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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
間章 〜辺境伯領での出来事 嵐の前の静けさ〜
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聖槍

練兵場の一角。ここに最も結界が厚く施されている訓練場がある。

主にアレスを始め、シグルドやダリウス、そしてシュウといった人知を超える力の持ち主達が稽古を行う場所である。


そして毎朝ここで、とある二人の鍛錬が行われているのはこの練兵場に通うものなら誰もが知っている事だ。


今朝もまた実戦さながらの稽古がここで行われていた。


一人は黄金の髪をもつ気品ある女戦士。もう一人は白銀の髪の気高き女剣士。

共にその美しさに見惚れてしまうほどの美女である。


2人は辺境伯アレスの妻であるシャロンとリリアナだ。彼女達は毎朝ここで手合わせをするのが日課となっていた。

そう、この結界が貼られた場所でないと稽古ができないのである。


その理由は彼女達の持つ武具だ。シャロンは『戦女神鎧(ヴァルキリーアーマー)』、そしてリリアナは『聖剣アルフレックス』を使用し、実戦さながらの稽古を行う。それ故に普通の訓練場では周りを破壊してしまうのだ。


この日も、いつもと変わらぬ稽古を彼女達は行うのであった。




「ふぅ……」


稽古を終えたシャロンは汗を拭きながらリリアナの『聖剣アルフレックス』を横目で見た。高い魔力を持ち、持ち主の能力を引き上げる武器。なによりも、リリアナの力を引き出す彼女の相棒。


それを見てシャロンはここ最近焦りを覚えていた。


今、シャロンとリリアナの力は拮抗している。しかし、自分がリリアナについていけるのは偏に『戦乙女鎧(ヴァルキリーアーマー)』のおかげだ。

彼女の戦乙女鎧もまたシャロンの相棒として、彼女に聖剣に負けない力を引き出してくれていた。しかし……


(アレスの話では、リリアナ専用の『戦乙女鎧』を作成中との事……そうなると差がついてしまう……)


シャロンは焦りを隠せないでいる。リリアナの戦乙女鎧はほぼ出来上がっており、残るは核となる魔石だけということだ。確かにあのクラスの魔石を見つけるのは難しいだろう……しかしいずれ見つかる。そうなれば……


(間違いなくリリアナの方が強い……となると、アレスの戦場についていけるのはリリアナだけになってしまう……)


戦乙女鎧と聖剣の力……二つがあればアレスの右腕たるシグルドやダリウス、シュウ……とまではいかなくても、彼らに近づける事は出来るはず……そうなればリリアナはアレスの横に。自分は留守番という役目になってしまうかもしれない……


いつか彼の隣に並び立ち、守ってあげたい……彼に助けて貰った日に抱いた誓いを守る事ができなくなってしまう。


「私にもっと力があれば……アレスの隣で彼のために戦うことができるのに……」


思いは募り、いつしかそれが祈りとなっていく。


そんなシャロンの願いが通じたのかどうなのか……彼女が不思議な出来事を体験し始めたのはアレスが戻ってきてから3ヶ月も経とうとしていたある日のことであった。




「で、とりあえず一緒に来てちょうだい」


「……あのー、一応僕領主なんですけど」


「あんたの代わりはコーネリア様がしっかりやってくれるでしょ?むしろあんたより上手に」


「あー、何も言えないね、それを言われると」


突然の呼び出しに面食らっていたアレス。


シャロンは突然アレスを呼び出し、今から北西にある、とある遺跡に行きたいと言い出したのである。なんでも、そこで誰かに呼ばれたとか。


「いや、たかが夢の話でしょ?」


「でも、その見た夢と報告が一致したってありえなくない?」


その出来事に何か運命的なものを感じたコーネリアは早速現地を確かめるためにアレスに同行を頼んだのである。しかも、コーネリアとジョルジュをすでに説得済みというのだから畏れ入る。


