東征 その8 レグルス・バルハルト
まさかのゲリラ投稿……
いきなり休んだり、いきなり投稿したりで本当にごめんなさい。
レグルスは魔獣の軍団を率いて、カナン王国王都サンベールに向かっていた。
彼は時折後ろに従う魔獣達を見て……そして小さく溜息をつく。
「……まさか、我がこのような下等生物を率いる事になろうとは」
「おっと。聞き捨てなりませんねぇ」
レグルスの呟きを耳聡く聴いた背後の魔獣人がそう咎める。
「貴方は所詮、人形に過ぎません。余計な事を言えば全て我が王にお伝えしますが?」
「……すまぬ。何もなかったことにしてくれ」
「……キシャシャッ。まぁ、後で貰うものを貰えたなら許してあげましょう」
この副官であるコウモリ顔の男は事あるごとに賄賂(食料)を迫ってくる。
レグルスは自分の境遇を振り返り……虚無感に苛まれるのであった。
◆
レグルスが魔獣を率いて、ドルマゲスの元を経ってから一週間ほどになろうとしている。
彼は少しずつではあるが魔獣達を率いる術を理解し始めていた。
魔獣を従える術……それはただ一つ。
彼らの本能を利用ことである。
(魔獣は本能で従う。すなわち己よりも強ければ服従し、弱ければ一切従う事はない。それを示し続ければいいだけだ)
レグルスは魔獣の群れに対し、強烈な魔力を見せつける事で、一気に服従させる事に成功。バラバラだった魔獣の群れをまとめあげ、一軍として、このサンベールの北東に広がる荒野まで軍を進める事ができたのである。
ただ、魔獣を率いる事は簡単ではない。
この道中何もなかったわけではないのだ。
魔獣ゆえに彼らに道徳観念はない。途中の村々に立ち寄ったならば、すぐ様に略奪と虐殺をしようとする。
レグルスは幾度か止めようとした。だが、それは一向に止まらず、彼らの本能には勝てないことを理解することになった。
そのためレグルスは村などには立ち寄らず強行軍で一気にサンベールまで軍を進めたのである。
それだけではない。
この横にいるコウモリ顔の魔獣人。副官として随行している男だが、この男が逐一、指図をしてくる。
やれ、村に入り略奪させろ、やれ捕虜になった村人を食料として寄越せ……等……
ドルマゲスの勅命、というのを傘に言いたい放題レグルスに要求するのである。
彼の要求に対し、聞いていないふりをしながら、レグルスは軍を進めてきたのであった。
こうして、不満と虚無感、そして疲労感に苛まれながらも、彼はサンベールの城塞が見える所に陣を展開するに至ったのであった。
◆
サンベール城塞前にて。
アレス率いる第一軍とレグルスの魔獣は多少の小競り合いをしながら二週間ほど対峙していた。
レグルスは今、城塞前の荒地に魔獣達を駐屯させている。
「手ぬるい!なぜ総攻撃をかけないのですか!」
副官のコウモリ男が唾を飛ばしながらそう迫る。
「食糧も少なく、魔獣達も我慢の限界に達しています。とっととあの城を襲い、食糧を食わせないと、魔獣達が暴動を……」
正論の如く、レグルスに語るが、この男の頭もまた、人間を食う事でいっぱいのようだ。
レグルスは再び溜息をつく。
副官とは聞こえがいいが、自分にとってはただの足手まといでしかない。
心でため息をつきながらレグルスの視線はサンベール城塞に向かっていた。
見事なまでの魔法結界。彼のもつ『魔眼』はその綿密に練り込まれた結界を読み取っていた。あの結界ではおそらく遠距離からの魔法は弾かれるであろう。
そして、相手の軍の精強さ。
飢えに耐えかねた魔獣達が幾度か彼らにちょっかいをかけ……そしていずれも殲滅されている。
騎兵達が圧倒的なスピードで押し寄せ踏み潰す。生き延びた者たちもその後からくる軽装の歩兵達に虱潰しにされていく。
今まで数に勝るドルマディア軍を圧倒してきたという強さ。それをまざまざと感じ、レグルスは深く溜息をつくのであった。
「ええい!それならば私に軍を指揮させなさい。今すぐ奴らの息の根を……」
コウモリ男の言葉を聞き流しながらレグルスは考える。
普通に当たれば全滅は必至だ。奴らの強さは異常である。
別に魔獣達が死ぬのは惜しいとは思わない。だが、戦に負けることは己が命を散らすことでもある。囚われたあの真獣人の子のためにもそれは避けたいところだ。
策を考えなければ……そうやって数日かけて考えていたのだが……
「私が先頭に立ち、彼奴らを殲滅してきましょう。兵を私に貸しなさいっ!!」
捲し立てるコウモリ男。この光景もここ数日繰り返されたものだ。
いつもなら受け流すレグルスであるがこの日は違った。
戦場に馬蹄の音が響き渡ったからである。
「何がおきた?」
レグルスは己が目で戦場を確かめ……そして目を見張る。
今まで立て籠もっていたイストレア軍が、城壁の外に出てきたのだ。
(罠か?)
あれだけ堅固な城塞に篭っていれば、この魔獣の軍団の猛攻を防ぐのは容易であろう。そして、相手が飢えることを待てば退けることは容易いはず。
しかし、敵将はそれを捨て、城塞前の平原にて軍を展開している。
(それとも勝負をかけるのか?)
