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シルビア・アルカディア

今回の宴は久々の皇帝親征とのこともあり、ここ数年でも比較的大きなものとなった。


広間の中央にて、アレスは先ほどから多くの貴族の対応に追われている。


「シュバルツァー公子、それがしは西方に領地をもつトローン子爵と申すもので…」

「私、今回の宴を縁として今後はシュバルツァー大公閣下とも深いお付き合いがしたく…」

「我が娘、教養も家柄も申し分ありませぬ。どうですかな?一度会ってみるのも…」


まとめると、今回を機に縁をつなごうとしている者たちが4割、娘を送り込もうとしている者が4割、残りは牽制と探り…という所か。


アレスがそろそろ貴族の応対にウンザリしている時。

背後から突然大きな声が聞こえた。


「おい!シュバルツァーの小僧(ガキ)!」


振り返って見るとそこにはザクセン大公家嫡子ルドルフが赤ら顔で近づいてくる。


ルドルフ・ザクセンはザクセン大公ゲオルグの嫡男である。尚武のザクセン家の嫡男としてふさわしく、帝国内でも指折りの猛将として知られていた。

ただ、その性格は父と異なり荒く、また酒癖が悪いこともあって、評判は芳しくない。


「ザクセン公子ではないですか。」


アレスはニコリと笑顔を返すとルドルフの方に体を向ける。

気がつくと他の貴族たちは近くにいなくなっている。巻き込まれたのを恐れたらしい。


(口では立派な事を言ってるけど、こういう姿で、彼らの日和見主義が解るよね)


「随分多くの人間に囲まれて人気じゃないか」


「そんな事はありませんよ。あまり帝都に顔を出さないので物珍しいのではないでしょうか?」


「ふん!まぁいい。此度の戦が終われば、貴様と俺とは立場が変わるはずだ。その時はそのスカした面を見せられないようにしてやるからな覚悟しておけ!」


そう言うと、ルドルフは一気にまくし立てる。どうやらアレスが多くの人たちに囲まれているということが気に食わないらしい。


「今回はザクセンの誇り高き騎馬隊を連れてきた。貴様が二国にまごついている間、俺たちは一気にレドギアの首都、フランを落としてやる。貴様は…」


そうルドルフが言った時、突如背後から声をかけられた。


「それは私に対する挑戦とも受け取ってもよろしいか?」


「あぁん?」


振り向いたルドルフは声の主を見て、ギョッとする。

そう、そこに立っていたのは第二皇女シルビアだったからだ。


「貴公がシュバルツァー公子に言っていることは、今回合同作戦を取る私に対しても言ってるのと捉えてよろしいか?」


ルドルフは慌てて跪き、弁解を始める。


「いえ、その様な事はありませぬ…それがしはシュバルツァー公子にのみ言ったのでありまして、その…」


「ほぅ、戦前と言うのに戦友に対して中々きつい言い方であったの。それは何故だ?」


「そ、それは…」


言葉に詰まるルドルフ。


アレスはその様子を見て、静かに笑いながら助け舟をだした。


「戦前の戯言です。そこまでにしませんか?」


そう言ってアレスはクスクスと笑う。


「ふむ…。まぁシュバルツァー公子が言うのならしょうがないの。ほれ、あちらでザクセン大公がこちらを見ているぞ。貴公は行ったほうが良いのでは?」


そう言ってシルビアが言った方に目を向けるとそこには鋭い目つきでこちらをにらんでいるザクセン大公ゲオルグが見えた。


「!? し、失礼いたします!!」


ルドルフはシルビアに一礼すると慌てて父、ゲオルグのもとに向かうのであった。




シルビア・アルカディア


アルカディア帝国の第2皇女にして、アルカディア帝国でも有数の将軍である。

身長は高く、大の男と同じ目線だ。大陸においての平均身長ほどのアレスよりも少し高い。燃えるような赤い髪を短く切りそろえており、その白い肌と相まって印象的であり見るものを惹きつける。


「さて…おかげで邪魔者はいなくなったし…これでゆっくりと貴公と話ができるな」


そう言ってシルビアは近くのテーブルからワイングラスを手に取りアレスに向けた。


「どうだ?このような場では酒でも飲まないとやっていけないだろう?」


「…いや、私は酒を飲めないので…遠慮いたします。申し訳ありません」


酒を飲んであのような失敗をするわけにはいかない…アレスはひきつった笑いを浮かべながらやんわりと断った。


「ふむ…意外と固いのか、それとも用心深いのか…まぁよい」


気を悪くする様子もなく、シルビアはグラスを引っ込め、そして自らそれをあおった。


「さて、私としては貴公に非常に興味があってな。ゆっくり話をしたいとも思っていたのだよ。どうだ?ちょっと一緒に来ないか?」


「殿下が私をお誘いになると、宮中であらぬ噂が立つのではありませんか?」


そう言ってアレスは笑って断ろうとしたが


「ふん。別に噂など気にしなければなんてことはない。痛くもかゆくもないものだ」


そう言ってシルビアはアレスを見て笑顔を返す。


「まぁ突然このようなことを言えば警戒するのは当たり前だな。だが…どうしても戦の前にそなたと腹を割って話しをしたい、会わせたい者もおるのだ。私は貴公と敵対するつもりはない。それは信じて欲しい」


そう言って真剣な目をしているシルビアをアレスは黙って見つめる。

しばらくの沈黙の後、アレスはため息をついてシルビアに言った。


「分かりました。殿下を信じましょう。」


その答えを聞いてシルビアはにっこり微笑む。


「よかったよ。貴公に断られたらどうしようかと、内心ビクビクしていた」


そしてシルビアはアレスの手を取り、


「今から私が話すこと、そして私が会わせるものについては他言無用でお願いしたい。よろしいだろうか?」


そう言うとシルビアはアレスを連れて、宴の大広間から連れ出すのであった。


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