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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
序章 〜アレス・シュバルツァーという男〜
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ジョルジュ 昔語り 〜種族平等の夢〜

私がシュバルツァー領に来たのは今から3年前だ。


私の故郷は帝国内でも南の地エルドラド侯爵領。本来なら北方に位置するこのシュバルツァー領には縁もゆかりもない人間だった。


私は行政官としてエルドラド侯爵領に勤めていた。


私の性格上、自分が生粋の行政官であると自負している。それゆえ、不正には厳しく、また無駄な散財も許すつもりはない。人はまじめすぎるとか厳しすぎるとか言うが、そうでなければ政はできないであろう。




以前は帝都一の学府と名高い、皇立学院を首席で卒業後、私は帝都にて役人として務めていた。そのころ、官僚たちや軍の不正が横行しており、それを暴いたことで賞賛を受ける反面、多くの敵を作ったものだ。


そしてその結果、帝都から追いやられ故郷の行政官として左遷させられたのだった。

帝都でのエリートコースから外れた時点では私は左遷と言えるだろう。しかし私はこの左遷を幸運として捉えた。

領内の行政官はその量の政治の全権を握ることができる。

私としては帝都でチマチマ仕事をするよりはここで行政官として領運営に携わる方がやりがいを感じたものだ。


領運営をしていく中で、民の声を聴き、また見聞していくうちに、徐々にこの領の様々な点が見えてくる。

その中でも、もっとも発展を妨げているのは二点。侯爵親族への賄賂と人種の差別だろう。


私は帝都の時と同じように侯爵親族への不正を徹底的に暴き、改善するよう侯爵に伝えた。侯爵は渋っていたので、自ら警備兵を引き連れてその現場を押さえ、親族たちを一網打尽にするなど不正に対して厳しく対処した。


そして私の学生時代から訴え続けたでもある人種差別の撤廃。

アルカディア帝国の各地では人族だけでなく、獣人をはじめとした様々な種族が暮らしている。しかしどの地域でも仕事をする上では人族が優先され、他の種族が力を発揮できない社会となっている点に私は常々疑問をもっていた。

私の妻もハーフエルフだ。わたしにとって、最も大切な家族だ。

彼らは人族にない特徴をもっており、その力が認められるべきだと学院にいた時から常々言ってきた。

ここ、エルドラド侯爵領にて、その夢を実現させるべく努力をしようと思ったのだ。



しかし、そんな私への返答として送られたのは…社会的地位の没収。


すなわち、失職だった。


侯爵親族を罰したことにより、私は侯爵自身からも恨まれることとなる。また、私が種族間の差別の撤廃を唱えたことで、多くの者から奇異の目で見られることとなる。人族には「裏切り者」として。他の種族からは「無用なトラブルを生み出す、よけいなお世話」として。


そして、とうとうこの領内も私の居場所はなくなってしまったのだった。


侯爵の報復と周りの敵意から身を隠すべく試案を重ねる毎日を過ごしていた時。


そんな私のもとに一通の手紙が届く。


皇立学院にて数少ない友人だったシオン・トリスタンからの手紙だ。


そう、それはシュバルツァー領への誘いの手紙。そしてその手紙が私の人生を変えることになる。






友人であるトリスタンとの出会いは、皇立学院に在籍の頃だ。その出会いは食堂だった。私が食事をしている真向かいに彼は座ったのだ。


学院の授業にはあまり顔を出さず、問題児として名高い男。

講義には顔を出さず、図書館に通いつめているという落ちこぼれ。


名をシオン・トリスタンと言った。


私は彼が本を読みながら食事をしているのを見てこう言った。


「君、本を読みながら食事をするのは、行儀が悪いのではないかね?」


そう、いつもならそのような者を見ても、その場を立ち去るだけだ。特に興味を示すことはない。だが、その日は違った。なんとなく彼の姿を見て、声をかけてしまったのだ。理由は…類は友を呼ぶと言うものか。話をしてみると非常に興味深い男で、お互いそれをきっかけに言葉を重ねることとなる。


