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ロザンブルグの三姉妹 〜当主アルフォンスの話〜

私が急な知らせを受けたのは、とある日の晩のことであった。


「領の三つの村が壊滅?」


「はい。どうやら魔獣に襲われたらしく……村も跡形もなく無くなっておりました……」


その話を聞き、寝所にて休むつもりだった私はゆっくりと立ち上がる。


「それは捨て置けぬ。今すぐ領に戻ろう」


そういうとすぐに支度をさせ、私はその日のうちに帝都を発ち、ロザンブルグ領に戻ったのだった。



ロザンブルグ領に到着した私はすぐさま自領の兵を集めた。

騎士団や、歩兵をはじめ、自慢の魔術兵団も含めてだ。


「ロザンブルグ領全軍をもって魔獣を壊滅させる。1匹残らず殲滅せよ!」


私自身も帝国魔術師団の長であり、魔術と剣、共に使う魔法剣士としてこれでも多少は名を知られている。魔術に関しては、宮廷魔術師だ。

今回は私自身が総大将となり、すぐさま壊滅させられた村に向かった。それほど時間はかかるまい……そう思っていた。


しかし、そこで私を待っていたのは……想像を超えた村の惨状であった。


そう、何もないのだ。何もかも。

村があった場所は大きくえぐれ、瘴気が漂っている。


「なんだ……?これは……」


私はその惨状を見て何も言葉が出なかった。そんな時、斥候の者から次々と報告が入る。


そして……予想外の報告に私は衝撃を受ける事となった。


「その情報は間違いないのか?」


「はい。ロザンブルグ領北東の村々を荒らし回ったのは間違いなく古代龍(エンシェントドラゴン)でしょう」


報告を告げた家臣が俯きながら答える。


「しかも……昨年ロマーヌ伯爵領を壊滅させた『邪龍、ヴァサーゴ』と思われます」


当初の報告では数多の魔獣が現れ、いくつかの村が壊滅状態、という連絡だった。そのため領兵全軍をもって当たればなんとかなると思っていたのだが………



邪龍ヴァサーゴ


古代龍(エンシェントドラゴン)は基本、他種族を襲わない。龍の王者としての誇りを持つからだ。しかしヴァサーゴは違う。彼は瘴気を振りまき、快楽的に様々な種族に襲いかかる。

一年のうち、その4分の3は眠り、そして4分の1は破壊の限りを尽くすのだ。それゆえ、人は彼のことを『災いの龍』とも呼ぶ。


古代龍(エンシェントドラゴン)は神獣と呼ばれるほどの力を持つ存在。その力は天災クラスの被害を起こす。

ロザンブルグ領全軍をもってしても相手にすることは不可能だ。おそらく帝国軍の主力を当たらせる必要がある……


「ほ、報告であります!!」


そんな物思いに耽る私にさらに連絡が入る。


古代龍(エンシェントドラゴン)はこの先の村にはもういません!村は壊滅状態!!」


「伝達っ!!どうやら古代龍(エンシェントドラゴン)は領内奥深くに入り込んだ模様!!」


そして私は最後の伝達に絶句した。


「ほ……報告でありますっ!!」


「今度は何事だ!」


古代龍(エンシェントドラゴン)は……領都ブルームに現れましたっ!!」


その報を聞き……私は思わず握っていた宝剣を取り落した。


領都ブルーム。我がロザンブルグ領の中心である。


報告を受け、私はすぐさまブルームに引き返す。勝算はない。だが、それでも何とかしなければならないのが当主の務めだ。黙って街が滅ぼされるのを見ている訳にはいかない。


そして何よりも……今ブルームには一兵の兵もなく、そしてそこには……なんの力も持たない民、そして大切な家族達……長女のロクサーヌ、三女のシンシアがいるのだ。私はとにかく馬を走らせブルームに向かうのだった。




私がブルームに到着し、初めに見た光景……それはいくつもの巨大なつらら型の氷柱であった。それが何本も街中の地面に刺さっている。


「これは如何した!?」


私は慌てて近くの家臣に問う。そんな時に


「閣下っ!!」


と声をかけてきたのはトールと言う屋敷の下男だ。


「そなたは……なぜここに?いや、今の現状はどうなっている?被害はどうだ?」


思わず矢継ぎ早に次々と質問を投げかける。


「そ、それが……」


それに対し、涙を流しながらトールは崩れ落ちた。


「どうした!ちゃんと説明せよ!」


「ロクサーヌお嬢様が……」


「ロクサーヌが!!ロクサーヌがどうした!?」


ロクサーヌは屋敷に閉じこもっているはずだ。それがなぜここで名前が出る?


