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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
第2章 〜グランツ攻防戦〜
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後始末

ブルターニュ諸連合の首都、トランの街に入ったのはその翌日だった。

アレスが入るとその出迎えとして多くの商人たちが現れる。どれも媚びた笑いを顔に張り付けて。

アレスはその様子を見て、不快な気持ちになった。


「ようこそ、トランの街へ」


「あちらの方で、我らの長たちがお待ちいたしております」


胸の内を知られないよう努めながら、アレスは商人達の後についていく。そうやって案内された所は裕福なトランの街でもひときわ大きな屋敷だった。



アレスが通された部屋は大広間。そこには5人の肥え太った男たちがいた。


「お初にお目にかかります。私どもはこのブルターニュ諸連合の政を行っております執行部の5名です」


その中の一人が声を挙げる。どうやら彼が、このブルターニュ執行部五名の中でも代表を務めているらしい。他の四名はこちらのほうをジロジロと値踏みするように眺めてくる。その眼には多少の侮りと安堵の様子が見て取れた。


(どうやらこちらの思ったとおりに動いてくれたみたいだね)


その様子を肌で感じながらアレスは心の中で笑った。


「さて、此度は大変申し訳ありませんでした。見ての通りトランの街には傭兵が多く我々も困っておりまして…」


相手がしゃべりはじめたのを遮るように、アレスは一枚の紙を見せる。


「なんですかな?これは??」


「皇帝陛下からの書状です。おそらくこのブルターニュ諸連合の上層部、すべての方々が対象になると思いますよ」


「ほほう。では有り難く読ませていただきます」


そう言って、代表が書状を読む。すると顔が青くなり、ワナワナと震えだした。


「こ、これはどうゆうことでしょうか?上層部以下、政にかかわったすべての商人たちの財の九割を没収、その上、ブルターニュからの追放とは!!?」


「なっ!?」


「そんな不当な!!?」


「横暴だ!!」


「ふざけるな!そんなことができるか!!」


代表の声に他の四人も立ち上がり抗議の声を挙げる。


「我々ではない、やったのは傭兵たちだ。彼らが勝手にやったことで、我らは関係ないんだ。」


そういうと代表はアレスをにらみつける。


「この若い御仁では話にならない。もっと話の分かるものを…」


代表がそう叫んだ時、アレスはもう一枚の書状を投げつけた。


くしゃくしゃになった紙が代表に当たる。


「ぶっ、無礼な…」


「その紙は何だかわかりますか?」


言葉を遮るようにアレスは話し出す。


代表がくしゃくしゃの紙を広げてその内容を読み、顔を青くする。

そこには略奪の許可状と激励の言葉が書いてあった。


「いいですか?勘違いをしてもらったら困りますよ」


そう言ってアレスは机をドンと叩いた。商人たちは一同にびくっとする。


「戦に勝ったのは我々だ。あなたたちにとやかく言う権利はない。なんなら、外にいる5千の兵をここに入れて暴れさせてもいい」


アレスの言葉に青くなる商人達。アレスは話を続ける。


「自国の民に対しての略奪を許した時点であなたたちは為政者として失格だ。そうそうと立ち去ってもらいたい。また、いろいろ調べさせてもらったが、上層部以下政に関わっている者たちはずいぶんあくどいことをしているね。賄賂、恐喝、時には暗殺…」


そういうとアレスはぐいと身を乗り出して


「あなたたちがいるとこの街、ひいてはブルターニュ全体がこれ以上繁栄しないんだ。言うなれば寄生虫と一緒だよ。」


「ふ、ふざけるなぁぁ! ぐげっ」


アレスの言葉で激情した執行部の男が襲い掛かったが、後ろに控えていたシグルドが一刀のもとに切り捨てる。その様子を見て商人たちは悲鳴を上げ、代表は腰を抜かして座り込んだ。