私の彼に向けてのたった一言…それが私とトリスタンを生涯の友として結びつけることとなった。





トリスタンからの手紙は職を失い、貴族からの報復を恐れていた私にとって渡りに船だった。


すぐさま家族会議が開かれ、全員の一致の上で、荷物をまとめてシュバルツァー領に移った。


アルカディア帝国は広大で、北方の地にあるシュバルツァー領やその地を治める大公のことなど、情報が全くない。しかし、私は迷うことはなかった。今の暮らしよりは間違いなく住みやすくなるだろう。何よりトリスタンの存在が後押しをしてくれた。



シュバルツァー領に到着した私たちを迎えたのは、笑顔のトリスタンと大公、そして公子のアレス様だ。

トリスタンが「これで楽ができる」と呟いていたのは聞かないことにした。


シュバルツァー領は私の想像をはるかに超えた場所だった。

豊かな土地、豊富な資源、精強な領兵、多くの人民、そしてーーー


種族平等の地。


人族だけでなく。亜人やエルフ、ドワーフ、はたまた魔族まで、全ての種族が平等に暮らしている。


そう、何の因果か、私は友人の進めで、私の追い求めていた地へ辿り着くことができたのだ。


私は現在この地で行政官として、内政を取りまとめている。


大公も私を信頼して下さり、全てを委ねてくれた。


そしてこの地において、最も影響力のある人物。それは公子であり、この地の後継者であるアレス様。

あの変わり者のトリスタンもアレス様個人に忠誠を誓っている。

多くの領民、兵士たちは、大公以上にアレス様を慕い、敬っているのが印象的であった。


アレス様は本当に不思議な方である。まだお若いのに、理の深淵を見てきたような瞳をしている。実際に会話を重ねると何度もハッとさせられることが多い。

一体どこで学んできたのだろうか…

しかし今はそれよりも、私を信じて下さり、すべてを任せてもらえる主は彼をおいて他にはいないということだ。


アレス様は出会ったばかりの私にこう言った。


「シオンから色々聞いてるよ。貴方は他者にも自分にも厳しすぎる人だと。だから僕は貴方をこの地に招いたんだ。そういう人物にこそ、人の上に立って仕事をしてもらいたいと思っている。

明日から貴方をこの地の行政官として任命するので、貴方の裁量で治めてほしい。そして、多くの人達が豊かに暮らせるようにしてほしいんだ。」


未だかつて、これほど期待されたことがあったであろうか。これほど全権を任されたことがあったであろうか。

その日から私は、この地に、そしてシュバルツァー家に対して忠誠を誓い、仕事に励むことになった。


この地を豊かすること。それを生きがいとし、今日も行政官として仕事をしている。







アレスティア皇国において副宰相、そして後に宰相を勤めたジョルジュ・ウォルター卿といえば、泣く子も黙る行政官として有名だ。


シュバルツァー領から始まった彼の内政改革はその時代における多くの手法を一変させる。

農業では、作物の二毛作、二期作を奨励し、また各地で特産品を生み出したり、より災害に強い種類への品種改良、はたまた農具の改良までも着手し、大きく発展させた。

商業では、貨幣制度を整え流通させたり、座を設け、より多くの物の流通を図ったりするなど、国の基盤を盤石にする。

さらには工業を発展させ、様々な道具を生み出させたり、戸籍を明確にし、整えたり…数え上げればきりがない。


その功績はシュバルツァー領、およびその後のアレスティア皇国の基盤を作り上げたといっても過言ではない。


彼もまた


「アレスティアの七賢臣」


の一人としてその名を歴史に刻む。


ただ、次々と過労で倒れていく部下を尻目に、淡々と機械のように仕事をしている姿は行政官のみならず、多くの人々からも恐れられたといわれる。




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