「お嬢様は龍が来る事を事前に察知した様子でした。そして私どもに次々と指示を出したのです。街の住民を一箇所に固める事。そしてアルフォンス様に伝える事、と……その後お嬢様は一箇所に集められた大広場を強力な魔術の結界で包むと、お一人で龍の方に向かいました……」


そう言うとトールは嗚咽をあげて泣き始めた。私はそ話を聞き絶句する。


「何人もの者たちが止めました。私も必死に止めました。しかしお嬢様は自らの魔力が強かったのはきっとこの日のためだった……そう仰ってそれを振り切り自ら龍の元に行かれたのです。それでも無理についていこうとしていた者もいたのですが……お嬢様の魔術により意識を失いました。私は……お嬢様の指示でアルフォンス様を案内するよう言われ、ここに参ったのであります」


「ロクサーヌがそのような……」


「『魔女』と民たちにも言われていたのに……屋敷の者達にも避けられていたのに……そのような事がなかったかのごとく、凛とされ、そしてお優しかった……私は……私は……」


「もうよい」


私は静かにそう言うと言葉を続けた。


「ロクサーヌの所へ案内せよ。大至急だ!」



ロクサーヌと邪龍ヴァサーゴはどうやら領都郊外の方にいるらしい。私は領兵を引き連れそちらに向かう。そして、近づくにつれ……今まで感じたことのないほどの魔力の濃さに気付く。


ふと気がつくと、領兵の中でも魔力を持つ者はそれを感じ取り次々に倒れこむ。重症のものはその場で嘔吐していた。恐らく耐え切れなかったのだろう。その魔力の濃密さに。私とて同じ事。吐き気を我慢しながらただひたすら前に進む。


「魔術師はこれ以上進むな!騎士団のみ我に続け!」


そう言うと私は馬を走らせた。そして、少しづつ見えてきたのだ。


圧倒的大きさの龍の姿と、その強烈な瘴気の息吹(ブレス)を巨大な氷の盾で防いでいる愛娘の姿を。


(古代龍の攻撃を防いでいる……いや、押している?)


私はその姿を見て絶句した。


(馬鹿な!?古代龍相手にそのような事……)


ロクサーヌの才は間違いなくロザンブルグ歴代当主と比べても突出している。しかし古代龍(エンシェントドラゴン)をも押しのけるほどの魔力とは……


しかし、同時に私はある事に気付き……心臓が凍るほどの絶望感に打ちひしがれた。


それは、ロクサーヌの膝からしたが凍りつき、さらにそれが上に上がってきているのだ。足元からは地面が凍り、それもまた徐々に広がりを見せている。

強力な魔術を使っている事により、彼女の中の魔力が溢れ出し、暴走し始めているという事だろう。


父として、ロクサーヌの行為をやめさせたい。しかし……領主としてはヴァサーゴを退けるためには彼女にすがるしかない。


「あぁ……この世には神はいないのか……」


私がそう呟き、眺める他方法がなかったその時。


「父上っ!!これはどういう状況ですかっ!!」


背後から聞き慣れた声がしたのだ。そしてそれが、ロザンブルグ家における救世主を連れてきたとは、その時は全く思っていなかった。




声の主はミリアだった。

あのじゃじゃ馬がなぜここにいる?帝都にいるはずではないのか?

そして……その後ろの男は何者だ?


「ちょっと……どういう状況??あれって古代龍(エンシェントドラゴン)でしょ?ってかなんで姉様が戦ってるのよ!?」


「私だって聞きたいくらいだ!」


そう言うと私はミリアを睨む。


「お前もなぜここに来た!帝都に居たはずではないのか?」


「お父様に大切な話があるからきたのよ!ってか、ちょっとお姉様、まずくない?」


ミリアの言葉に、後ろで黙って立っていた男が口を開く。


「あれは確実に魔力が暴走しているね……しかもありえないぐらいの魔力量……びっくりだ」


「……ところで君は何者だ?」


私は訝しげな視線を彼に送る。ミリアが連れてきたのか?そもそも愛娘が男を連れてきて、不信がらない父親はいない。それが例えこのような状況でもだ。


私の質問に口を開いたのは、彼ではなくミリアだった。


「あ、この人は学院の先輩。私が父上に会いにきたのは彼に会ってもらう訳だったんだけど……」


そう言うとミリアはヴァサーゴとロクサーヌの方を眺める。どうやらロクサーヌもミリアの存在に気がついたらしい。それを見て動揺したのだろう。同時にさらに魔力の暴走が大きくなった。


「あれをなんとかしないと無理ね……先輩、なんとかできる?」


「……無茶振りもいいところだね。でもまぁなんとかしないとゆっくり話をできそうにもないから……あ」


その瞬間、ロクサーヌの魔力が今まで以上に高まり、先ほど以上に辺りを凍らせはじめた。


「あれはマズイな……完全に魔力が暴発した……」


そう言うと、その男は私の方を向き直った。


「ロザンブルグ侯。私にはこの現状をなんとかできる(すべ)はあります。邪龍も、あのお嬢さんも。初対面の男を信じてくれ、と言うのも変ですがどうか全てを任せてもらえませんか?その代わり……何があっても許して貰いたいのですが」


