東征14 ドルマディア解放 その後
思ったより遅れてしまいました……
今年も英英を,よろしくお願いします。
「急ぎ支援物資を送れ」
「まだ、救出できていない者もいる。その様な者がいない様、探索を怠るな」
「辺境伯領から文官を。とにかく荒廃したこの国を回復させる事を最優先させろ」
アレスの号令の元、すぐさまドルマディア……いや旧サマンサ王国の復興は始まった。
魔獣が数年治めていたという事実。その爪痕は大きく、本来解放された事で歓声をあげて喜ぶはずの民衆も皆生気のない表情をしていた。
あまりにも圧政に慣れてしまい。そしてその精神を一様に壊された者たち。
彼らのケアを最優先させ、全ての民衆が前向きに生きていける様にすること。
アレスは彼らを見てそう決意する。
そこからのアレスの指示は迅速であった。
まずは名前の変更。ドルマディア首都ドルマーダは、ドルマゲス討伐後、すぐさま名称をサルマールと変更。旧サマンサ王国の王都の名前に戻した。
復旧と同時にアレスはサルマール近くにあったドルマゲスが生まれた魔獣の森の魔獣達を『破軍』を使って徹底的に壊滅させた。
彼が今回厳命したのはこの地におけるドルマゲスの影響を完全に排除することである。
ドルマゲスの事を二度と思い出さないように。
この地に再び平穏と安定を。
それがアレスの願いであった。
それと同時に積極的な支援の体制……衣食住の保証をしっかり行うこと、治安を徹底的に維持していくこと、この荒廃した国に『文化を根付かせる』こと……
旧サマンサ王国は、新しい未来に向け、ゆっくりと舵をきりはじめたのであった。
◆
「のんびりしてもいられないんだよね。とりあえずある程度の事を仕上げたら、僕はバイゼルド方面に向かう」
そうアレスは近くの者たちに溢す。
バイゼルド方面はシグルドとダリウスが向かっている。戦況的にも順調であり、着実に侵略された土地を解放していると聞いている。
恐らく、今から迎えばちょうどバイゼルド首都に迫れると考えている。
「早急にバイゼルドを落とし、この東大陸の戦乱を終わらせる。そして早急に荒廃した大陸を復興させることに尽力しなければならない……そのためには1日も早く東大陸全ての国を解放することが大事になってくる。1日遅れれば、その分復興に時間がかかるだろう。だから今は時間が惜しい……」
そうアレスは呟くと窓の外から遠くを眺めるのであった。
◆
荒廃しきったサマンサ王国領の復旧と同時にアレスが重要視した事。
それは、他の解放地を含む東大陸西部をまとめるための体制作りであった。
ドルマディアの圧政から解放したとはいえ、その地を空白地にするわけにはいかない。
事実指導者不在の国も幾つか存在する。
その場合、賊などが街を落として『国』を自認したり、またいくつかの国が野心を持ち、第二のドルマディアたらんとする可能性もある。
そのためアレスはドルマディアを落とした後、すぐに各諸国の指導者を呼び寄せた。
王族が見つからず、未だ指導者が決まっていない国に関しては、現在代理で政務をとっている白軍の面々が参加した。
この話し合いで、とりあえず仮としながらも今後のことについてアレスは決めていった。
サマンサ王族はドルマゲスによってすでに絶えているため、イストレアの直轄地となった。また、他の王族不在の地に関しても、いずれもイストレア直轄地とする事に決定した。
他の国々に関してはイストレアを盟主とし、その所属国とする代わり、イストレアからその復興費用を貰うこととした。
これに関しては反対意見も当然生まれた。
イストレアは何もしていない、なぜにその属国とならねばならないのか?と。
アレスに従うのは是としながらも、イストレアに従うのはあまり納得できない様であった。
そんな代表者達に対してアレスは笑って答えた。
「あくまでも決まり事は仮の事だ。今は誰かが盟主となりリーダーシップを持って国をまとめなければ、復興への道は険しい。となると、国力として考えれば盟主はイストレアがふさわしいだろう」
含みのある言い方ではあったが、この荒廃した土地を復旧させるほど各国も財力があるわけではない。辺境伯領やイストレアの経済力を当てにするしかないのである。
そしてアレスもまた別の考えを持っている。
各国には『仮に』と言っている。しかし、このイストレア中心の制度を続けていたら?