「あ…どうか…お助けを…」


「そう、本来は全員こうなるはずだったんだよ。それをわざわざ助けてあげる、しかもわずかでも財産まで残してあげるって言ってるのに…そんなことをするからこうなるのさ」


そういうと最後に腰を抜かしている代表に顔を近づけてアレスは言った。


「いいかい?戦をして負けたらこうなる、それが今の世界の現実さ。あなたたちは金の力という暖かい部屋でスープを飲んでいて知らなかったのかもしれないが、外の世界ではこんなことは日常茶飯事、それをよくわかった方がいい。これが現実だよ」


その声を聞いて代表は気を失った。




運ばれていく商人たちを眺めながらフルカスはアレスに尋ねる。


「トランの街はいかがしますか?取り急ぎこちらに向かわれるシルビア様に言って誰か代わりの領主となるものを…」


「いや、もうそれには見当をつけているよ。あぁ到着したみたいだ」


アレスがそういうと数人の男たちが入ってきた。いずれも商人や職人のようだが、この場に出ても物怖じをせず、堂々としている。

一人の男がアレスに尋ねた。


「私たちをいかがなさるおつもりでしょう?私達には財もなく、学もあるわけでもない者たちですが」


「いや、皆さんに来てもらったのは他でもない。上層部の人たちがいなくなってしまってね。代わりにここにいる人たちでこのトラン、ひいてはブルターニュを治めてもらいたいと思っていたんだ」


その言葉に全員が驚く。横にいるフルカスも口をあけたまま動けなくなった。


「理由をお聞かせ願えますか?」


一人の男が口をはさむ


「いろいろ調べさせてもらってね。ここにいる者たちはここトランで代々商いをしており、よくここの事情を分かっている。なにより…不正をせず真っ当に商売をし、さらにしっかり利益を上げている手腕がすばらしいと思ったからだ」


その言葉に全員がだまる。


「でもね、ただ任せるだけではないよ。1年間で街をさらに栄えさせるのが条件だ。できなければ当然他の者たちと変わってもらおうと思っている」


アレスの言葉に初めに言葉を発した男が


「少し考えさせてもらえませんか?」


と答えた。


「勿論、今とは言わないよ。でもできれば明日までに返事が欲しいんだ。明日にはここを立とうと思っているからね」


その言葉に今度はフルカスが驚く。


「な!!?占領地を置いてすぐ出るつもりですか!?」


「この地を他のものに任せると言っただけだよ。力でここを抑えても何にもならない」


そういうとアレスは最初の男の手を取って言った。


「この街を栄えさせるのも、落ちぶらせるのも自分たち次第だよ。やりがいはある仕事だと思うけどね」




アレスは窓から先程の商人たちを眺めている。商人たちは皆複雑な顔をしており思い思いに家に帰っていく。


「理由をお聞かせいただきましょうか」


振り向くとフルカスが立っていた。


「普通は占領地なら、代理の領主を定め、落ち着くまで統治するのが普通です。しかし今回はそのようなことをなさらない。これはいかなることでしょう?」


「突然現れたものがここを治めるといっても、住民は納得しないだろう?」


そう言ってアレスは商人たちを眺める。


「あの商人達の顔を見たかい?本来ならこんなおいしい話、だれもが飛びつくはずさ。でも彼らはそうはしなかった。それは統治が難しいことを分かっているからだ。そういうものたちが治めた方がよっぽど結果に結びつく」


「しかし、彼らは政の経験はありません」


「誰だって初めてはあるものだよ。もがきながら、工夫しながら…頑張ってくれればいい。きっと彼らは引き受けてくれるさ」


そう言ってアレスは再びフルカスの方を見る。


「シルビア殿下には先程使者を送った。僕としては殿下が来る前にトレブーユも落とすつもりだ」


「なっ!!」


「おそらくブルターニュがこれほど早く落ちるとはまだ思ってないだろうね。きっと大慌てになるはずさ。そしてそこを突く…僕は極力被害を減らしたいんだよ…味方も敵もね」


フルカスの顔を見ながらアレスは言葉を続ける。


「さぁのんびりしてられないよ。早いところ準備をして明日返事を聞いたらすぐ出発しないとね!」


そう言うとアレスは扉に向かって歩き出すのだった。



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