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ロザンブルグの三姉妹 〜次女ミリアの話〜

私が皇立学院に入学したのは14歳の時だった。

私達三姉妹は元々圧倒的な魔力量を持って生まれた。でも、それを制御する(すべ)を学ぶことができなかった。なぜなら……


私達はロザンブルグ家の中でも史上最大の魔力量を持って生まれてしまったから。


特にロクサーヌお姉様は凄まじかった。間違いなく姉妹の中でも姉様が一番魔力量が大きい。そして…誰よりも頭が良く、真面目で優しかった。自分の魔力をコントロールできるようにしなければ多くの人が傷つく。頭の良い姉様はきっと気づいたはずだ。だからこそ独学で魔術の勉強をしていたお姉様は……ある日それを暴走させてしまう。


お姉様の得意属性は『水』と『氷』


『水』は癒し。『氷』は攻撃。そして暴走したのは当然『氷』の方……


お姉様の魔術によって当時ロザンブルグ領の三つの街が氷漬けになった。幸い、その後神殿から聖術師が来て、魔術を解除してくれたお陰で死者は出なかった。だが、それを機にお姉様は部屋に引きこもってしまう。あれほど明るかったお姉様が笑顔も見せず一日中部屋の中に閉じこもるようになった。

宴に招かれればあれほど求婚が殺到したのに。民衆のために私財を使ったり、魔法を使ったりしてあれほど好かれていたのに。学院であれほど人気者だったのに。

皆手のひらを返すようにお姉様の前から去っていった。求婚していた貴族の男達はいなくなり、民からは陰口を叩かれ、学院を辞めざるを得なくなってしまったのだ。


ついたあだ名は


「ロザンブルグの魔女」


私は悔しかった。だから……私はあえてお姉様の去った学院に入学する事を決めた。もしかしたらここに、私達の魔力を止めるものがあるかと思って。



入学して二週間ほどたったころだろうか。


早くも私は学院生達の噂の的になってしまう。


曰く、「『ロザンブルグの魔女』の妹」と。


そのような事もあり、私に話しかける者もなく、そして私も誰にも話しかける事もなく。


きっとそのような毎日が続くことだろう。友人などもできるはずはない。普通の学生生活を送ることも叶わない。でも別に構わないと思っていた。私の目的は別にあるのだから。



そんなある日のことだった。突然後ろから話しかけられたのは。


「ねぇ、ちょっと、そこの君!」


初めは私に話しかけているとは気づかず、そのまま通り過ぎようとした。だって、あの当時、私に話しかける人は皆無だったのだから。


「ねぇ、ちょっと、無視しないでよ!」


「……っ何?」


驚いた。話しかける人がいるなんて。振り向くとそこには黒髪の同年代ぐらいの男子生徒が立っていた。


「そりゃあ……そんなに魔力を垂れ流しながら歩いていたら……気になるじゃないか」


「??あんた、分かるの!?」


これもまた驚いた。見た所、魔導科でもなさそうなのに。


「そりゃあそれだけ強い魔力だからね……しかもかなり不自然な……。あ、」


彼はそう言うと首をひねった。


「もしかして……魔力の調節の仕方を知らないのかな?」


「っ!!!」


見たところ、私の所以を知ってるわけでもないだろう。初見でまさか気付く人間がいるなんて。でも私は努めて平静を装いながら返事をする。


「えぇ、そう。それを習いにあたしはここに来たんだから」


そんなやり方を知っていたら……もっと違う人生を歩めるはずだ。

姉様だって屈辱を受けることはなく。私ももっと自分らしく生きることが……


「そっか。だからあんな不安定なんだねぇ。とりあえずその爆発しそうな魔力、怖いからちょっといじらせて」


そう言うと彼は私の肩に手を置いた。


「な、何を……」


「フンっ!!」


そして彼が突然掛け声をかけた途端、私の暴発しそうな魔力が……一瞬にして消えた……いや潰された?


「え……?ちょ、ちょっと!あんた今何を……」


「とりあえず、魔力を圧縮したからこれでしばらくはいけるでしょ。後は……3日後に学院西塔のアルトリウス先生の研究室に来てくれる?」


そう言うと彼は踵を返し、のんびりと校舎の方向に向かって歩き出した。

私はその背中を見ながら……何も言葉を発することができなかった。




彼は何者だったのか?本当に信じてもいいのか?


