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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
序章 〜アレス・シュバルツァーという男〜
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悪魔 〜とある山賊の話〜

これはアレスとシータの出会いの話です。

何故こうなったのだろう??


山賊の首領は自分の現状を理解できないまま立ちすくんでいた。


周りには多くの部下たちの首、首、首…




村を落とした所まではうまくいっていた。

夜を狙い、奇襲をかけた。村長と抵抗する者たちを殺したら、村人どもはすぐに大人しくなった。


あとは目ぼしいものを奪い、女は犯し、他は奴隷として売り飛ばせばそれでおしまいだった。


酒を飲み、いい気分でこれから女たちを犯し楽しもうと思っていた…


そう、あの白い悪魔が現れるまでは。




「親方っ!あ、悪魔が。白い悪魔が現れました!!」


「あぁ!?何をわけのわからないことを!?」


せっかくいい気持ちで酔っているのに、わけのわからないことを言いやがって。

不機嫌な顔で部下の方に目を向けたその時。


その報告にきた、その部下の首が跳んだ。


一瞬の静寂。そして、その場は大騒ぎとなった。


「あぁ?なんだ?こりゃ!?」



俺は慌てて部下の首を見に行く。よく見ると部下の顔は恐怖でひきつっている。そして、何か鋭利な刃物で切られた跡が見られた。


前に視線を戻すと死んだ部下の後ろから剣を持った白装束の小さな男がゆっくりと歩いてくるのが見えた。


よく見ればまだガキだ。しかしその体から滲み出るのは圧倒的強者の威圧。男の顔は幼く整った顔立ち、だがその姿にはある種の凄みがあった。そう、まるで古代龍(エンシェントドラゴン)にでもあったような…それを見た俺たちは雷にうたれたかの様に動けず、奴の姿に釘付けになった。


「これで全員かな??ここの山賊は。」


よく見るとその頬や腕など、服がない所は返り血で真っ赤になっている。そして不思議なことに奴の白い服…それには一切返り血がついていない。それがさらに恐怖を煽る。


「さて、僕も今日はちょっと疲れてるんだ。返り血もべっとりついて気分悪いし。白帝はわがままだから自分にはかからないようにするし…だからとっとと終わらせよう。まぁ、楽に殺すつもりはあまりないけど、苦しいのは少しだから。それぐらいは償いとしていいと思うんだ」


「おまっ…いったい…何を…」


「あー、喋る権利も認めないよ。僕が尋ねない限りはね」


そう言うと、そのガキは一度軽く剣を振るった。その瞬間


「ぎゃあぁ!」


「ぎぃぃい!!」


多くの部下の腕や足が跳ぶ。そして、それに合わせて部下たちの悲鳴が響き渡った。


「苦しいかい?でも君達が潰した村の人もそうだったんだろうね」


そう言うとそのガキは今度は有無を言わさず次々と剣を振るった。

そこからは阿鼻叫喚、一方的な虐殺だった。

腰を抜かしたものも、逃げ惑うものも、挑むものも、命乞いをするものも。全て平等に命を刈り取られていった。

不思議な光景だった。奴が剣を振るたびにあたってもいないのに首が飛んでいく。




いつの間にか気がついたら俺一人になっていた。そして奴はこちらに近づいてきた。


「君がここの首領だね。さぁ。どうやって死にたいか選んでいいよ?一つは…」


「ゆ、許してくれ!!なんとか命だけは」


プライドもあったものではない。山賊の首領であるこの俺が……ガキに跪くのは滑稽な姿であろう。しかしそんな事を言っている場合ではないのだ。

だが俺の願いは通じない。

そう言った瞬間、俺の腕は飛んでいったのだ。


「ぎゃあああっ!!」


「まだ話してる途中だよ。君が話すことは認めない。一つはこのまま首を飛ばす。二つ目は魔法で燃やしつくす。三つ目は…」


「やだあぁぁぁぁぁぁぁ!死にたくないぃぃぃぃぃぃぃい!!」


俺の中で何かが壊れる。


恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い


そう、圧倒的な


「死の恐怖」


半狂乱の様子の俺を見て奴はため息を着いた。


「あぁ、意外と簡単に壊れちゃったね。じゃあ、君は新しい魔法の実験に使わせてもらうよ」


そう呟くと奴は俺にこう言った。


「この魔法は永遠に闇の中をさまよい続けるという魔法さ。初めて試すのでどうなるかは分からないけどね……うまくいけば死ぬことなく、未来永劫闇の中なんだけど…ま、ダメならあの世行きかな?」




ふざけるな。


そう思ったが言葉に出ない。


まだやりたりないことが沢山ある。もっと殺したい、もっと奪いたい、もっと犯したい。俺はそのために山賊になり暴れていたのに。

一から働くなんて糞食らえだ。一度覚えた味は忘れることができない。これからももっと村や街を襲って楽しむつもりだったのに…


「悪魔め…」


そう呟くと奴の魔法が俺の身体を包む。そして俺の意識は暗闇に吸い込まれていった。





アレスは闇に消えた賊の首領の一言を聞いて満足そうに笑った。


「賊にとっての悪魔…ね。いいじゃないか。最高の褒め言葉だよ」


そう言って笑うと、アレスは懐から手拭いを出し、返り血を拭くのだった。

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