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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
第2章 〜グランツ攻防戦〜
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速攻

トレブーユ王国はブルターニュ諸連合の東に位置する。東にはグランツ公国、南にはレドギア王国が存在し、周辺諸国と良好な関係を築く事で、小国ながらも安定した日々を送ることができていた。

街並みは美しく、それなりに豊かな国である。


そこに舞い降りた今回の戦。


周辺諸国に押されて連合軍に加わったものの、その後も同盟を優先するか、それともアルカディアに恭順か、王宮は二つに割れ、意見がまとまらない状況であった。


トレブーユ王国は小国なれど他の国と同じくして、貴族の力が強い。


紛糾する王宮の様子をトレブーユ国王ルイはただ何も言えず眺めているだけであった。


「陛下、今ならまだ間に合います。ブルターニュに援軍を送りましょう」


「何を言うか!アルカディアに勝てるわけなかろう!」


「いや、まだブルターニュやレドギアと同時にあたれば追い返すことは可能ではないか?」


「負けた時、国王陛下以下、我らも一族郎党皆殺しだぞ。」


「いや、あの雷帝は降伏してもそれぐらいはするだろう。何れにしても死ぬだけなら戦う方が…」


「申し上げます!!」


突然開かれる扉に数名の貴族が不愉快な顔をする。


「貴様、ここを何処だと心得…」


「申し上げます!アルカディア帝国軍来襲!」


その報にその場にいた者たち全員が驚愕のあまり静まり返る。


「ブルターニュはすでに落ちた模様。すでに城下から見える位置にアルカディア軍が布陣しております!」


「ばっ……馬鹿な!?」


「ブルターニュが落ちたなど聞いていないぞ!?何が起きたというのだ!」


「そもそも、それほど日がたっていないではないか!」


慌てはじめる貴族を尻目に国王ルイは


「来たか…では国王としての最後の勤めを果たさねばならないな…」


と独語する。


見るとすでに貴族達は立ち上がり、屋敷に帰ろうとしているものもいる。恐らく今後の身の振り方を考え、外のアルカディア軍と内通をしようとするに違いない。


恐慌状態の貴族達に対して会議の解散を宣言した後、ルイは近くの近侍に、自分の幼馴染であり、腹心であるシモンを呼んでくるよう伝えた。


ルイもシモンもともにまだ20代。ルイにとってシモンはトレブーユをより豊かにしようと手を取り合える唯一の同志であった。

シモンは貴族出身ではなく、一般公募にて募られた庶民出の学友であった。


「シモン、どうやら我らの夢が破れたようだ。貴族の専横をなんとか打ち破り、国を変えたいと思ったのだが…これまでだな。」


ルイが寂しそうに笑うと、シモンはそれを否定した。


「陛下、まだそれはわかりませぬ。私が情報を集めましたところ、城外の兵の大将、アレス・シュバルツァーは意外と話のわかる御仁だと聞いております。どのような形であれ、この小さくとも美しきトレブーユが残るよう、私が話をつけましょう」


そう言うとシモンは笑った。


「もしかしたら私は帰ってこれないかもしれません。陛下、その際はどうかトレブーユのため最後まで手を尽くしてくださいますよう…」


そう言うとシモンはルイに一礼し、踵を返していくのだった。


ルイはそれを眺めながら


「では、私は私の仕事をしよう。貴族達を再び呼び寄せ、降伏することを伝えねばな…」


と、一人つぶやくのであった。





アレスは馬上からトレブーユの城と街並みの様子を眺めていた。


「綺麗な街並みだね。できれば落としたくはないな」


「それは向こうの出方次第ですな」


軍監のフルカスが相槌をうつ。


「先ほどから貴族の使者たちが多数来ているね。恐らく公には内密にして」


そう言うとアレスは複雑な顔をする。


「全て恭順した後、現在の所領の安堵を求める内容だね。貴族として代々支配していたのに…国や民の事を考える者はいないのかなぁ」


「ご報告します!」


突然の報告に振り向くアレス。


「トレブーユ国王、ルイ殿からの御使者がいらっしゃいました」


「…待っていた人がきたね。さて、どんな内容かな?」








黒軍の兵達に囲まれても動じることなく堂々と前にでる、その姿を見てアレスは少し感心する。


(あれは死を覚悟している顔だ。どんな国にも人物というのはいるものだね)


