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豚王と簒奪王

ホルス王国


この国はイストレアの北に位置し、東方諸国でも、新興国として知られている。三代前のマクシミリアン・ホルス初代国王が流民たちを集めて独立を宣言したのが、その起こりである。


東方諸国、その西側は東側と比べると争いが少なく、軍事力に力を入れる事は少ないと言われていた。しかしホルス王国は流民たちの集まりからか、『民を守る』という意識が強く、その建国以来計画的に軍備を整えていた。


現在の国王はマクシミリアン2世である。彼は南のイストレアとは同盟関係を結ぶ。立場的にはイストレアの下につくが、その代わりに莫大な『利』を手に入れる事に成功し、国として大きく発展を遂げさせた名君である。


しかしそんなホルス王国であったが……現在その命運は風前の灯であった。




ホルス王国の王都「セーラン」




東方諸国西側においてイストレアに次ぐ豊かな都と称されたこの街の周りには現在無数の魔獣が控えており、いつ飲み込まれるのかは時間の問題となっていたのだ。


新興国ドルマディアの魔獣を中心とした軍勢が押し寄せたのは僅か一年前ほど。一年の間にドルマディアはホルス国内を蹂躙し、その王都に攻め上がったのである。


当初は対抗していたホルス軍ではあったが、その数の多さに数を減らし、現在は王都を守る守備兵のみとなっていた。


そして絶え間なく続く魔獣の襲来にホルス王国の軍勢もまた限界を迎えようとしていたのであった。




ドルマディアの軍勢はゴブリンやオーク、そしてオーガと言った人型魔獣がその主力となっている。


そしてその上位種が彼らの部隊長であり、その上の将軍ともなると魔人、そして妖魔貴族までもがいるほどである。


そして、現在ドルマディアの将達は一様に彼らの主人の元に集められていた。


彼らが主人と認め、仕えているドルマディアの王……その名をドルマゲスという。


多くの妖魔貴族や魔人、そして上位魔獣が傅く奥にその男はいた。


顔は非常に醜悪である。浅黒い肌をもつ、醜い豚の顔だ。上半身は肌蹴ているが、そこから見える身体は異常なまでに筋肉が発達している。


そう、彼は豚の容姿をもつ人型魔獣オークなのだ。だが、一般的なオークと異なり、その能力は際立っていた。


知能に優れ、軍勢を動かすのに長けていた。そして個人の武勇と魔力は魔族の最高峰である妖魔貴族をも圧倒するほどだったのである。


そう、彼はオークの最高位『オークキング』を凌駕した、数百年に一度現れるか現れないかと言われる『カイザーオーク』であったのだ。


ドルマゲスはその能力の高さを生かし、魔獣達を掌握。そしてあっという間に軍勢を組織する。


彼が稀有な魔族であったこと……それは魔族にはあまり考えつかない『国』を持とうと考えたところでよくわかる。


彼は国を作りその王になる事で、彼自身のもつ欲望……有り余る食欲や征服欲、そして有り余る性欲を満たそうと考えたのである。


彼の欲望が異常なのは現在の彼の姿を見れば分かる。股間を剥き出しにしておりそこには一糸纏わない女性達が数名、彼の股間に顔を埋めながら奉仕しているのだ。


いずれも、滅ぼした国々の王女や貴族の娘などである。

いずれの女も目の焦点はあってなく、淫靡な笑顔を振りまいている。


彼の精に触れたものはいずれも正気をなくし、淫乱な雌と成り下がるのである。




そう、まさにドルマゲスという男は『欲望』というものを具現化した存在なのである。


「報告を聞こう」


ドルマゲスは低く唸るような声でそう告げた。


それに反応するかのように跪いている魔人が口を開く。


「はっ!ホルス王国の城壁は未だ破れず。されど東の門に亀裂が入ったとの事。落城は時間の問題かと」


ドルマゲスはそれを聞き、静かに瞑目をした。と、同時に


グチュリ


彼の股間より精が放たれ、傅いていた女どもに降りかかった。恍惚の表情を見せる女達。対して配下の者達は黙ってそれを眺めている。

この異常な様子も彼らにとってはありきたりな光景でしかないのである。


暫くの間、再び女達はドルマゲスの股間に顔を埋め、奉仕を再開する。それと同時にドルマゲスは口を開いた。


「セーランはこのまま包囲せよ。ここはギルバルス、汝に託す」


「はっ!お任せください」


ギルバルスと呼ばれた、虎の顔をもつ男が一礼する。


「我は今よりイストレアを落とす。邪魔なホルスの軍勢はセーランに押し込めた。本来の目的であるイストレアを攻め滅ぼす」


そしてドルマゲスは醜悪な笑みを浮かべた。


「イストレアには大した軍勢はない。その反面、他の国にはない圧倒的な富がある。そして……」


ドルマゲスは魔道具である『幻魔鏡』でみたイストレア王妃の姿を思い浮かべる。


東大陸の白百合と称される美女。多少、歳は重ねているがそれを差し引いてもあまりある色香。


清楚なあの女を徹底的に犯し尽くしたい。彼女を一目見た時から彼はそう考えていた。


ドルマゲスの頭はその事で今いっぱいなのだ。


無尽蔵の性欲の塊、それがドルマゲスなのである。


「今すぐ、魔獣の軍勢を整えよ。いよいよ、望んでいた『おもちゃ』が手に入るわ」


そう言うとドルマゲスは低い声で盛大に笑うのであった。




イストレアの東にあるトロント大公国。


この国は起こりは今から70年ほど前だと言われている。当時のイストレア王の弟であったトロント大公が独立したことがその始まりと言われている。


イストレアの東側は、イストレアと異なり河川などもなく土地は痩せ、自国での生産力は非常に低い貧しい土地だ。


それ故に古くからイストレア王家の縁戚という立場を利用し、属国として支援を受けながら国家としての体裁を保っていた。


トロント大公国の強み……それは軍事力である。

この国はイストレアから支援をしてもらう見返りとして、争いが起きやすい東の国との防波堤としての役割を担う道を選んだのだ。

そのために歴代の王達は軍事改革を推し進めていったのだった。


傭兵達を王国軍として組み込んだり、新しい軍事技術に着目し取り入れたり……そうやって長い年月をかけてトロント大公国は東大陸においても屈指の軍事国家となったのである。


