帝都への道
シュバルツァー領はアルカディア帝国の北方に位置しており、ロマリアから帝都まで、早馬でも一ヶ月はかかる。
アレスが率いているのは重装騎兵なので、それなりのスピードで進むことはできているが、やはり重装備につき、軽騎兵ほどの距離を稼ぐことはできない。
「ま、我らのペースで行こう。焦ることないよ。」
そう言ってアレスは笑った。
「それでも、おそらく二週間ほどで帝都に着く予定だ。招集がかけられているのは一月後。そこで評定が行われ、その後出陣式だろうから……まぁ二週間ほどは帝都でゆっくりできるよ」
「……私は正直帝都は好きにはならないのですが」
剣闘士時代を思い出すのだろう。アレスの言葉にシグルドは渋い顔をした。
アレスはその言葉を聞き、まぁまぁとなだめた後、周りの様子を眺めながら呟く。
「しかし、シュバルツァー領を出ると、こんなにも荒れた土地があるんだねぇ。開墾や治安の維持はしないのかな?」
アレスの目の先には、焼け落ちた村がある。そしてその田畑はすでに使えないほど荒れていた。
皇帝セフィロスは戦を好む。その反面、内政は家臣に任せることが多かった。
名宰相と名高かったアーノルド公レイゼンが存命中の頃は、彼一人の裁量で国内の政を一手に治めていた。地方領主にも領地経営の重要性を説き、治安維持や法令の遵守を厳しく守らせていたのだ。神聖アルカディア帝国全体も比較的穏やかにまとまっていた。
しかし、5年前に病にて世を去ると、それを契機に多くの地方領主が利益を求めて動き始めた。また中央の貴族達はこぞって派閥競争に夢中になり、内政に力を入れることは少なくなってしまった。
不正は横行し、魔物や賊が蔓延る…大陸最強と言われるアルカディア帝国も内情を詳しく見ていくと、そのような様子が多々見られるようになったのであった。
「やはりレイゼン殿が亡くなられたのが大きいね……あの方は偉大だったよ」
「アレス様はアーノルド公の事をよくご存知で」
「あぁ。父とも旧知の仲でね。幼い頃からよく可愛がってもらった。人物としても高潔で素晴らしい方だったよ」
そう言うと、アレスは遠くを眺めながら、故人を偲ぶ。
「でも、あの方がいなくなってから世が大きく変わってしまったな……」
「嘆かわしい事ですが…今や帝国はこの様な地がたくさんあります。シュバルツァー領が平穏なだけかと」
村の様子を眺めながらシグルドはアレスの横で返答する。
「ここまで来る途中、いくつもの賊や魔物に襲われた村を通りました。1件や2件ではありません。陛下も外征ではなく、この様な民を…」
「シグルド、やめよう」
アレスは言った。
「それ以上言っても何もならないよ。ただ、虚しくなるだけだから」
「……はっ。申し訳ありません」
「今回帝都で陛下と謁見する際、僕から申し上げてみようと思う。……聞いてくれるといいけどね」
アレスはシグルドにそう答えると、全軍に指示を出した。
「前方の村の跡にて、本日は休息をとる。準備に入る前に…おそらく村人達がそのままだろうから……供養を皆でしよう」
アレスは襲われた村に対して、ささやかではあるが、供養を行った。
そしてその後、休息の準備に入る。
アレスは積極的に村の廃墟で休息を取る。その理由は二つ。
一つは水が手に入りやすいこと。そしてもう一つはこの様に少しでも供養をしてあげたいということ。
死者をそのままにしておくと場合によってはアンデットとして魔物化する場合もある。そうなっては……死者も浮かばれない。
供養が終わり、アレスが陣を張って一休みをしていると目の前の木々から気配を感じた。その木々に向かってアレスは語りかける。
「何かあったかい?ゼッカ」
「この村の先、早馬にて半日ほどの場所に魔物の群れがいます。おそらくはゴブリンあたりかと」
「捕まっている人とかはいるのかい?」
「いえ、今回はどうやら皆無かと思われます」
ゴブリンやオーガなどは時折女性を攫っては犯して子を産ませたり、場合によっては食料にすると言われている。それゆえ、その人の名誉のためにも慎重に動く事が必要になる場合があるのだ。
「そっか……それならまぁ、多少派手にやってもいいか。運動がてら体を動かそうかな?」
そう言うとアレスはゆっくりと起き上がり、そして思いっきり体を伸ばすのであった。
活動計画に最近の思いを載せました。




