親友
アレスとシグルドが養蜂園から館に戻る帰り道。
アレスはロマリアの大通りを抜け、青空市場を通りながら帰路についた。
アレスが歩いていると、彼を見かけた多くの人たちから声があがり、
「若!お元気ですか?」
「今日はどちらにいらしたんです?またうちに寄って下さいね」
「汚い店ですけど…また寄って下さるとうれしいですっ!!」
老若男女問わず、続々と声をかけられた。
「あぁ、ありがとう。また寄らせてもらうよ」
アレスは声を掛けられるたびに笑顔を向け返事をしていく。
「青空市場の活気があるっていいね。つい色々と見てしまうよ」
現在、ロマリアの青空市場は三箇所にある。
当初は、不正を行う商人も蔓延っていたが、ジョルジュが徹底的に罰則を厳しくし、また監視を強化したため、そのような者達はいなくなり、今では正常な市場となっていた。
市場が変われば人も増える。青空市場は大勢の人が行き交う場として、今ロマリアを支えている。
そうやって歩いていると、とある広場にてアレスは足を止めた。
「おや?あれはエランの露店じゃないか?」
そういってアレスは片づけをしている露店に立ち寄った。
「おーい、エラン」
「……!?これはアレス様。稽古がえりですか?」
「そう。エランは今、店を閉めたところかな?」
そう言って笑いかける。
エランはこのロマリアの都市から少し離れたところにある村の孤児だった。
今は自分の手で森で採取した薬草や道具などを売って、生計を立てている。また、時折自ら開発した道具を発売し、それが大評判となる場合もある。
先日開発した、火を簡単に起こすことができる『火つけ箱』は、飛ぶように売れ、今ではシュバルツァー領内だけでなく、他の地にも販売するほどだ。
彼が作った店は今、このロマリアでは知らないものがいない程の繁盛店だった。
そしてなにより、このエランはアレスにとってロマリアにいる数少ない年の近い友人なのだ。
他愛もない会話をした後、アレスは少し真面目な顔で語りだした。
「ジョルジュが言ってたよ。早く店を閉めて自分のもとに来てほしいって。優秀な人材は今は喉から手が出るほど欲しいんだから…」
エランはその才を買われて、今ジョルジュから熱烈に仕官の誘いがある。また、彼はアレスの頼みから受けた仕官試験にて、軍略にも才をみせ、シオンからも注目されてらようになっていた。
「私は所詮、学のない孤児です。そんなことは恐れ多くて気軽にできませんよ…」
「そのわりには仕官試験では首席だったけどね…」
「あれはアレス様が受けるようにいったから受けたまでです。今は自分のために働く事はできません。何とか、あの子達が食べていけるように、そして自立できるようにしていかないといけないですから……」
そう言って、エランは再び片づけを始める。
「まぁしょうがないか…無理にとは言えないしね。」
肩を落とすアレスの様子を見て、エランは少し微笑みながら言葉を続けた。
「あくまでも『今は』という事です。この店もようやく軌道に乗りかけています。この店を使い、あの子達が自分で稼げるようになったら……私は必ずアレス様の元に集います。それまでお待ち願えませんか?」
その返事を聞き、アレスもまた微笑んだ。
「あぁ、必ずだよ。約束だ」
「えぇ、勿論」
そうやってお互い笑い合う。そしてアレスは自然と片づけを手伝い始めた。そしてエランもそれを見て断るわけでなく、一緒に手を動かす。
二人の様子を黙って眺めていたシグルドだったが、何となく二人の間に入ることはできず、アレスの様子を見て仕方なく片づけに加わるのだった。




