龍舎にて
シオンの助言を聞いた後、アレスはその足でシュバルツァー家の龍牧場に向かった。
龍牧場ができたのはここ数年のこと。
きっかけは皆で談笑していた際に、シオンの
「龍の部隊がいたら、戦場が大きくかわりそうですねぇ。」
という一言だった。本人は全く本気にしていたわけではなく、何気ない一言で言ったつもりだった。他の者達も、そんな事できるわけない、と笑っていた。
しかし、この発言に乗り気になったのが、シグルドだ。
「龍の部隊……胸躍るではないか。やる価値はある」
古代龍の申し子であるシグルドがいけると言うなら本当にできるのではないだろうか。
それゆえ、アレスは全てをシグルドに任せることにしたのだった。
シグルドはまず親友にして腹心のアルノルトとともに龍牧場を作り、龍をかき集め、飼育し、いずれは騎龍として使ういう計画を立てた。
集めるまでは簡単だった。
古代龍の「威圧」を使い、大人しくなったところを次々と捕獲した。主に狙ったのは火龍や翼竜だった。しかし、いずれも気性が荒く、大暴れをし、小屋が壊されたり、お互い攻撃しあったりするなどの問題も多数生まれた。
しかし、それでもシグルドは諦めず続けた。アルノルトをはじめ、元剣闘士だった彼の部下達からは何度も苦情と悲鳴が聞こえたが……シグルドは一切それを無視した。
「俺が乗れるなら、他の者達も乗れるはず」
それがシグルドの理屈だった。
しかしアルノルト達からしたら
「龍に育てられた奴と一般人を一緒にするな」
と言いたかった。しかしシグルドは諦める様子はなく、渋々とアルノルト達は付き合う。
そして……その努力の甲斐もあってどうやら数匹、背中に乗れるまでになったようである。
「なぜ俺は剣を握らず農夫の真似をして牧場の手入れをしているのだろう?」
と。元剣闘士であったアルノルトは常々零していたが。
◆
アレスは龍舎につくと、早速アルノルトに相談を持ちかけた。
「やぁアルノルト。調子はどうだい?」
「おや?若。まぁ、今の所龍達は元気に……」
遠くの方から何かが壊れる音がする。
「……元気すぎるぐらいですね……はぁ」
「そ、そっか。それは良かった。で。本題なんだけどさ、僕や他の人たちが乗れそうな龍はいるかな?」
「まぁ……いますけど、どうするおつもりですか?」
「あぁ……シャロンと一緒に空を飛んでみたいなぁと……」
「へっ??まさか若、デートで龍を使うつもりですか?」
不思議そうな顔で質問を返すアルノルト。
「いや、そんなつもりはないよ。ただ、ほら、あの、いつもの」
「あぁ、痴話喧嘩の償いですか。」
そう言うと、アルノルトは笑って、ある2頭の龍を指差した。
「あの火龍と翼竜は比較的大人しいので乗っても大丈夫だと思いますよ。」
そいった先を眺めると、赤い火龍と青い翼竜が大人しく並んでいた。
火龍は炎の龍だ。力強い特性と火炎ブレスが特徴の魔獣である。現れれば、一個師団をあてないと倒せないと言われるほど凶悪な生き物だ。
翼竜は飛ぶことに特化したドラゴンである。空から強襲し、強力な鉤爪で襲い掛かかる。こちらも討伐には軍隊が必要になるだろう。
「いや、翼竜はともかく、まさかあの火龍が大人しいなんてねぇ」
「いやはや、ここまでやるのに苦労しましたよ。でも、他のドラゴンたちも少しずつですが慣れてきてます。想像以上に早くドラゴンの部隊ができるかもしれませんよ?」
そういってアルノルトはアレスに笑いかける。
「これならご機嫌も直ると思いますよ?是非お時間がある時にでも、シャロン様を連れてきてください」
◆
アルノルト・ノイアー、彼は以前は帝都の剣闘士として名を馳せた男である。そしてシグルドと共に剣闘奴隷たちを指揮して反乱を起こし、帝都脱出劇をしたことで有名である。
帝都から脱出した彼が剣闘奴隷たちとたどり着いたのは、シュバルツァー領だった。ここで彼は真の自由を得ることとなった。
その後、盟友シグルドの配下として竜騎士団を設立。その副団長として愛騎の火龍に跨って数多の戦場で活躍することとなる。
また彼は『六天将』に次ぐ『十二勇将』の一人に数えられることとなる。