それは分からない。


ただ、私の魔力を小さくしたこの術。それが気になる。もしかしたらそこに私達の魔力を抑える(すべ)があるかもしれない。


3日が過ぎ、私は約束の通り学院西塔のアルトリウス先生のところに向かう。


現在、学院の副学長を務め、来年には学院長に就任するであろうと言われる教授だ。

名誉教授として時折教鞭をもつが……彼の授業はとても人気なので、学院では知らぬ者がいないほどの有名人だ。


「失礼します……」


例え皇族であっても普通じゃ中々行けないであろう、高い身分の教授の部屋に私は恐る恐る入った。


まず目に入ったのは、好々爺のようにのんびりとお茶を飲み寛いでいるアルトリウス先生が安楽椅子に腰掛けていた姿だった。


「おや?アレス君。お客様が来たみたいだぞ?」


「あ、すみません、先生。今行きます」


奥の部屋から声がする。と、その部屋から箱を抱えている男子生徒……アレス先輩が現れた。


「やぁ、君がロザンブルグ侯爵家のご息女かな?噂はよく聞いてるよ。ちょっと待ってもらっても良いかね。今お茶を入れるから……」


そういうなり、先生はいそいそとまた奥の部屋に入っていく。早速私はアレス先輩と二人きりになった。


「ごめんね、急に来てもらって」


「………」


「まぁ、そう警戒しなくてもいいよ。とりあえず席に座って」


当時私はアレス先輩の素性を知らない。それゆえ彼が大公家の跡取りであるという事を知るのは少し後になる。


元々侯爵家、しかも訳ありときているため、近づいてくるのは碌でもない連中ばかりだった。今回、有名なアルトリウス先生のところと聞いたので多少信じてはみたが、警戒するのは当然だ。


警戒しつつも私はアレス先輩に勧められるまま椅子に座り、そして口を開いた。


「約束通り来ましたけど……何かあるんですか?」


「うん、これ。これをつけてみて欲しいんだよ」


そういうと彼は目の前の箱を開ける。そこには銀色に輝くブレスレットが収まっていた。


「これは……」


「魔力調節のブレスレットじゃな」


いつの間にいたのか、後ろからアルトリウス先生が声をかける。


「多分うまく調整できてるとは思うんだよねー。だから騙されたと思ってつけてみて?」


そう言って笑う先輩。


私は恐る恐るブレスレットをつけ………


「ひゃっ!!」


自分の魔力が急速に小さくなるのを感じる。


「うん、うまくいったかな?」


そう笑うと彼は嬉々としてブレスレットの説明を始めた。


「これはね、魔力を中和するようにできているんだよ。この前、魔力を圧縮した時に大体の大きさが解ったから、それと中和出来るように調整したんだ。魔力を中和させるには……」


しかし今の私には彼の言葉は耳に入らなかった。長年私達を苦しめてきた魔力。それが一瞬で抑えられる……


彼は夢中になって説明をしている。その様子をアルトリウス先生は苦笑しながら眺めている。


「そして、これを付けた時に……」


「ねぇ!!!」


私は思わず身を乗り出してしまった。


「うわっ!びっくりした。いや、まだ途中で……」


「説明なんてどうでもいいわ!それよりこれと同じもの、あと二つ作ることができる??」




結論的に言うと、アレス先輩はロクサーヌ姉様とシンシアの分も作ってくれた。領地に急な用事があったため戻った父上に会うために、ロザンブルグ領に戻るという時も嫌な顔せず応じてくれた。そこで色々と大変な出来事に巻き込まれたけど、彼はそれもしっかり解決してくれた。


そう、私達三姉妹はこのブレスレットをつけることで周りを気にせず、日々の生活を送ることが可能となったのだ。


私は子供の時のような気持ちを取り戻したようだった。以前よりも明るくなり、友人を作り、共に過ごす……今までは周りに危害を及ぼす可能性があったためできなかった、当たり前のことができるようになった。


その後、私はアレス先輩……アレ兄の後をいつもついて歩くようになった。アレ兄が大公家公子であることは後から聞いた。あの時は……本当に驚いたものだ。


彼は学院の有名人だった。貴族科に属しているくせに貴族科ではなく普通科の授業に顔を出したり、軍略・政略科の演習を聞いていたり……かと思えば学院一の有名人アルトリウス先生の部屋に入り浸ってたり……平民の生徒からは圧倒的な人気を誇っていたが、貴族科の生徒からは白い目を向けられていたように思う。


ただ、その甘いマスクと優しい性格、そして試験を受ければ優秀な成績を収める頭脳……さらに大公家という身分から……女性にはよくモテていたとも記憶している。


当初はアレ兄の事を馬鹿にする人が多かった。理由は一つ。剣術や魔術の稽古に姿を現さないから。惰弱だのなんだのと言ってる輩に対してアレ兄はいつも笑っているだけだ。

私は知ってきた。アレ兄が力を隠していた事を。だって、私達を助けてくれた際、その力の一端を見せていたから。


その後、学院で有名なロクシアータ嬢……シャロン先輩の誘拐事件を経て、その実力が白日の下に晒されると、その人気に一層火が付くことになった。


そんなアレ兄に近づく人たちを蹴散らしていたのが私だった。アレ兄も「お手柔らかに」なんて言いながら、断らなかったんだから、意外と助かっていたのかもしれない。


アレ兄は私達の恩人だ。そしてロザンブルグにとっても恩人だ。この恩は一生忘れる事はできないだろう。きっとロクサーヌ姉様もシンシアも……そして父上をはじめ、ロザンブルグの人にとって……それは同じ気持ちだと思う。


だから私は。


あの人のためならなんでもできる。そう思っているよ。



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