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宿老アルベルト 昔語り

私の名はアルベルト。我がヴィルヘルド家はシュバルツァー家譜代の家臣として大公様を守護する騎士の家柄である。

幼馴染のローウェンとともに、十五の頃より先代に仕え、今は現当主エドガー様に仕えている。


シュバルツァー領は北方ヴォルフガルドと接しており、以前は小競り合いが絶えなかった。また北の地は魔獣も多く、それらの討伐も頻繁に行なっていた。それゆえ、我らシュバルツァー兵は実戦経験が豊富であり、帝国の中でも精兵として名を馳せたものである。


我らは戦で功績を残す事、歳を重ねる事に上の立場となり、二十年前ほどよりローウェンは領軍の軍団長として、私は騎士団の団長として、シュバルツァー家の武門の統括を行なっていた。


そして、セフィロス陛下が即位した事で我らはシュバルツァー兵を率いて戦に赴く事が多くなった。

セフィロス陛下はその『雷帝』の通り名の如く、戦を好まれる。大規模な戦の度に領軍は招集され、その指揮官として私がローウェンが出向く事が多かった。そのおかげか、我々の名は帝国内でも知られる事となる。


人呼んで


「シュバルツァーの双璧」


私もローウェンも、その名に恥じず、戦さ場こそ我が人生、と思っていた。そう、あの日が来るまでは。




ある嵐の晩であった。我々が大公閣下の部屋に呼び出されたのは。


ここ一年、シュバルツァー領は暗い話が多かった。

この年は、北の地ヴォルフガルドの女帝エカチェリーナがアルカディア帝国に対して大進行を強行した年であった。そのためシュバルツァー領北部の砦にて大きな戦があり、シュバルツァー領は大打撃を受けることとなる。帝都からも多くの援軍があり、また北の守護を任されているローウェンの活躍、また、私の騎士団達の頑張りなどでなんとか追い返すことはできたが……その年の作物などには大きな影響が出てしまったのだ。

他にも天候不順や魔獣の大量発生等、シュバルツァー領は試練を迎える事となった。

だが、1番大きな出来事は……誰からも愛されていたアレス様が熱病にかかった事だろう。

後継であるアレス様の病は、このシュバルツァー領に陰を落としていた。


だが、僅かだか希望の光もあった。それは奥方様が第二子をご懐妊された事だ。これを機にきっとシュバルツァー家は盛り返す……いや盛り返してみせる……ローウェンも私もそのように考えていた。