使者として現れたのはシモンだった。


「お目通りありがとうございます。アルカディアの方々に我が国王の意向を伝えに参りました」


そう言ってシモンはルイの書状をアレスに渡す。


アレスは一読し、それをフルカスに渡した。フルカスは渡された書状を見て驚く。


「一戦もせず、降伏…?」


訝しげな表情でシモンの方を見る。


「はい。それが我が国王の返答でございます…残念ながら、今この地に対抗できるほどの兵はおりませぬ」


そう言ってすこし俯くと、シモンは言葉を続けた。


「されど、こちらも条件がございます…」








シモンが去った後、天幕にはアレスとシグルド、そしてフルカスが残された。


「自分達はその命をもって責任をとる。その代わりこのトレブーユを暴力や破壊で蹂躙するのはやめてほしい…か」


「見事としか言えない覚悟でしたな」


アレスの言葉にシグルドが相槌をうつ。


「とりあえず城に入ろう。その後の処分はすでに事前に陛下から貰ってある」


そう言うとアレスは一通の書状を懐からとりだす。それを見てフルカスは今までずっと抱いていた疑問をアレスに尋ねた。


「……一つお聞きしてよろしいでしょうか?」


「なんだい?」


フルカスの質問にアレスは振り返る。


「此度の陛下の書状、電光石火の進軍…ブルターニュの時もそうでしたが…アレス様は事前にこうなることを予想しているようでした。この作戦はいつ頃立てられたのですか?」


「帝都を出る前だね」


「!?」


「今回は上手い具合に事前の策通り進んでるね。もし、多少のズレがでても、その時はまた違う策が幾つか用意してある。だから大丈夫さ」


「……」


アレスの言葉にフルカスは戦慄した。すなわち今までの出来事は。皇帝の宣戦からここまでの流れは。全てこの少年の掌の上で行われた事なのだ。


「…いくつかお聞きしても構いませんか?」


「答えられる範囲ならね」


「アレス様は一体何通、陛下の書状をお持ちなのですか?」


「後数枚は書いてもらったよ」


「!?何故それほど……」


「うーん、そこは言えないなぁ」


「では……話題を変えまして。現在進軍中のカルロス殿下やザクセン大公はどうなるでしょう?」


「あぁ、あの二人はレドギアを落とすことはできないよ」


「!?」


「彼らが今攻めているのはレドギアが誇る対アルカディアの二大要塞。守るのはレドギア屈指の名将、金虎将ジオンと銀熊将ガーンだ。そして何より白銀の姫騎士と名高いリリアナ姫がいる。彼女の存在は最早戦略兵器さ。そう簡単に落とす事はできない」


「しかし…時間をかければ」


「時間をかければきっと大丈夫だろうね。あの二人もまたアルカディア屈指の名将。恐らくは要塞を落として王都まで攻め登れるだろう…だけど」


そう言って最後にアレスは笑うのだった。


「その前に僕が落としているけどね」







城内の謁見の間


そこでアレスは跪くルイ、そして多くの貴族の前に立ち、トレブーユの降伏を受け入れた。


「では、陛下からのお言葉を伝える」


厳かに言うと側にいた軍監のフルカスが重々しくセフィロス直筆の書状を開き読み上げる。


「トレブーユ国王、ルイ・トレブーユに、伯爵位を与え、以後トレブーユ王国はトレブール伯爵領とする。トレブーユ伯爵はそのままこの地の政を行う事」


トレブーユの事実上の実権はルイにあるとの内容にその場にいた一同は驚いて前を見る。


「正式な沙汰は陛下ぎ来てから受けてもらう。しかし、これもまた正式な勅許であり、嘘偽りはないであろう」


アレスは驚く人々を前に補足をする。


フルカスもまたセフィロス直筆の書状を見た際、驚きを隠せなかった。一体この男は何枚この様な書状を持っているのか?そして陛下はなぜ、この男に何通もこの様な勅許を許すのか?


しかしその疑問を置いておき、一つ咳払いをした後、フルカスは言葉を続けた。


「またトレブーユ貴族についてだが…現在持っている財は認め、保証する。ただし所領は没収、また全ての貴族を準男爵とし、アルカディア帝都に来ることとする」


その内容を聞き、初めは沈黙していた貴族達であったが、次第に声をあげはじめた。


「お、おそれながら!!私はこれでもトレブーユでは侯爵位のもの!今更準男爵など受け入れられるわけがない!!」


「所領没収とは何事か!アルカディアは貴族に対する礼儀を知らないのか!?」


「この様な内容受け入れることができるわけなかろう!」


一人、また一人と不満を言い始め、謁見の間は大騒ぎとなった。アレスはその様子を冷ややかに見つめながら貴族達に向かって言った。


「では、一戦しますか?」


アレスの言葉にあれほど大騒ぎしていた広間が静まり返る。


「小国の侯爵位、アルカディアでは準男爵が相応しい。身の程を知った方がいい」


「所領没収が礼儀に反する?貴方達は降伏したんだ。そのような相手に礼儀も何もない。財産を安堵されるだけ優遇されていると思ってほしい」


「そして何より!」


アレスは貴族の不満を次々と論破し、最後にトドメとなる一言を言った。


「受け入れないのなら、それも良し。ただその際は一族が滅びることも覚悟していただく!」


アレスの言葉に反論できたものはいなかった。


この日よりトレブーユ王国はトレブーユ伯爵領となった。貴族達に反旗を翻す気骨のあるものはおらず、この三日後、彼らはは荷物をまとめて帝都に向かう事となったのである。

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[気になる点] 正式な沙汰は陛下ぎ来てから受けてもらう。 ここの文章ってあってるやつですか? このままでもよくわからないし誤字だとしてもどういった文になるのかわからなくて気になります
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