使者の驚愕
帝都からの使者としてシュバルツァー大公領にきた私は数日ここに滞在する事となった。
なぜ、数日もここにいたのか。それはここの地の居心地の良さだ。
「何日でも滞在してください」
大公のその言葉に甘えて、長逗留をしてしまった。
そして今回は私がこの地で、驚いたことをまとめたいと思う。
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まずは街の作りについて。
領都ロマリアは石畳の道で整備されており、馬車などが通りやすくなっている。また、家々も多くが煉瓦造りになっており、綺麗に整っている。この家々もどうやら最新の建築方法を使い、丈夫に作られていると聞いた。
また、川から水路が確保されており、生活用水がロマリア全体に流れる様に整えられていると聞いた。また、多くの水路が地下に埋め込まれており、ゴミなどが入らない様にしてあるなど、進んだ技術を取り入れられている。
当然の事、道路などは末端の村々までシュバルツァー領は道路が整備されているらしい。これにより日々村々の新鮮な食材や、産物などが領都に集まりやすくなっているとの事である。
また、危急の時はこの道を通って兵を送るため、
迅速に対応できるそうだ。
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次は芸術。
どうやら大公領では芸術を保護しているとの事だ。
現在この街には多くの芸術家が滞在している。絵画、造形、彫刻……実に様々な分野のだ。
街のいたるところに、画家が絵を描いている姿が見られる。また、公共物の至る所には彫刻が施されている。どうやらそれは、呼び寄せた芸術家達に弟子入りしたものが練習がてら彫刻を施す事を許可しているからだそうだ。
中央広場には大きな噴水が置かれており、その噴水にも複雑な彫刻が施されている。これは芸術家達の合作らしい。これほど立派な噴水は……帝都にもないだろう。ここはこの噴水を中心に市民の憩いの場となっていた。
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噴水と言えば……私はこの街の衛生面も注目した。
この地の水は非常に清らかである。地下を通っている水路は勿論のこと、噴水や、普通の水路などの水は非常にに清潔で、多くの子供達が水浴びをしている姿が見られた。
汚水はどの様に管理しているのか?わたしはそれを近くにいた役人に聞いてみる事にした。
「汚水は皆、専用の管を通って分けています。その際、この地と契約している精霊達が水を綺麗にして、また川に戻しています」
なんと……この事は驚きを通り越して唖然とした。これほど徹底して水を管理しているとは……
「汚水は病気の元となります。それゆえその扱いは徹底しています」
確かに帝都、特にスラムがある西地区などは汚水の影響で伝染病が流行ることが数年に一度ある。この方法なら恐らくその様なことは起きないであろう。
ただ、そのためだけによく水の精霊達が契約をしてくれたものだ。
私の疑問にその役人は不思議そうに答えた。
「はて?他の地では精霊は契約してくれないものなのですか?この地では当たり前の様に精霊が助けてくれますが……」
「それは……昔からですか?」
「まぁ、代々シュバルツァー領には精霊の友人であるエルフが住んでいましたから……ただ、それをこの様に使う様になったのはここ、数年かもしれませんね」
やはりここ数年の事らしい……すなわちここ数年に何かが起きたということか。
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私が驚いたのはそれだけではない。ここの食文化にも衝撃を受けた。
出される料理がどれも美味いのだ。宿泊場所に出される食事から、街の料理店、果ては屋台の出店まで。
聞けばこの地では、ここ数年より庶民も白パンを食べているとの事。硬い黒パンは、主に保存食として活用しているらしい。
また、肉料理も素晴らしい。あの筋張った肉の固さはないのだ。どれも調理を工夫して柔らかくしている。野菜も萎びたものはなく、どれも新鮮。不思議な事に魚も豊富。海の魚もある事に驚く。
アルカディア帝国は内陸の国だ。そのため海の魚は輸入に頼らざるを得ない。それゆえ帝都でも海の魚は高値で取引される。
しかし、この地にはそれがある。どうやら北方ヴォルフガルドから流れてくるらしい。
食材にも驚いたが……1番驚いたのはその調理法だ。どれもこれも帝都ではお目にかからないものばかり。私は特に露店の「油茹で」が気に入った。ここでは大人から子供まで気軽に食すらしいが、帝都では見たことがない。絶妙な塩加減が抜群でエールにもあう。
だがこれだけではない。私が衝撃を受けたのは、大公家の食事だ。
確か……ハドラーとか言ったか?その料理人の腕が非常に良いと聞いた。
今まで食べたこともない様な……頰が落ちるとはこの様なことか、と改めて感じたものだ。
ここでとある店主から話を聞いた事を記したい。
その店で食事を取っていた時のこと。
私は、この店自慢の『雪のシチュー』と言うものを食した。そしてこの味が気に入り、店主に話を聞いた。
どうやらこれは『牛の乳』をふんだんに使った料理の様だ。
『山羊の乳』は見かけるが『牛の乳』は帝都では中々少ない。どうやらシュバルツァー領北東部は牧場になっており、盛んに作られているそうだ。
そして驚いたのが、この作り方について。これはレシピが大公の屋敷から自由に持ち出して良いこととなっているらしい。
「大公様もアレス様もね、食通な方らしいけど、あの方のすごいところはその美味いものを下々の者達に伝えてくれることさ。それがなければ、こんな料理は生まれてこない。一度シュバルツァー領を訪れると、ほとんどの者たちが他の地方で飯が食えなくなるってさ」
確かに……それは納得の出来事だった。
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治安についても書きたい。
私は今まで多くの都市を見たが……これ程治安が良い領地を見たことがない。
物乞いもほぼいないし、スリなどにもあうことはない。その辺に物を置いても取られる心配も少ない。
勿論、どの地にも悪漢はいる。しかし、常に治安維持に努める巡察官が目を光らせており、不正を行えばすぐに捕まってしまうのだ。
この地には縁者故の贔屓なども存在しない。全ての者が平等に裁かれるとの事だ。
この話を聞いた時……私は雷鳴に撃たれたかのように暫く立ち尽くしてしまった。そしてなぜ多くの者達がこの地を目指し、各地から押し寄せるのか……それも分かったような気がする。
この地は非常に安心して暮らしていける。日々の命の危険がなく。日々の理不尽がなく。
帝都で様々な者を見てきた私には……まさに人としての理想郷に思えた。
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他にも驚いた事は多数。共同浴場の素晴らしさは筆舌に値するし、火を簡単に起こせる火付け箱もそうだ。
街だけではない。郊外を見渡せば、非常に整えられた畑……どれもこれも驚くことばかりだ。
しかし、最も驚いたのは。自然に、そうあまりに自然に亜人達が溶け込んでいるところだ。
ここにくる前に聞かされてはいた。あの地は亜人を奴隷として扱わず、民として扱ってると。そのため教会勢力からもかなり警戒されていると聞いている。
それゆえに私は勝手な想像で……もっと人族と亜人達が啀み合っていると思っていた。
だが……この地にきてあまりに自然に馴染んでいた事に驚く。誰も彼もが笑い合い、手を取りながら過ごしている。人族が亜人を見下す事はなく、亜人が憎しみの目で人族を見るのではなく。お互いがリスペクトしあって生きている。
こちらの教会には亜人の神父がいるほどだ。
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誰も彼もがこの地では幸せに暮らしている。それ故、危機に陥れば全ての者達が……それこそ、人族だけでなく、獣人や耳長族、ドワーフまで、この平和を守るために、命を捨てるだろう。
それがこの国のうちに秘めた力なのかもしれない。
この力がいつか必ずこの大陸を飲み込むことになる……私はそう思えるのだ。




