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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
間章 〜辺境伯領での出来事 嵐の前の静けさ〜
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真のドワーフ、その技術

アレスの元に手紙が届いたのは、ノーラの鉱山から帰ってから数週間の後の事である。


それを一読するとアレスはこれ幸いとばかりに、おおあわてで準備を済ませてハインツを出立した。


溜息をつく、ジョルジュ達を残して……





ここ数日、アレスはジョルジュ達内政官と執務室に籠って話し合う日々が続いていた。


その内容はノーラ鉱山について。

莫大なミスリルと高純度魔石の発見にジョルジュを始め、多くの内政官がその扱いに頭を抱えていたのだ。


「嬉しい悲鳴ですが……ただこれだけの物となると扱いが難しいですね……」


ラムセスの言葉にジョルジュも頷く。


「これだけのミスリル……売れば莫大な富を得ることができ、財政面では今後悩むことがない程潤いますが、確実に怪しまれます。間違いなく鉱山の没収、および辺境伯領をも直轄地に変更となるでしょう」


今まで隠し続けた辺境伯領の発展。これを公にするにはまだ時期尚早なのは、ここにいる全員の一致した見解である。


「ただせっかくの貴重資源です。慎重に使い道を検討して、無駄にしないようにしないと」


「うまく使えば、更なる大規模開発、そして発展へと繋がりますしな」


という事でかれこれ数週間話し合っているのだが、未だ答えは出てこない。


そして、その状況にアレスはうんざりしている。


(無理だ……休みなくこんな話し合いがまだ続くなんて……)


ノーラ鉱山から帰ってきて数週間。休みなく閉じ込められて話し合いをしている彼のストレスは頂点に達しようとしていた。




アレスは辺境伯領領民から名君として讃えられる。大公領領民からも慕われており、為政者としてとても非常に優秀だ。


しかし……彼の性格は元々内政官としては不向きの性格であることはごく一部の人達以外知られていない。

そう、ジッとしているのが苦手な性分なのである。


確かに他の領主と比べたら非常によく働く。

世には政務をサボり遊び呆けている貴族も多数いる。


民を思いやり、誰もが考えつかないアイディアも次々とだす。書類の決済も速い……為政者としてはとても優秀なのだ……あくまでも集中していれば。


そんな彼も神様ではない。同じ作業を延々と繰り返していけば、当然疲労を感じるし、飽きることもある。

それ故に政務を一時中断し、気分転換と称して街に行く事もしばしば……


しかし、それを許さぬのが内政官筆頭のジョルジュである。アレスが外に出ていく都度、ジョルジュに捕まり、再び政務に戻ることになるのだが……




今回も長い話し合いが続き、アレスがちょうど政務に飽き始めてきた時の事。


そんな時だった。ドワーフの王ガルドールから手紙が届いたのは。






「いやぁ、ちょうどいいタイミングだった……ガルドールからの手紙がきたのは……」


そう言ってアレスは横にいる男たちに笑いかける。男たちの表情は三者三様。

1人は心配そうに、1人はニヤニヤと、1人そしては無愛想に。




アレスはガルドールからの手紙を一読すると内政官を招集。

これは大事な案件だからと、ジョルジュ達を説得し、ハインツを出てきたのである。


「急に呼び出したのは共犯者を作りたいのだろう?主」


「いや、君たちも休息は必要でしょ?」


そうやって彼の視線の先には3人の男が。


そう、辺境伯領では知らない者がいない、軍を代表する3人の将、シグルド、ダリウス、シュウの豪華な顔ぶれだ。


さらにその後ろには十名程の兵が連なっている。いずれも只者ではない気配を放つ戦士達……白軍の面々である。


「今回の件は君たちも他人事じゃないしね」


軽口を叩いてきたダリウスにアレスはそう返す。


ガルドールからの手紙には、アレスが大量に注文した兵の武具の見本が完成したとの内容が書いてあった。それを確認するために向かっているのである。


武器の性能は戦場での命を左右する、とはシオンの言である。アレスもそれには賛成だ。

それ故に極力良い武器を兵達には持たせたいとアレスは思っていた。


幸い、ノーラの鉱山から良質な鉄は大量に採れている

。そしてガルドールの元には真のドワーフ達、優れた鍛治職人がたくさんいるのだ。


ドワーフ達の力を使えば、普通の鍛冶職人の数倍の速さで、良質なものが手に入る。

アレスは彼らの力を使い、優れた武具防具を大量生産しようと考えているのであった。と同時に領内にいる他のドワーフや鍛治職人達を彼らに弟子入りさせ、優れた鍛治職人を増やそうとも考えていた。