確かに城塞に籠る限り、退ける事は可能かもしれないが、相手を殲滅することはできない。それゆえに、敵は退いても立て直し再び攻め込んでくる。
だが、現状圧倒的な兵力差。一旦退けることは戦術上有効なはずだ。
その利を捨て、この平原にて陣を展開するという無謀さ……
相手の思惑が読めず、レグルスは大いに戸惑っていた。しかし……
(いや、奴らが城塞を捨てたのならば、ここが好機かもしれない……)
そう意を決すると彼は横にいた副官であるコウモリ男の方に顔を向けるのであった。
◆
アレスはサンベール城塞にて『龍の目』の報告に耳を傾けていた。
「どうやら魔獣達が動き出したようだ」
アレスの言葉に隣にいたシュウも答える。
「餌に釣られましたか?」
「まぁ、普通に考えればそれが当たり前の戦術だろうね。だってこれだけの兵力差なんだから」
城塞を見渡せる丘にいる魔獣の数は数え切れないほどだ。確かに普通の兵力であるなら……この差を覆す事はできないであろう。飲み込まれて終わりだ。
そう。
『普通の兵力であったら』
だが。そして、アレスは言葉を続ける。
「魔獣の軍団の弱点は……『将』にある。つまり『将』さえ、なんとかできれば奴らは一気に瓦解するわけだ」
そう言うと不敵な笑みを見せ、立ち上がった。
そして彼は、窓から外の様子を眺める。
「ゼッカもどうやら間に合いそうだ。そろそろ蹴りをつける頃合いだな。さぁ、僕らも出ようか」
そう言ってアレスはシュウにニヤリと不敵な笑みを見せるのであった。
◆
魔獣の軍団は全軍をあげて平原に展開する敵軍に襲い掛かった。それに対し、アレスの軍団は生き物の如く変化をしていった。
重装騎兵の黒軍と軽装騎兵の赤軍は左右に分かれ、ドルマディア軍の側面を削り始めた。
そして前方中央には歩兵と、それを支えるために配置された一騎当千の白軍達。彼らが魔獣軍の猛攻を押し返していく。
「おう!前も後ろも右も左も敵ばかりだ。目をつぶっても相手を潰せるってもんだ」
「いいかっ!アレス様は一刻耐えろと言った。あの人が今まで嘘をついた事がないだろう!?耐えろ。こんなところで命を落とすな!俺たちがついている!!」
辺境伯領軍最強の軍団『破軍』。その中でも最強の呼び声高い『白軍』
この圧倒的な兵力差においても笑いながら蹴散らす彼らがいる事がなんと心強い事か。そして彼らを間近に見ることで、一般の兵達もまた自身が英雄になったような錯覚を覚えながら戦っている。その士気は天にも登るほどに高くなっていた。
後方の青軍は補助魔法や遠距離魔法を飛ばして、そんな彼らを援護している。
魔獣の軍勢は完全に足止めされ、そしてその数を着実に減らしていった。
「むぅ……」
丘の上からレグルスはその様子を眺め……そして思わず感嘆の声をあげた。
彼の目からは一方的に虐殺されていく魔獣の姿が見える
「強い……強すぎる……だが……」
確かに強い。現に己が副官であったコウモリ男はあっという間に黒い騎兵に飲み込まれ、その命を散らしている。
「この勢いとて後一刻持つまい。兵力差は圧倒的。持久戦に持ち込めば我らの勝ちだ」
「そう、一刻過ぎたらね」
独り言に返事が返ってきたことにレグルスはギョっとして振り返った。
見ればそこには2人……見慣れる人族の戦士が立っている。
驚くレグルスを対し、戦士の1人が言葉を続けた。
「魔獣の軍の弱点は将にあり。その一刻の間に君を倒す事ができたら、魔獣の軍団は統率を失い瓦解する」
そう相手が言った時……レグルスは目の前の男に嵌められた事を理解した。
確かにそうだ。目の前の男は着実に魔獣の軍団の弱点を理解し、そしてそれを狙ってきたのだろう。
そして……この魔獣の群れを掻い潜ってここまで到達できたのだ。相当の戦士と言っていい。
つまり……この2人は自分の命を狙いにきた者なのだろう。
だが。
「ふふふふふ」
レグルスは自嘲的に笑う。
「なるほど、どうやらお主らの策に笑は嵌められたらしい。だが」
そう言うと、レグルスはギラリと2人の方に目を向けて己が大剣を抜き放ち、構えをとる。
レグルスの視線は2人の戦士を射抜く。
1人は異国風の鎧姿に身を固めた戦士。そしてもう1人は白い戦装束を纏った若い戦士だ。
レグルスからすれば2人とも小柄な人族。だが、彼の魔眼はその本来の姿を映し出している。
その小さな身体から溢れ出る武威は真獣人最強と謳われるレグルスをしても冷や汗をかかせるほどである。
この2人を相手に勝てるか……と問われれば、正直「否」と答えるしかないだろう。だが、レグルスはかつてないほどに己が昂っていることを理解していた。
「我が君。某が」
そう言うと、異国風の男……シュウは静かに前に進み出て、そして腰に履いている刀を抜き放った。
「ほう……2人がかりではない……と?」
「我は武人。そのような卑劣な事は望まぬ」
そう言うとシュウの身体が白銀色に輝く。
「我こそは八洲の戦士、シュウ。いざ尋常に勝負っ!!」
そう、言うとシュウは尋常ならざる速さでレグルスに襲い掛かるのだった。
すみませんでした。
仕事が激務すぎてサボってました。
じゃあ投稿したからひと段落ついたのか……と言われたらそうではなく……生存報告です汗
この激務から現実逃避するために、作品は書いておりました。この先のストックもあるのですが、どうにも話の展開に納得がいかず、書いたら消したりの繰り返しです……
納得いったら一気に連続投稿をします。ご容赦お願いします。
最後になりますがコメントを書いてくださった方。こんな作者でも見捨てず応援してくださった方、ありがとうございます!!




