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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
序章 〜アレス・シュバルツァーという男〜
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天使 〜シータ昔語り〜

私の名はシータ。どこにでもいる村娘です。

本日は私とアレス様の出会いについて語りたいと思います。

そうあれは10年近い前のことでしょうか……?




私の両親は流行病で他界し、その兄であった村の村長夫妻の元で育てられました。


村長夫妻には子どもがなく、とても大切にしていただきました。貧しいながらも、ささやかに生きることができ、それで私は幸せでした。そう、あの悪魔たちが来るまでは。



ある晩のこと。私たちの村は賊に襲われました。親代わりだった村長夫妻は殺され、村の有力な者、若者たちも見せしめとしてたくさんの人が殺されました。


それを見た村の人々は抵抗をやめ、そして賊に捕まることを選んだのです。


女は慰み者に、そして男や子どもは奴隷として売られることでしょう。


私たちの未来には、もはや暗闇しかないということがわかりました。


「ボス!この女のガキはどうします?」


「この娘は上玉だ!おそらく貴族のオモチャとして高値で売れる!」


賊の首領が私を指差して笑っています。


「こういうガキが好きな物好きがいるんだよ!そういう奴は金に糸目をつけねぇ!」


そう言って下卑た笑いをする山賊達。


私はどうやら貴族のオモチャになるんだ。そうなる前に舌を噛み切ろう。

その時、私はそう覚悟しました。

しかし、実際やろうとしても中々できるものではありません。まだ幼かった頃のこと。恐ろしさのあまり、体の震えが止まりません。ただ時間だけがすぎていってしまいます。そうやってどれぐらい過ぎたのでしょう?


私たちが押し込められている部屋は、この山賊が根城にしている洞穴の最下層にあります。そこに何十人もの女性達と一緒に私はいました。そう、山賊たちに穢される時をその場所で待っていたのです…


その時です。

不意に、その部屋の扉が開きました。そして荒々しい男の声ではない、穏やかで優しい声が扉の向こうからかけられたのです。


「大丈夫?怪我はないかな??」


その声に惹かれて俯いていた顔をあげると、そこには山賊ではなく私よりも少し年下の男の子が立っていました。


その男の子は…私の少し下くらい。とても端整な顔立ちで、純白の服を纏って。そう、私にはその姿が、教会に描かれている天使のように思えました。


「天使…様?」


「びっくりしたよね。山賊達はもう皆退治したよ。貴方達は自由だ。もう、怯える事なんてないんだよ」


初めは、天使様が何を言っているのかまったく分からりませんでした。でも徐々に助かったと言うことが分かると涙が溢れはじめてしまいました。


「わ、私…い、今まで…本当にどうしたらいいか分からなくて…死のうと思っても死ねなくて…」


そう呟くとその人は私のもとに近づいてきて、優しく抱きしめてくれました。


「もう、大丈夫だよ。もう、貴方達を襲っていた連中はいなくなったんだから。でも、怖かったよね。今は…たくさん泣いていいよ」


私はその声を聞いた途端、安堵の気持ちと、家族を殺された悲しみと、賊への憎しみと…様々な感情が押し寄せてきて、私はその人の胸の中で大きな声をあげて泣いていました。

私の周りの人たちも、声をあげて泣いているのが分かりました。皆気持ちはいっしょだったのだと思います。




天使様はお名前をアレス様と仰いました。


アレス様は別の部屋に囚われていた村の男や子供たちも助けて下さり、全員を連れて外へ案内して下さりました。

外に出てみると…そこには兵隊がたくさんいたのです。

私たちはびっくりしてしまいましたが…アレス様はその兵隊さんに気軽に声を掛けていきます。


「なんだ、もう着いちゃったか」


「若……相変わらず無理をされる。着いちゃったじゃありませんわい……このようなこと、やめてもらえませんか?ロマリアに帰ってきたばかりですぞ。我々は朝から大慌てです」


「ごめんごめん。ほら、僕は無事だし、ちゃんと村人も助けたし」


「相変わらず人間離れをしておりますのぅ……若は本当に人間ですか?」


「ひどいなぁ、ローウェン……それでも傅役かい?」


「それを理解してこその傅役です。それよりも…置手紙にあったように馬車を用意しておきました。」


「さすが!ローウェンは話が分かるねぇ」


そうやって明らかにくらいが高そうな兵隊さんとアレス様は笑いながら話をしています。





私の村の人間は領都ロマリアに移住することになりました。もはや村として機能するのが難しいのと、治安のいいところで住む方がこれから先生きていくうえでいいだろうとのことでした。勿論誰一人反対する者はいません。兵隊さんたちが馬車を用意してくれていて、それに乗っていくことになったのです。何から何までアレス様は見ず知らずの私たちにしてくださいました。


でも私は。


「あ、あのっ!!」


勇気を出してアレス様に話しかけました。


「あの…下働きならなんでもします。炊事も洗濯もなんでもできます。だから…アレス様のお側で働くことはできないでしょうか??命を助けてもらった恩返しがしたいんです!!」


ダメもとではあったけど精いっぱいお願いしてみました。


私には家族がもういません。どこにもあてがない身です。

なにより…これだけのことをしてもらって、恩返しをしないなんて…そんな恩知らずなことはできないと思ったのです。なくなった父母からも必ず恩は返すものと言われていましたし。


アレス様は少し困った顔をして考えていましたが、


「ロマリアで身の回りのことをやってくれる人を探さないといけなかったよね。いいよ。一緒に来て。」


そう言って私に笑いかけてくださいました。


「一番後ろの馬車に荷物と一緒にいてもらう形だけどいいかな?普通の馬車に比べてけっこう速い速度で進むから気を付けてね」


「は、はいっ!! ありがとうございます!!」


きっとアレス様はすべてわかって言って下さったのでしょう。私が天涯孤独になってしまったことも。そして私の気持ちも。

なんの縁なのかは分かりませんがこうして私はアレス様付きのメイドとしてお側に仕えることとなったのです。


あれから10年近く……今、こうしてアレス様のお側で働く事ができ、本当に幸せです。

先日、私はお屋敷を出入りされる方からたくさんの縁談をいただきました。また私なんかに想いを寄せて下さい方もいるらしく、本当にありがたいのですが……


私の想いは、全てアレス様にあります。あの方のため……私は髪の毛一本、血の一滴まで捧げたいと思っております。



シータはその後も、アレス専属の側仕えとして身の回りの世話をすることとなる。

そんな彼女もまた、歴史書には名が刻まれている。


後のアレスの妃の一人、シータ・シュバルツァー妃。


しかし妃となった後も、変わらずアレスの身の回りの世話を欠かさず行い、アレスもまた彼女の入れたお茶しか口にしなかったということである。


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