「まぁ、軍が強くなるなら文句は言えないしな。我がアーリア兵の武器なぞは皆刃こぼれしていて使い物にならん」


「アーリア人は使い方が荒いからねぇ……」


ダリウスの愚痴にアレスも頷く。そして話題を変えた。


「他にも理由はあるよ。白軍の装備、および……君たち将軍達の特注の武器を取りに行くこと」


今回の目的は兵の武具と同時に将軍達専用の特注の専用武具を受け取りに行く事になっているのだ。


そのため、主要三人の将がこの場に集っている。


こうしてアレス達は真のドワーフが住まう山脈にたどり着くのであった。




「友よ、頼まれていた品を持ってきたぞ」

挨拶もそこそこに、早速渡されたのは鉄の軽鎧である。


アレスは初めに鎧を手に取り、それをじっくりと眺め、後ろのシグルドに渡す。その横からはダリウスとシュウが興味深そうに覗き込んでいる。


「良いのか?友よ。もっと頑丈に作ることも可能だが」


「いや、これでいいよ。予算と重さを考えればこれがベストだ」


アレスは笑顔でそう答えた。


アレスが注文をしたのは歩兵用の鉄製軽鎧だ。


アルカディア大陸の軍隊において基本となる兵は歩兵である。シュバルツァー辺境伯領においてもそれは変わらない。

本来なら彼らが使う鎧は鎖帷子の上に革鎧を纏うものだ。しかしアレスはそれを鉄製に変えて欲しいと言ったのである。


「革の鎧より丈夫で、そして革の鎧のように軽いものをお願いしたい」


かなり無理な注文である。しかしドワーフ達はそれを見事に作り上げた。

急所を守るところを厚くし、それ以外を薄く。そして動き易い鎖帷子をさらに丈夫に。

その強度は革鎧とは比べ物にならない。

工夫に工夫が施された代物である。


「とてもよい出来だ。さすがは真のドワーフと言ったところかな」


そう言ってアレスは満足そうに笑うのであった。




アレスは他にも彼らに注文をしていたものを頼む。


次に手に取ったのはミスリルで作られた武器や防具である。


「やはり出来がいいね……モノが全然違う」


「これだけの物となりますと、名のある将や冒険者が持っていても遜色ないですね」


シグルドもその武器防具を見て唸る。


アレスはしばらく眺めた後、シグルド達三人の後ろに控えている戦士達に声をかけた。


「ケイン達、ちょっと来てもらっていい?」


「はっ!!」


その声にシグルド達が壁に避け、同時にケインと呼ばれた金髪の男がアレスの側に進み出た。


「ちょっと具合を確かめてもらってもいいかな?これは白軍専用の武器防具としたいから」


「承知しました」


そう言うと、ケインはミスリルの胸当てを身に纏い、その手にミスリルの剣を持った。

他の者たちも、それぞれ槍や斧といった己が得物を手に取る。


「これは……なんというか、手に馴染む感じです。胸当ても重さを感じず、しっくりきます」


他の者たちも、その声に賛同する。


そんな彼らの反応を聞き、アレスはニッコリと笑った。


「よし、じゃあ採用だ。ガルドール、このクラスの武具を大量に作って欲しい。幸い材料は沢山ある。今度、使う本人達をこの地に向かわせるよ」


こうしてアレスは再びガルドールと話し合いを始める。


白軍や歩兵の武器だけでなく、騎兵の装備、そしてアーリア人の装備……シグルドやダリウス、シュウも加わって話は盛り上がりをみせるのであった。




ガルドールはふと、思い出したようにシグルド達三人の方に身体を向けた。


「おぅ、忘れてたぜ……お前さん達の1番の目当てはこれだな」


最後ににガルドールが見せたのは、いくつかの変わった形をしている武器だ。


しかし先ほどの武器とはまるで質が異なる。ミスリルの武具でさえもオモチャに見えるほどだ。

聖剣や魔剣と言った、名のある武具にも匹敵しそうな気配を放っている。