「龍を使えば日帰りでいけるでしょ?」


「まぁ行けなくはないけどさ……ってか、よく僕が出ることを許してもらえたね?」


「ジョルジュからは必ず1日で返して欲しいと言われているけどね。そのかわり今週のアレスの休みはなしって」


「……え?」


「いわば、休みの前借り?」


「お……横暴だ……」


がっくりとうなだれ、虚ろな表情になるアレス。その横にいる人物が手を挙げて質問をした。


「ふむ……ご主人様はそれでいいとして……何故に私まで駆り出されるのだ?」


手を挙げたのはリリアナである。


「え?だって暇でしょ?」


「ぬ!暇でないわっ!!私だって己の鍛錬や兵の訓練などやる事は山のようにある!……そもそもなんでお前の手伝いをせねばならない!」


怒るリリアナ。それを見て溜息をつくとシャロンはそっとリリアナに近づく。


「分かったわ。取引をしてあげる。じゃあ……」


コソコソとリリアナの耳元で囁く。するとあれほど怒っていたリリアナもまたすぐに怒りを収め、


「分かった。それならついていく」


と大人しく引き下がった。


「ま、ある意味3人で出かけるなんて初めてじゃない?楽しみましょうよ?」


「え?他には誰もつかないの?」


「ジョルジュに言ったら、『必要ありますか?』って逆に呆れられちゃったわ」


「……ひどい扱いだ……」


アレス、シャロン、リリアナ……いずれも一騎当千の武勇を持っている。たしかに護衛は……必要ない。


「シグルドやシュウなんかに見つかるとめんどくさいから早くしてって、ジョルジュも言ってたわ。あの2人は仕事をほっぽり出してでもついて行っちゃうから……だって。ということで早く行きましょう」


