自室にて
アレスが龍舎から戻る頃には、外は真っ暗になっていた。
「はぁ。思ったより時間がかかってしまった……またシータに怒られる……」
シータは、数年前に専属の召使いとして働いてもらっているメイドである。アレスより年は二つほど上。身寄りがない彼女を引き受けた事から、仕えてもらっている。
誰に対しても親切で愛想がよい。よく気がつくし、仕事は非常に良くできる。その上器量良しときているため、家中からも人気らしい。また、どうやら随分と縁談の申し入れも多いそうだ。
しかしどんな縁談もシータは断っていると聞く。
部屋に戻ると
「今日は随分と遅いお帰りですね?」
と背後から声をかけられた。
「あぁ、シータ……ただいま……」
いや、顔、顔が怖いよ、シータ。
そっとアレスは上目遣いでシータの様子を伺う。
アレスの目から見てもシータは非常に可愛いと思う。そう、綺麗と言うより可愛いと言うのが相応しい、そう思っている。
首のあたりで短く切り揃えた艶やかな黒髪。その黒髪と同じ色をした大きな瞳。そして陶磁器のようにきめ細かく、透き通った白い肌。そして何より服の上からも主張してやまない大きな胸の膨らみ……
その上しっかりと主人のために仕事をこなす姿勢。
縁談が数多く舞い込むのも納得ではある。
しかし、今……その可愛らしい顔に笑顔を浮かべつつ……
(目が笑っていない……!!)
「今何か失礼な事を考えていませんでした?」
「いえ!何も!!」
思わず返事をしてしまった……
女の勘に冷や汗をかくアレス。
「まぁいいです。お帰りなさいませ。今日はどちらへ?」
「あぁ、今日はね……」
今日の出来事を簡単に話そうと口を開いたアレス。しかし、それに被せるようにシータは話し始めた。
「シャロン様の償いのため、何をすれば良いか分からず、シオン様に知恵を借りたのち、アルノルト様の龍牧場の龍を使って空の旅を楽しむ予約をした……そんなところですか?」
いやいやいや。なんで全部知ってるのさ?
茫然とシータを見つめるアレス。しかし、シータは少し悲しそうな表情を浮かべる。
「ズルいです」
「はっ??」
「シャロン様ばかりズルいです。私もアレス様に何かご褒美をいただきたいです」
「ご褒美って……いや、シータも結構色々と……」
そう、連れて行っているのだ。アレスの趣味である、食事屋巡りも連れて行くし、祭りのような行事も一緒に行くことが多い……ズルいと言われるような事はないはずだが……
「私も空の旅を所望します!!」
「え゛っ!?いやそれは……」
アレスの本音としては、シータをシャロンに会わせたくはない……また、あの冷たい戦いが始まる……の割にはアレスを追い込む際には完璧な連携を見せ、また普段は仲が良いのは不思議でならない……
「日々お仕えしている私にもご褒美があっても良いのではありませんか?よろしいですね?」
「は……はい……」
思わず頷くとシータは満面の笑みで微笑んだ。
「では……失礼しました」
ぴょこりと頭を下げ、去って行くシータを眺めながら……アレスは今後の事を考えて…頭を抱えるのであった。




