熱くなるのを感じた。


「取り急ぎ、敵の来襲に備えよ!リリアナがいなくなり敵は今が絶好の機会。必ず襲ってくるはずだ!」


そう言ってウィルフレドは全軍を落ち着かせようとする。しかし騒ぎは収まらない。特にリリアナを『白銀の姫騎士』と敬っていた兵の動揺が大きい。

レドギアにとって幾度もアルカディア軍を始め、多くの戦で勝利を収めてきたリリアナはレドギアの戦の象徴だったのだ。それが敗れた今、軍全体が右に左に大騒ぎの状態であった。


「くそっ!これでは敵の思うつぼではないか…」


ウィルフレドはすぐくるであろうアルカディア軍の来襲を覚悟した。しかし恐れていた襲撃はやってこず、時間だけが過ぎていくのだった。




「なぜですか!?」


フルカスはアレスに対し声をあげた。


「今、全軍で襲いかかれば、レドギア国王をも討ち取る事ができます。なぜ、今動かないのです!?」


見れば、シルビア配下の将は不満顔である。

また遠くの方ではレドギア軍が大騒ぎしているのが分かる。


「確かに今攻めればあっという間に落とす事は可能だね」


「なら…」


「でもそれは僕の望んだ結末ではない」


その言葉を聞き、シルビアも問いかけた。


「では、聞こう。今ここで確実な勝利を捨ててまで貴公が望む結末はなんだ?」


アレスはシルビアに進言し、多くの突撃許可を一切無視して待機を命じていた。それに対し、軍監のフルカスを始め、多くの兵や騎士達が焦れている。流石のシルビアもアレスの真意が分からず、不審そうな顔をしていた。


「前にも言ったとおり、私が望んでいるのは敵も味方被害を少なくする事です。ここで突撃すれば、確かにレドギア国王を討つ事ができます。しかし、死兵となったレドギア軍を相手にするのはこちらも多くの犠牲を覚悟しなければならない。レドギア軍はそれほどの強兵ですから」


「そして、ここで全軍滅ぼせば、二つの砦に篭っているレドギアの主力も最後の最後まで抵抗を続けるでしょう。そうなればもはや泥沼です」


「さらに今後の統治にも関わります。レドギア王家は民衆の人気も高く、特にリリアナ姫にいたってはその武力から末端の兵にまで崇拝されているほどです。例えここで戦を終えたとしても、常に反乱が続くことでしょう」


そう言ってアレスは笑うとシルビアに言った。


「何のためにリリアナ殿を捕らえたのか…それは相手の希望を断つためです。彼女が生きていれば、どんな状況でもなんとかなるのではないか…そう思うでしょう。今彼らはその希望を目の前で打ち砕かれ、動揺しております。私はここで…」


そう言うとイタズラっ子の様に笑って付け加えた。


「彼らに降伏を勧告しようと思います」





いつ来るかもわからない襲撃に怯えながら眠れぬ夜をウィルフレドは過ごすことになった。


アルカディアの白い騎士と妹リリアナの一騎討ち。幼い頃から神のごとく強いリリアナを見てきたウィルフレドにとって、彼女が負けたことは身が震える衝撃だった。


「ご報告いたします!」


ウィルフレドの天幕に一人の騎士が入り、頭を下げる。


「いかがした?」


明らかに慌ててる様子の騎士にウィルフレドが憔悴した目をむけると


「ア、アルカディア帝国からの使者が参りました!!」


その言葉を聞き思わずウィルフレドは立ち上がった。


「あいわかった…ところでなぜ、その様に慌てる?」


「その…使者と名乗ったものは…リリアナ殿下を破ったものです」


「なっ!!」


ウィルフレドは絶句した。周りのものも動揺しているのが分かる。


鬼神のごとく強いリリアナはレドギアにとって勝利と自信の象徴であった。それを破ったものが、今ここに現れた……それはレドギアの人間にとって恐怖でしかないのだ。ウィルフレドは唾を飲み込むと騎士に伝えるのであった。


「分かった…会おう。案内せよ」





「レドギア王国国王、ウィルフレドです」


「初めまして。総大将シルビア皇女の代理で来ました。アレス・シュバルツァーと申します。」


会見は穏やかな雰囲気で始まった。


「公子。使者殿。とってつけたような飾りはいりません。本題を言ってほしい。リリアナが貴公に敗れ、動揺しているすきを突けばいつでも我々を破ることができたはずです。なぜ、そうしなかったのか?またあなたは我々に何を告げに来たのか?」


アレスはウィルフレドの様子を観察する。


王族にはあまり見られない柔らかい物腰。自分に対して敬語を使うことからもそれが分かる。しかしその眼は鋭く、向こうも同様にアレスという人物を見極めようとしていることが伺えた。


(ここ数年でレドギアを繁栄させた手腕は飾りじゃないってことだね)


アレスは静かにほほ笑むとウィルフレドに向かって本題を切り出した。


「降伏を」


「!!?」


「そしてウィルフレド殿とこのレドギア領の安泰、民衆の安全を約束しに参りました」


アレスがウィルフレドに提案したのは2つの砦の放棄、そして無条件降伏だった。

かわりに降伏することでレドギア王国は消滅。レドギア国王はアルカディア貴族に列し、その領としてレドギアを存続させること。


「民や領土をこれ以上害すことはありません。事実的にはレドギアは残ります。そしてそれ以上は干渉しないことを約束しましょう。レドギア貴族たちは望めばアルカディア騎士、および準男爵としての地位は約束します。またもちろん陪臣として残ってもらうことも可能です」


「実質、自治権は我らにあり、名前だけが変わる…と受け取ってよろしいか?」


「その通りです」


しばらく唸るとウィルフレドは言った。


「話がうますぎる」


ウィルフレドがそう訝しがったのも当然である。今ここで自分たちを打ち破ればその先の王都フランを好きなように略奪することが可能なのだ。また、アルカディア皇帝セフィロスは抵抗する国に対しては苛烈な方法で対応するのも有名であった。


「確かにそう思うのも無理はありません。ただ…」


そう一呼吸置くとアレスは言った。


「どうか私を信じてもらえないでしょうか?アルカディア軍でなく、このアレス・シュバルツァー、個人を」





ウィルフレドはアルカディア帝国に降伏することを宣言し、ここにレドギア王国は滅びることとなった。そしてアレス達はレドギアの都フランに入り、ここでセフィロスを待つことになったのである。




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