だが、まさかさらなる絶望がここにあるとは……予想もしていなかった。


始めに到着した私に大公閣下は驚愕の事実を話す。


それは……次男ユリウス様が昨日の太陽のかけた日に生まれた事、そして…オッドアイだった事。


大公家からオッドアイが生まれてしまった……見つかれば下手をすると家自体が潰れてしまう。


私は暫くの間、言葉を失ってしまった。


また、もう一つの内容も初めは理解ができない内容であった。

それは……


アレス様に三つの記憶が宿ったと言う事。


熱病から復活されたアレス様がそう、エドガー様に話をしたらしい。そしてエドガー様もまたそれを信じている……


ローウェンが到着するとエドガー様は我々にそれぞれ異なる指示を出した。


ローウェンは今日よりアレス様の傅役となり、そして北方へ彼を連れて行くこと。


私には……ユリウス様の傅役となり……彼をシュバルツァー領奥地の山荘に閉じ込め、そこで成長させる事。


誰にも漏らす事のできない事実。大公様と奥方様、お二方が悩んで出した結論であろう。そして、一番信頼できる家臣が私達であり、それを頼んだのだ。


だったら私達はそれに従うのみ。ローウェン共々意を決してその命令を拝命した。




そこから先は怒涛であった。


私は騎士団の団長を辞し、まだ幼いユリウス様を連れて山奥の山荘へ向かった。


シュバルツァー家が誇る騎士。それが急にいなくなったことを、訝しる者も多かったそうだ。しかし、誰が尋ねても大公様は私の行方を教えなかったと聞いた。


ローウェンも同様に、幼いアレス様を連れて北方の砦に向かった。彼もまた、多くの戸惑いがあったことだろう。


常に戦場にいた私にとって……全く違う生活が待っていた。


私に子はいない。妻には随分と前に先立たれ、その後は妻をもたなかった。それゆえ……幼な子とともに過ごすということがどの様なものなのか全く分かっていなかった。

毎日ががむしゃらであった。しかしユリウス様は非常に聡い子でな……物心がつく頃は我らの気持ちを察して行動してくれたりと……本当によくできた子だったわ。


それゆえ私は彼に様々な事を教えた。剣術、読み書き算盤、そして軍略、歴史……どんな事もあっという間に吸収していくのを見て……これぞ大公家の血と感服したものだ。


山荘には私と、女中頭のアリー。そして数名の召使い達が一緒に過ごしていた。

アリーは戦で家族を亡くした年配の女性である。彼女は祖母の様に、母の如くユリウス様に接していた。

他の召使い達も同様に仕えてはいたが……それでもユリウス様のオッドアイを見て、蔑んだ態度をとるものもいたらしい。

アリーはそれを見ると身を呈して守ってくれた。


不思議な感覚であった。家族とはこういうものかとしみじみ思ったものだ。妻を亡くしてから得たことのない温かい気持ち、それを感じる事ができ……本当に幸せだったと思う。




そんなある日、訪ねてきたのはアレス様であった。


ローウェンの手紙にアレス様について書いてあった事を思い出す。


曰く


三人の記憶を有しているのは事実、幼い時よりすでに大将の気質あり。千年に一度の英雄也と。


久々にお会いしたアレス様は……とても興奮してらした。自分に弟がいる事を存じ上げてなく、会って話がしたい、と。


大公様の書状もあり、私はユリウス様と会わせてみることとした。


アレス様とユリウス様は出会ったその日に意気投合。長い時間話し込んでいたのをよく覚えている。


帰り際、アレス様は私に言った。


「アルベルト……ユリウスはやはり外の世界に出たいそうだ」


「そうでありましょう……本当にこのアルカディア帝国の法が憎うございます」


「本当にね……だから僕は、それを破壊してこようと思う。必ずユリウスを外に出してみせる。だからアルベルトもそのつもりでいてくれ」


初め、私はアレス様が何を言っているのか理解できなかった。思っても見てほしい。ここ何年間も変わらなかった法をどの様にかえるというのだ。仮に変えたとして……ユリウス様が偏見の目をもたれてしまうかもしれない。


「それと……アルベルト。仮に外に出れたとしてユリウスには眼帯をつけてもらう」


「はい。それがよろしいでしょう。やはり周囲の目が気になりますゆえ」


「いや、そうじゃない。あの眼は……『天眼通』だ」


天眼通


別名『千里眼』とも言う。見えない物を見る力。遠くの地の事、または未来など……


「おそらくまだ力に目覚めていないから良いものの、目覚めれば恐ろしいほどの情報が頭に流れ込むだろう。ユリウスがそれを使いこなせるようになるまで……特製の眼帯を作ろうと思う」


そう言ってアレス様は帝都に戻って行かれた。その数ヶ月後。アレス様が次に訪れた時告げたのは……本当にユリウス様が自由になった報告であった。


皇帝陛下自らの書状を持ち、彼はユリウス様が自由の身である事を証明させたのである。


もちろん、それでも偏見の目がある。それゆえアレス様はユリウス様に眼帯を渡した。これで右目を隠す様に……と。


その時のユリウス様の表情は……私は忘れないだろう。



その後、ユリウス様は一度シュバルツァー領に戻り、数年を過ごす。そして今、奥方のセラ様と供に帝都にて過ごす事となった。もちろん私やアリーも一緒だ。


一度、再び騎士団の団長に戻らないか打診は受けた。しかし、それは断った。

久々のシュバルツァー領。見てみると以前と比べて大きく発展しているのがわかった。騎士団もまた、私の部下たちがさらに精強な騎士団へと鍛えてくれており、自分がいなくても大丈夫だと思ったのだ。


私の今の居場所はユリウス様の横。それで良い。


あれからユリウス様は本当に明るくなった。そして何よりより一層勉強熱心になられた。何か目的を見つけたそうだ。

その目的を達成できる様、私も彼にこれからも付き従おうと思っている。



アルベルト・ヴィルヘルド卿


ローウェン・ベルガー卿と共にシュバルツァー領を支えた名将である。

彼はその後、突然の引退・失踪で多くの人を驚かせる。


彼がその後、歴史に現れるのは、常勝の将軍として名高い『独眼竜』ユリウス・シュバルツァーの副将としてである……

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