「……突然現れた男を信じろというのも変な話だな。だが私にはあれをどうすることもできん。やれるものならやってみたまえ」


私は半分投げやりに答えた。


できるわけなかろう。そんな事。ロクサーヌはロザンブルグ家史上、最大の魔力の持ち主。それが暴走しているんだぞ?そして相手はあの古代龍(エンシェントドラゴン)。どうするつもりだ。


そもそも名乗ることもせず、この男は唐突に何を言いだすのだ。無礼もいいところだ。


しかし彼は私の返事を聞くとニコリと微笑み……そしてロクサーヌとヴァサーゴの戦いの中に一人向かっていくのだった。



その後、その男……アレス殿はまずゆっくりとロクサーヌの方に向かっていった。


ロクサーヌは先ほどの動揺でさらに魔力を暴発させており、彼女の胸のあたりまで氷が覆っていた。


アレス殿はその魔力で自らが凍っていくのを意に介さず、ロクサーヌに近付き……不意に唇を奪う。これには私もミリアも、そしてロクサーヌも目が点になったものだ。

だが私はある事に気がつく。ロクサーヌのあの強大な魔力がどんどん小さくなっていくのだ。いや?彼が吸い取っているのか?


少なくとも私は見たことがない魔法である。いや?文献で見たことはある。あれは確か失われた魔法(ロストマジック)の『無』属性の魔法だったような気がする……

アレス殿がロクサーヌの唇を離した時……今まで彼女を覆っていた氷も、そしてそれに合わせて凍りついていた大地も……何事もなかったように元あるものに戻っていた。


放心しているロクサーヌを置き、アレス殿は次に邪龍の方に向き直る。


「さて……古代龍(エンシェントドラゴン)よ。今度は僕と相手をしてもらおう。今の僕がどれだけ通用するのか……うってつけの相手だ」


そう言うと彼は巨大な魔力を帯びた剣を取り出し邪龍の方に向かっていった。

邪龍もまた強力なブレスで迎え撃つ。


その後一進一退の攻防が続いた。


私達はただ呆然と、そして祈りながらその姿を見つめていた。


彼の剣は、堅固な龍鱗を切り裂き、傷をつける。しかし中々致命的な傷を与える事は出来ていない。対する邪龍のブレスもアレス殿には当たらずこちらも相手を捉える事はできていなかった。


いつまで続くのだろうか。彼は本当に勝てるのだろうか?私の胸に不安がよぎる。おかしな話だがあれほど疑いの眼差しを向けた相手を、今は信じるしかなかった。

彼の姿は……教会のタペストリーによく見る英雄と同じだったのだから。少なくともその場にいた者たちはそう思った事であろう。


そんな攻防が続いた時不意に邪龍の動きが止まった。


《くっ!この戦い、我には旨味は一つもないか。まさかこの時代の人間にこれほどできるやつがおったとはな……一先ず引かせてもらおう。しかし、いずれまた来る時があるだろう。その時は……覚悟してもらう》


そう捨て台詞を残すと邪龍は踵を返して、空高く急上昇する。


《先ほどの女子(おなご)(ぬし)も我の予想外であった。次は不覚をとらぬ。覚えておけ》


そう言うなり、邪龍は北の方角へ去っていく。


邪龍が見えなくなるまで構えを解かなかったアレス殿だったが……姿が見えなくなった途端、尻餅をついた。


「あぁ……あのまま続けていたら危なかったな。まだまだと言うところか……想像以上に疲れた」


そう言ってのんびり笑う……


そう、その笑顔を見た瞬間。このロザンブルグ領は彼によって救われたのを実感することができた。






私は彼を賓客として屋敷でもてなした。その中で大公家の御曹司である事を知ることとなる。そして、彼がこのロザンブルグ領にきた本当の理由……魔力調節の話も。


数日の間、彼はこの地に泊まり、そしてロクサーヌとシンシアの分の魔力調節のブレスレットを作ってくれた。


ロクサーヌの暴走を止め、邪龍を退け、娘たちを救ってくれた……彼はロザンブルグ家にとって恩人である。


だが。今回の件で私は恩人云々以上に彼に魅せられてしまった。


邪龍を退けたその武勇。魔力調節ブレスレットを作出する頭脳。そしてそれを押し付けるわけでもない清廉とした態度。まるで神話の中の英雄ではないか。


今、戦乱の兆しが見えるアルカディア大陸。そして我が帝国。どのように生き抜くべきか考えていかねばならぬ。それゆえ……ロザンブルグは彼にかけてみたい。彼とともに歩み、この時代を生き抜いてみたい。そう思っている。

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