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出立

皇帝セフィロスの召喚命令により、シュバルツァー領の代表としてアレスの帝都行きが決まった。


アレスはエドガーとの話を終えると、すぐに自分の腹心とも言えるべき三名の家臣……シグルド、シオン、ジョルジュを呼び寄せた。


「今回も私はついていきます」


話を聞いて、シグルドは即答で返事をする。それを見て苦笑するシオン。そして無表情のジョルジュ。


「そのつもりだったよ。ジョルジュは今この領には欠かせないだろうし、危急の時にはシオンは不可欠だ」


そう言ってアレスは二人の顔を見る。


「今回は僕も一武将として戦に参加する。シグルドの武力は必要だよ」


アレスが不在の際、有事が起きた場合に戦略的判断を下せるシオンはこの領内に不可欠であろう。またジョルジュはこの地の筆頭政務官なので動かせない。

アレスの今回求められている役割は一武将としての役割である。そのため必要になってくるのは純粋な武力。そのためシグルドのような猛者は必要なのだ。


「ときにアレス様。今回は兵をいかほど連れていくのですか?」


シグルドの問いにアレスは答える。


「あぁ。陛下は3000でいいと言っていたけど…今回は『破軍』の中の『黒軍』を連れて行こうかと思う。しかもその全軍、5000騎を」


「なっ!!あえて黒軍を出さなくても!シュバルツァー領軍でも」


驚くシグルド。そして、その返答は別の方向から聞こえた。


「まぁ、帝国への『破軍』のお披露目にはインパクトが必要ですからねぇ。よろしいんじゃないんですか?また彼らにとって本格的な戦は初めてですし。初陣としてはいい相手ですよ。何と言ってもグランツ兵は大陸最強の一つと呼び名が高いですから」


シオンはそう言うと大きく欠伸をした。


「3000の所を5000出すのも陛下の心証をよくしますしねぇ。」


数年に渡り、鍛えに鍛え抜いた子飼の精鋭。

今、シュバルツァー領にいる兵達の間では『破軍』は憧れの存在になっている。

そして……シュバルツァー領の誰もが知っている。この『破軍』の異常なまでの強さを。


今回はその中でも破壊力がある黒軍をアレスは連れて行くことにした。


理由はシオンの言っている通りである。

皇帝セフィロスは有能なものを愛でる一方、無能なものには手厳しい。今回の戦でアレスが欲しいのは「名声」と皇帝からのさらなる「信頼」だった。そのためには確実に勝てる準備をしなければならない。そして、ただ勝つだけではなく、圧倒的に強く、印象的な方法でその姿を見せる必要がある。


「この戦で結果を残せば、陛下の心証もさらによくなる。そうすれば、シュバルツァー家の影響力もより大きくなり、またいくつかの貴族が我らの元に庇護を求めるだろう。そしてその条件は…」


「亜人たちの解放ですね。」


ここで今まで静かに黙っていたジョルジュが口を挟んだ。


「そう。新たな地を貰ったとしても、その地の亜人を解放することができるしね」


そう言ってアレスは部下達の顔を見た。


「そのためには帝都で派閥争いをして我々の元に来た様な連中ではダメなんだ。そのような連中は風向きが変わればいつでも裏切るだろう。そうだはなく我々の圧倒的な力を見て、完全に服従してくれる者たちではないと」


そしてアレスは不敵に笑った。


「皆にも言ったけど、僕の最終目標は人種による差別がなく、全ての人々が平等に暮らせる世の中、国を作ることだ。そのためにはどんな事でもするつもりだよ。

今回の戦は陛下にとっては大陸統一の足がかりの戦かもしれないけど。僕にとっても、その夢の足がかりにしたいと思ってる」



アレスはその後、一人で自らの厩に向かった。


それは自らの愛馬である「セイン」に会うためである。

アレスが厩に入ると、奥の方に膝を曲げて眠っているセインがいた。


「セイン、帝都に出立することになったよ。悪いけど、また戦だと思うんだ」


その声を聞き、白馬はゆっくりと目を開く。


『また戦か。本当に人族というものは戦が好きな生き物よ』


そう言うと、セインと呼ばれた白馬は薄目を開けて、ゆっくりと立ち上がった。

大きさは普通の馬より少し小柄だが、その引き締まった馬体は見るものを惹きつける。また、その頭部にある二本の角。そして神々しいまでに純白の毛並み。


何よりも、こうして人と話している事実。


「セインのような『麒麟』には人の争いなんて分からないことだろうね…って僕も正直、分からないと思うことが多いけど。」


『麒麟』

彼らは存在自体が希少とされ、人前には中々現れることがない。見ることができたら吉兆とまで言われるほどだ。

非常に強力な魔力を持ち、稲妻を纏いながら暴れる姿から「神獣」とまで言われている。

仮に麒麟一匹を捕獲するにも一個師団ではきかないであろう。


「お前がそこに行きたいというのなら、戦場だろうが地獄の果てだろうが儂はどこまででも行くさ。儂のマスターはお前なのだから。」


そう言うと、セインはクツクツ笑った。


「それにしてもあいも変わらず謙虚よの。マスターなのだからもっと偉そうにしても良いものを」


「…そりゃあ、セインの方が長生きだからね…ご機嫌も伺うでしょ。ま、マスターとしてしいて言うならその笑いはやめようか…怖いから」




この数日後、アレスはロマリアを出発した。

供になるものは黒衣の勇士シグルド、そしてアレスの兵である「黒軍」5000騎。


そして門からその姿を見送るものが。


「もしかしたら、この戦で世の中が大きく変わるかもしれませんね……我らも準備しないと……」


シオンはそう呟くと一人眉間にしわを寄せ、何かを考え込むのであった。


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