それを見た途端、アレスの後ろにいた三人の男達の目が輝き始める。そう、そこには彼ら専用の武器が並んでいたのだ。


「この三つは俺自らが作った。他の連中には任せられないからな。なにせ材料が材料だ。下手をすると歴史に名を残すものになるかもしれん」


そう言ってガルドールはシグルド達を順番に眺めていく。


「なにせ持ち主が、あんた達だ。まぁ、出来としても自信作さ。じっくり見てくれ」


ガルドールはそう言うと、ニカっと笑みを見せた。


この地の王であるガルドールは各地に散っている真のドワーフの中でも……最も腕の良い鍛治職人であると言われていた。

若き頃より天才の名を冠しており、その時代に打った作品は大陸に数本、見つけることができる。銘に『ガルドール』が刻まれたその武具はいずれも国宝級となっているほどだ。


そして今では多くの鍛治職人を目指すドワーフが弟子入りを志願し、あらゆる鍛治職人が敬い、目標にしている存在だ。


現在ガルドールの技術は円熟の極みを見せている。その技術は若い頃のものとは比べようもないほどだ。歴代ドワーフの中でも屈指の実力であろう。

しかし……彼が武器を打つことは少ない。気まぐれに自分の技術が衰えぬよう打つ程度だ。


彼が武器を作らない理由……それは彼の武器に並ぶ人物が少ないためだ。


『武器だって持ち主を選びたいものよ。腕の悪いやつなぞはなまくらで十分だ』


それがガルドールの言葉である。


しかし目の前の男達は……間違いなくこの大陸に名を残すであろう英雄達だ。


ガルドールは己が技術の粋を集め、時間をかけて製作に取り組んだのであった。





「まずはこいつだろう?」


そう言って最初に手に取ったのは一振りの剣であった。片刃の片手剣であり、その刃の色は金色(こんじき)に輝いている。中央部には魔石が埋め込まれてあり、強い魔力が剣身に宿っているのが伺えた。


「これは……私の頼んだ剣だな……」


それを手にしたのはシグルドである。


「要望通り、龍鱗を主原料とした剣にしておいたぞ」


シグルドが頼んでいたのは剣である。彼は(いにしえ)より伝わる『龍槍ゲイボルク』と対になる剣が欲しいと希望したのであった。


彼がこだわったのはその材質だ。


「できることなら、この龍鱗を使ったものにしてほしい」


彼が手にしていたのは古代龍ゼファーの龍鱗である。龍種の鱗は素材としては最高級品だ。その中でも神獣と呼ばれる古代龍の鱗はオリハルコンやアダマンタイトなどに匹敵するかもしれない。


特に、生きている古代龍の龍鱗は魔力を宿している。中々お目にかかれない素材にガルドールは笑みをみせたほどである。


その龍鱗に、さらに刃の部分に一工夫するのが、真のドワーフの王の腕前だ。彼はさらに刃の部分にオリハルコンを織り交ぜ、斬れ味を増強させたのである。


その剣を手に取り、そして見事な出来前を見て、シグルドも子供のような笑みを見せた。





「次はこいつだな」


そう言ってガルドールが次に取り出したのは十字の刃がついた槍……十文字槍である。


「これは……某の槍であろう」


「あぁ、これは少し苦労したぜ。久々に扱ったからなぁ、東方の武器は」


シュウの言葉にガルドールはそう言うとニカっと笑った。


シュウが依頼したのは己が愛槍である十文字槍であった。


「先の戦で使い込んでしまい、だいぶ傷んでしまったのだ」


シュウはそう言って、遠慮がちにお願いしたものだ。


東方の武器はいずれもこちらの技術では再現が難しいと言われている。特に刀はその代表格で、真のドワーフでも、頭を抱える。

幸いな事に彼の愛刀『雷切』は無事であった。しかし、彼とともにここ数年戦場を駆け抜けた十文字槍は手入れをできるものもいないため、傷み始め、現在は使い物にならなくなっていたのだ。


