夢の中で
「で、坊やはシャロンちゃんとシータちゃん、結局どっちを選ぶわけ?」
アレスは正座をして黙って話を聞いている。その表情は……虚ろだ。
なんで夢の中で説教されなくちゃいけないんだ?
アレスはそう思う。
「坊や……話を聞いてる?」
「聞いていますよ」
目の前にいるのは、僕の先人の記憶の中の一人であり、歴史上有名な人物
ギルバート・ゴライエ
である。
「そもそも、どっちがではなくて……誰がいいの?他にも学院で仲の良かった商家の子とか、助けてあげた侯爵家の三姉妹とか、帝都のスラムにいるあの娘とか、他には……」
「あぁ……もう言わないで……」
アレスはますます情けない顔をする。
「そもそも坊やは男女関係においては優柔不断すぎるのさ。いいかい?この世には男と女しかいないわけで……」
またギルバートの説教が始まる。そんな時、
「おい、そろそろいい加減にしろ」
別方向から声が飛んだ。そちらを見るともう一人の記憶、レオン・アルカディアが憮然とした表情で立っていた。
「面倒くさいことをダラダラと……そんなのは、とっととまとめて犯せばいい。やり方は今日の修練が全部終わったらギルバートから習え。それより、まずは余の時間だ。こちらに来い」
「あぁ、レオン!!とんでもない事をサラッと言ってるけど助けてくれてありがとう!!」
そう言うと僕は急いで立ち上がりレオンの方に向かっていった。その様子を眺めながら……ギルバートは溜息をつく。そして……小さな声で呟くのだった。
「まぁいいでしょう。今日は魔術だけでなく房中術もしっかり実践させましょう……」
◆
数日に一度、このように夢の中で3人の記憶に呼び出される。それは……彼らの技や魔法、知識を学ぶためだ。
ギルバートからは魔術と錬金術、それに伴う様々な知識を。
レオンからは、軍略や政略、領地経営学を始めとする帝王学を。
そして、シン・オルディオスからは剣術を始めとする武術を。
今回始めの学習はレオンの帝王学であった。
「貴様の世の政情をみて、すべき事は何か?」
「とりあえず、中央に強い影響を与えておく事、そして深入りせず、地方で力を蓄える事、でしょ」
そう、言うとレオンは満足そうに笑う。
「然り。貴様はよい家臣に恵まれている」
確かにこの案は、シオンがたててくれた戦略だ。帝都の中央は今腐っている。それこそ「雷帝」セフィロス陛下でも抑えきれないほど。とくに中央貴族と教会の腐敗は凄まじい。
だが、ただ傍観するわけにはいかない。必ず時代は変わってくる。その貴族世界にも楔を打つ必要があるのだ。、と、同時に事が起こった際、自らの力のみで立てるほどの力を持つ必要がある。
「然し、アルカディアも落ちぶれたものよ。余の血族でありながら情けない。臣下の貴様に頼るしかないとはな」
「いや、一応臣下に下がったとはいえ、僕も貴方の子孫なんだけど……」
今後の方向性は見えている。今はその戦略に則って力をつける時期である。アレスはレオンと会話をしながらそのように考えを巡らせていた。
◆
シンとの時間はもっぱら剣術の修練である。
「汝は未だ『武天七剣』の内、二つしか使いこなせていない。まずはそれを使いこなせるようにせねばな」
そう言うとシンは剣を抜いた。
「汝が今使えるのは……?」
「『神剣オルディオス』『聖剣エクスカリバー』の二つだよ」
そう言うと、アレスもまた胸についている剣の柄の形をした首飾りを手に取り右手で握りしめる。
そして左の掌をあてて引き伸ばすと、青白い剣身が現れた。
「『神剣オルディオス』……か。私が最も使い、その名を冠した剣。確かに汝が使うには無難な剣だ。しかし、未だ二本とは……未熟なり。それ以外も使いこなせるようにならないといかぬ」
そう言うと、凄まじい速さでシンは襲いかかる。
「汝に必要なのは強敵との戦いの経験よ!」
「ぐっ!!」
アレスは初撃を受け止たが、その重い一撃で体の芯のバランスが僅かに崩れる。そして、それをシンは見逃さなかった。
「『武天七剣』を使いこなすには、様々な強敵と戦い、己を鍛えるのみ!」
恐ろしいまでに速い攻撃がアレスを襲う。
アレスはそれを必死に受けながらも……少しずつ自分のバランスを崩されている事に気付いていた。しかし分かっていても……今のアレスにはどうすることもできない。
最後は剣をとばされ、体勢を崩して尻餅をついた。
「まだ筋力も足りぬ。技も未熟なり……今後も精進せよ。汝はまだまだ強くなる」
アレスは荒い息をしながら……それを黙って聞くことしかできなかった。
◆
「坊や……なんでそんなに嫌そうな顔をしているのです?」
「いや、だってギルの事だから……いつも碌な事がないし……」
最後はギルバート・ゴライエとの学習の時間である。主に瞑想を主として魔力増幅を行い、その後彼の得意とされる忘却された魔法『無』属性の魔術を習うのだが……
「今日は別の事をします」
「いや、嫌な予感しかしないんだけど……」
「大丈夫です。私が最も得意の事を教えるだけです。」
「えっと……得意な事って……」
「ベッドの中での女性に対するマナー。悦ばせかたですね」
「ありがとうございましたーーー!!」
アレスは脱兎の勢いで逃げ出す。
「馬鹿ですね。ここは貴方の夢の中ですよ。逃げれるわけないじゃないですか」
そう言うとギルバートは詠唱もせず魔法を使った。
「アナザーワールド!」
逃げる僕の地面に空洞ができ、吸い込まれる。
「嫌だーーーーーーーーー」
この魔法は相手を自分の作り上げた別次元の世界に飛ばすものだ。
アレスが飛ばされた先はギルバートが作った、大きなベッドがあり、隠秘で淫らな世界。まるで高級娼家のような部屋である。
「さて、とりあえず私の作り上げた酒池肉林の世界にて、特訓です。あちらにたくさんの女性達がいますので、彼女達を相手に頑張ってきなさい。3Pでも4Pでも10Pでも……貴方の望むままですよ」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ」
アレスは逃げようとする……がどうしようもできない。
そうこう言ってるうちにギルバートは大勢の半裸の女性を引き連れながら迫って来る。
「男として生まれた事を感謝するようなことをたくさん致しましょう。さぁ覚悟を決めて」
こうして夢の中なのに、僕はさらに別の世界へ連れて行かれることとなる………
◆
「ふぁぁぁぁあああ!?」
妙な叫び声をあげて僕は布団から飛び起きる。そして頭を抱えることとなった。
「ギルめ……なんて事を……」
凄かった。とにかく凄かった。自分の夢ではあったが、その内容に思わず頭を抱える。
そして自分の下半身に視線を落とすと……
「でええええぇぇぇぇぇええ!?」
大変な状態になっている事に驚愕をする。
この後処理をシータ達にバレずにどうするか……ベッドの上でしばらくの間悩み悶えるアレスであった……