しかしそんなトロントもその命運は風前の灯と言える状況にあった。


数多の敵を退けてきたトロント大公国軍の精兵達。しかし、彼らをしてもバイゼルトの狂気をもつ軍勢を退けることは不可能であった。


特に……バイゼルト王、ザッカードの前では。


トロントの名のある武将達はザッカードの前に全て虫けらのように惨殺されていった。


そして兵達はバイゼルトの狂戦士達に次々と踏み潰されていったのである。


大公領の領都は今や見るも無残に荒らされ、多くの屍が転がっている廃墟と化し、トロント大公国も残るは領土の西の端……イストレアとの領土線シャーオの街のみとなったのであった……



ここはバイゼルト軍の中央。この陣幕にて現在今後の作戦について話がされている。そしてバイゼルト王ザッカードは不機嫌な顔で地図を睨んでいた。


「……という事はドルマディアの連中は、いよいよイストレアに攻め上がるという事か?」


「はっ……どうやら兵を二手に分け、その一方がイストレアに入ったとの情報が……」


その話を聞き、ザッカードは近くにあった盃を報告にきた兵に向けて投げつけた。


盃は見事兵の頭に直撃し、彼は額から血を流すが、姿勢を崩さない……


彼は分かっているのだ。この王は気に入らない事があれば理由など関係なしに命を奪うという事を。


「……で、貴様ら何か策はあるのか?」


急に話を振られ、彼の配下は一様に青い顔をして黙り込む。


この状況を何度見た事か。


この問答に答えなどないのだ。全て彼の気分次第で答えが変わってくる。

もし、その機嫌を損ねたら……簡単に首を刎ねられる事となるであろう。

また、上手くいっても処罰される事もある。言うなれば全て、その日の彼の気分なのだ。


「ふん、使えない者達め……」


そう睨め付けるとザッカードは後ろの男に声をかける。


「貴様は何かないのか?」


その言葉に諸将は自分達に矛先が向かわなかった事に少しホッとしながら、ザッカードの後ろに控えた男に目を向けた。


そこには黒いローブをまとい、不気味な仮面を被った男が佇んでいた。ザッカードが王位を簒奪したあたりから彼の横に付き従っていた男。


そしてその場のほとんどの者達は彼こそがザッカードの知恵袋であり、影からこの国を操っている黒幕であろう事は勘付いていた。


「何か言え、アブドラ」


「……陛下にお尋ねしますが……イストレアとトロント、どちらの方が栄えておりますか?」


その言葉を聞き、苦虫を噛み潰したような顔をするザッカード。


「当然、イストレアであろう。トロントなど旨味は全くないわ」


「そうでしょうなぁ。土地は痩せ、奪うものもなく……それにひきかえ、イストレアは土地は豊かで財や食料は山のようにあります……そして……美女も多い。陛下は彼の国の王妃にご執心でしたな?」


「…………」


ザッカードは何も答えず顎だけを動かす。話を続けろ、と言う意味だ。


「このままドルマディアが攻め込めば、あの豊かなイストレアは奴らの草刈場となるでしょうな。陛下の狙う王妃もあの豚の所有物(もの)に……あの豚は好色で知られますからな……」


「では……どうしろと?」


イラついた様子でザッカードは尋ねる。そう、おもちゃをお預けされた子供のように。


「我らもイストレアに攻め上がりましょう」


仮面の男の言葉に諸将は息を飲んだ。


「以前に陛下にも言いましたが……おそらくイストレアの豊かな富を奪ったものがこの東大陸の勝者となりましょう。陛下の願いは東大陸の統一……ひいてはこのアルカディア大陸を奪う事でしょう?」


その言葉にザッカードは立ち上がった。その目には狂気すら宿っている。


「今すぐ、兵の三分の二を連れてイストレアに攻め上がる。準備をせよ!」


「お、お待ちくださいっ!!今攻めているシャーオの街は……がはぁっ!!」


質問をしようと近づいた将をザッカードは問答無用で腰の剣を抜き放ち斬り捨てた。突然の事に黙り込む他の諸将達。


ザッカードはその骸に向けて言い放った。


「そんなもん、自分で考えろ。俺はイストレアが欲しいんだ」


と。


諸将達は思う。ザッカードと言う己が主人について。


まるで子供だ。欲しいものが目の前にあればそれを手に入れるまで。

後の事など考えない。事後処理なども考えない。


欲望のままに動き、そして圧倒的な暴力で破壊をつくす。


古い伝説に記された暴王、もしくは魔王と同じではないか、と。


諸将が青い顔をして立ちすくんでいるその時。すでにザッカードは己が陣に戻り出陣に向けて動き始めた。


「ドルマディアより先にイストレアを奪ってやる。そして……」


あの東大陸の白百合として、お高くとまったイストレア王妃イレーヌを手に入れ無茶苦茶に犯しつくす。


ザッカードは舌なめずりをしながら、その場を足早に過ごすのであった。


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