自然と各国はイストレア依存の状況になるだろう。
即ち、東大陸西部はイストレアの手に落ちるということだ。
そしてそのイストレアは、密約とはいえ、現在辺境伯領に絶対的な忠誠を誓い属している。
彼の国の摂政であるイレーヌとは個人的にも深い関係にあり、即ちイストレアとの関係は政治的にも個人的にも蜜月である。
イストレアが大陸西部を抑えるというのはアレスが東大陸の西側を抑えたのと同等なのである。
「そして僕はその東側も手にしたいと考えている」
そう言って彼はそっと手を伸ばす。
まだ、この事は『密約』に過ぎない。だが、この東大陸全てを手に入れ、そして復興を成し遂げ、力を得た時。
それを発表した時に誰が自分に逆らえようか。
アレスはそんな事を考えつつ、拳を握ると静かな笑みを浮かべるのであった。
◆
その様な忙しない日々の中、レグルスはアレスに呼ばれた。
レグルスはレグルスでここ数日、真獣人の今後について主だった者たちと話し合っていた。
ドルマディアという脅威が消えた今、本来なら真獣人の里に帰っても誰も異論はないだろう。
だが、ここに来て真獣人の若者達から辺境伯軍に残りたいという要望が多数寄せられていたのである。
彼らにとって、辺境伯軍は衝撃的な存在であった。
本来、人族とは差別が激しい種族である。教会の教えもそれに拍車をかけている。
真獣人達もそれを知っており、極力人族との関わりは絶っている。
しかし……ここは違う。
アレス・シュバルツァー辺境伯の直属『破軍』を筆頭に、一般兵に至るまで様々な種族が溢れている。
人族をはじめ、獣人、エルフ、ドワーフ、小人族と言った亜人達。そしてダークエルフやコボルト、リザードマンと言った魔族まで。
その様な人族以外のもの達でも、大隊長を務めており、ここでは生まれを問わず能力や日頃の努力が認められる場所である……という事を知らされた時は大いに驚いたものである。
これから先、ずっとあの片田舎でひっそりと暮らさなくてはならない……と燻る思いを持っていた若者達からしたら。そしてそんな思いと共に、希望と野心を持て余していた若き者達からしたら……この場所は非常に魅力的なものであったのである。
そんな相談をアレスに持ちかけた時……
「来てくれれば勿論ありがたい。君たちの能力は非常に高いからね。歓待するよ」
そう言ってアレスは笑った。
「でも……君たちだって色々な意見があるだろう。それを確認してからにしてほしい。お互い後悔のない様に……ね」
そんなアレスの言葉を反芻させながら……レグルスは執務室の扉を叩いたのであった。
◆
「忙しいところ悪かったね」
執務室に入ってから、キョロキョロしていると、書類の山から声をかけられた。
そこに目を向けると山の様な書類を捌いているアレスが手を挙げてこちらを見つめていた。
「いやぁ、やる事が多すぎて、中々時間が取れなかったよ。申し訳ない」
そう言うとアレスは立ち上がり、大きく伸びをする。
「こんな所で話すのもなんだし、僕も気分転換がしたいから……ちょっと外にでも出ようか?」
◆
アレスとレグルスが連れ立って向かったのは、このサルマールの都が一望できる王城のバルコニーであった。
そこから2人は都を眺める。その景色を見ながらレグルスはポツリと呟いた。
「この様な景色……我は見た事がない」
この様な景色……とは人族と亜人が笑い合う姿であろう。
中央大陸から離れた東大陸においても人種間の偏見は存在する。
人族は亜人を見下し。
獣人は人族を嫌悪し。
耳長族やドワーフは人族や獣人を蔑む。
真獣人もその様な差別を嫌うからこそ、人里離れたところに居を構えているのである。
「貴公は……何を目指しておるのだ?」
レグルスはアレスに問うた。
暫しの沈黙。アレスの視線はずっと城下の民衆に向けられている。
そして、フッと笑うとゆっくりとレグルスに向き直った。
「平らな世界」
「……平ら?」
「人族、獣人、ドワーフ、耳長族、魔族……大陸人、異民族……全て関係ない。法の元に全ての生き物が平等な世界。そんな世界を僕は夢見ている」
そういうとアレスはレグルスに笑いかけた。
「馬鹿だと思うかい?」
「……あぁ、馬鹿だ。そんなもの、出来るはずはない」
レグルスもまたそういうとニヤリと笑った。
「だが……嫌いじゃないさ。そういう無茶苦茶な夢を求めるのは」
そういうと彼は片膝をつき、自ら佩いていた剣をそっとアレスに捧げた。
それは臣従の証。それは己が剣になる誓い。
「我、レグルス・バルバトス。真獣人を代表してここに誓う。我ら真獣人、主の夢を共に見んと欲す。我が剣を受け取ってくれたもうか?」
真っ直ぐに捧げられたレグルスの大剣。
そしてアレスもまた、それに応える様にその捧げられた剣の柄を握り、口を開いた。
「真獣人の総意、しかと受け取った。この捧げられた剣に誓い、必ずかなえてみせよう。『平らな世界』を」
◆
この一幕は英雄王を語る劇の中でも有名な一幕となっている。
『英雄王』アレス・シュバルツァーと『獣王の再来』と言われた真獣人の英雄レグルス・バルバトス。その最初の一幕として。
この日よりレグルスと共に全ての真獣人達がアレスの配下として加わる事となった。
真獣人達はアレスがレグルスに語った『平らな世界』を目指し、その力を遺憾なく発揮していく。彼らは主に獣人をまとめる立場として、獣人をも遥かに超える力を持って辺境伯軍に大きな力を与える事となる。
そして……真獣人の長である
『天獣将』レグルス・バルバトス。
シグルドやダリウス、そしてシュウにも匹敵するその武勇は辺境伯軍でも随一であり、『六天将』の1人として、今後アレス、及び『アレスティア』を支える人物となっていくのである。
今年はしっかり更新できる様に頑張ります。
ちなみに『魔王様の作り方』
https://ncode.syosetu.com/n0931hf/
は、今日の11時より、また随時更新していきます。よろしくお願いします!!