それ故に一か八か、シュウはガルドールに願い出た。そしてその返答は


「大丈夫だ。任せろ」


との事であった。

ガルドールはシュウの頼みを快く引き受けたのである。


ガルドールは若き頃、様々な地に赴き鍛治修行を行っていた。鍛治冒険者としても名を馳せた時期があったほどだ。


当然東方にも行ったことがある。彼はその鍛治の技術の高さに目を奪われ、かなりの時期をここで過ごし、そして技術を学んだのであった。


「俺が師事したのは『ノリムネ』と言う当代一の男だった。彼からこの武器についても学んでいるさ」


「なっ!?『ノリムネ』となっ!?」


シュウは驚きの声を思わずあげる。刀鍛冶『ノリムネ』は八洲(やしま)でも伝説的な職人だからである。


「しかし……ノリムネは弟子はとらない主義と聞いた事が……」


「弟子でない。盟友だよ。俺が魔石を使った魔力の宿らせ方を教える代わりに、東方の技術を教えてもらった」


そう言って、ガルドールは笑ったのだった。


「まぁ、楽しみにしてくれ。必ず満足させてみせるさ」


そう、彼が言った自信作が現在シュウの手の中にある十文字槍だ。実物を手にとってシュウは槍の握りを確かめる。多少構えを取りその具合を確認した。そして満足そうに笑うのであった。


「見事だ。前のものより余程具合が良い」


シュウの十文字槍の刃にはオリハルコンが使用されている。斬れ味も魔力伝達度も、そして強度も申し分ないはずだ。そして中央部には魔石が埋め込まれ、強い魔力を感じられた。


作品を見て、シュウもまたシグルド同様に子供のような笑みを見せるのであった。



「さて……ここまではまぁいいとして……」


そう言ってガルドールは少し険しい顔で最後にダリウスに視線を送った。


「おっ?いよいよ俺の頼んだものか?」


「……2人の武器も相当常識外だがな。お前のは……間違いなく人が持つものではないわ。おい……早くもってこい」


ガルドールはそう毒づいた後、別室に控えていた部下たちを呼び寄せた。

扉が開くと、そこにはドワーフが2人、重そうな槍状の武器を持ってきた。


「ドワーフの男2人がかりで持つ武器とはどういう神経なんだか……」


「ほほぅ……なかなか良いではないか。前に作ってもらった黒鉄の槍よりよっぽど具合が良い。よく見せろ」


ガルドールの言葉を無視して、ダリウスはその武器を手にとった。

明らかに重い武器。しかしダリウスはそれをひょいと片手で持ち上げる。


「貴様の武器の種類は『方天画戟』という」


「ほう。ハルバードとは違うのか?」


「ハルバードと用途は似ている……が、より突く、斬るに特化した武器だ」


ガルドールの言葉に、その場にいた者たちは、その武器に注視した。


穂先は、変化がある槍の穂先がついている明らかに上質の素材を使った武器なのは一目瞭然だ。しかし目を引くのはその穂先の両横。三日月型の刃が付いている。


「柄の部分は全て黒鉄を使っている。それゆえの重量感だ。貴様がこれぐらいの重さを好むのは知ってたからな」


ガルドールは何度かダリウスの武器を作った経緯がある。アレスとの一騎打ちで切られた黒鉄の削り出しの槍も彼の作品だ。


「そして突く部分にはより耐久性を持たせる為にアダマンタイトを使用した……お前は使い方が荒いからな。こうしておけば、壊れることはないだろう。普通、アダマンタイトは重いので武器と言うよりは防具向きなのだが……お前には関係ないな」


ガルドールはそこで一息つくと、再び口を開く。


「そして三日月型の刃は、オリハルコン製だ。これで辺境伯殿から預かったオリハルコンの鉱石は全て使い切ったわけだが」


そう言ってガルドールは笑った。


その話に耳を傾けながら、ダリウスはその武器の握りを確かめるとおもむろに振り回す。


「ばっ!馬鹿野郎!!この狭い室内で振り回すやつがいるかっ!!」


その様子を見てガルドールは少し慌てた口調でそう言った。


対するダリウスは一言。


「気に入った」


そう言って笑みを漏らす。


「実に良い。気に入った。早くこれを思う存分振り回してみたいものだ」


見ればシグルドやシュウも同じ表情だ。


「あー、振り回すなら表でやってくれ……ほどほどに。ガルドールとの話が終わったら僕も行くから……」


アレスの言葉を最後まで聞かないうちに3人は外に飛び出していく。

歴戦の猛者の子供っぽい姿に、その場にいた多くの者たちが思わず吹き出すのであった。





英雄皇の右腕たる「天将」達の武器。それは後に国宝として宝物庫に納められる事となる。


今回ガルドールによって作られた武器。


シグルドの『龍剣ドラゴニア』

シュウの十文字槍『不知火(しらぬい)

そしてダリウスの愛槍、無銘『方天画戟』


いずれも他の武器同様に、以後様々な物語と共に長きに渡り保管される事となる。

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