「……あのー僕これでも領主……」


「はい、それ、さっき聞いたから」


そう言うと、アレスの腕を掴んでシャロンは龍舎の方へ向かうのであった。




龍に跨り、遺跡に向かう途中。アレス達はたわいもない会話をしていた。

その際にシャロンの口から今回の話について詳しく話してもらった。


アレスとリリアナはその話に興味深そうに耳を傾ける。


「……確かにそれは不思議な夢だね。」


「繰り返しみる……ということは、何か呼ばれているのかもしれないな」


アレスは首をひねりながら、そしてリリアナは頷きながらそうシャロンに告げる。


彼らは今、騎龍に跨り空を駆っている。登場しているのはワイバーン。アレス達が所有するドラゴンで、今最も早く飛ぶ事ができる龍種だ。


本格的に龍舎を作って数年。今ではこうやって望む時に使うことができるまでになっていた。

このようにドラゴンを使って目的地まで向かう事ができるのも辺境伯領の強みかもしれない。



そんなワイバーンを駆使しながら、アレス達は遺跡に向かう。


「気になって、調べてもらったら本当に夢にあった北西の地に遺跡があったのよ……しかも夢と同じような形の」


シャロンはそう言うと、あの不思議な夢の事を思い出す。


大きな遺跡の中の小さな祠の中に、手に眩いばかりの槍を握りしめた小さな女の子が自分を呼んでいたのを。


調べてもらった結果を見てシャロンは愕然とする。


そうなると気になるではないか。一体あの夢はなんなのか?と。


リリアナはその綺麗な形の眉を寄せ、そしてシャロンに言った


「……槍を持っていた、という(くだり)が気になるな。もしかしたらそれに呼ばれたのかもしれないぞ?」


「……どういう事?」


「いや、私とアルフレックスの出会いに似ていてな……」


リリアナの言葉にシャロンは笑った。


「どちらにしても気になるわ。とにかくその目で……確かめてみたいだけ。あれが何だったのかを」


そう言いながらシャロンは視線を下に移す。領都ハインツを発ってわずか一刻。そこには広大な瓦礫場の真ん中に大きな神殿がそびえ立っているのが見えたのであった。



アレス達は、騎龍を近くの柱に繋いだのち、廃墟となった神殿を進む。


「こんな所にこんな遺跡があったなんてね……驚いた」


そう言って、アレス達は神殿の奥へと進んでいく。不思議とこの神殿は地下に潜る形で階段が配置されている。


「もしかして以前はここに街があったのかもしれないわね」


「ふむ……そして蛮族や魔獣の襲撃で滅びて廃墟になったと。あり得る事だ」


3人でそんな話をしながら下へ下へと進んでいく。


「珍しいねぇ。下に下がる階段の神殿なんて。詳しく調べる価値はありそうだ……おや?」


アレスの足が止まる。と同時にシャロンとリリアナも気配に気付き視線を前に向けた。


「出たか……やっぱりねぇ」


そう、当然このような廃墟。お決まりのようにアンデット系統の魔物が多数出てくる。そして今彼らの目の前には多数のスケルトンやゾンビが現れたのだが……


「邪魔ね、こいつ」


「アンデットなぞ、聖剣の錆になれぃ!!」


……彼らの敵ではなかった。


「これだけアンデットが出るなら、今度シャドウを連れてこよう。きっとスケルトンが増えると喜ぶはずだ」


哀れ、アンデット達は彼らの敵として立ち塞がる事すらできなかった。




そんな感じで呑気に進んでいくうちに……アレス達はあっという間に最下層にたどり着く。そこは大きな広間。その奥には……小さな祠がひっそりと佇んでいた。


「ん……何か気配が変わったね」


神殿の奥にいるような厳かな雰囲気。それゆえか魔物の気配も全くない。


シャロンはその祠を見て思わず息を飲む。そう、夢で見た祠と全く同じだったのだ。


「ちょっと……どう言う事?全く同じじゃない……」


シャロンが思わず近寄った瞬間。


『……来てくれたんだね……』


幼い女の子の声が響き渡った。


その声に思わずアレスとリリアナは身構えるが、シャロンは呆けた様に祠に近づいていく。


「シャロンっ!!」


「何をしているっ!?」


思わずアレスやリリアナがその手を取ろうと前に出た瞬間。


「ぐっ!!」


「なっ!」


見えない力によって弾き飛ばされた。


「おいおい……これは……『神威』??そこに神かなんかがいるのか??」


戸惑うアレス達の事を御構いなしにシャロンは吸い寄せられるように祠に手をかけ……そしてその扉を開けた。


そこには黄金色に輝く一つの玉が鎮座している。


『私の声、届いた??』


突然、その玉が語り出す。


「あなたは……」


『だってあなた、私の事望んでいたでしょう?だから必死に声出したの。もしかしたらここから出してくれる人かなって。貴方なら私の声を受け止めてくれるかな、って」


「私があなたを望んだ?」


シャロンは首をひねる。


『あの人に並び立つために必要な力が欲しいんでしょ?あの人を守りたいんでしょ?』


「あっ……でも」


『聞こえてた。だから私も声をあげたの。この人だったらもしかしたら私をここから出してくれるって確信したから』


光の玉はそう言うと今度は小さな女の子の姿に変わる。


シャロンを始め、様子を見守っていたアレス達も息を飲んだ。


『昔……ここには街があったわ。私はその街を守る神殿に祀られていた……けど、街は魔獣に滅ぼされてしまった。私は街を守れなかったわ』


「なぜ……?」


『私の声に誰も耳を傾けてくれなかった。私はここから出る事が出来なかったから……』


「……」


『あれから長い長い年月が経ったわ。そんな時……貴方の声が聞こえたの。随分と遠かったけど、強い思いが伝わったわ。そして私は思ったの。この人なら私をここから出してくれるんじゃないかな?って』


小さな女の子はそう言ってニッコリと笑った。


『寂しかったの。誰もいないところで一人でいるのが。だから……私を連れて行って』


じっと話を聞いていたシャロンは笑みを見せるとそっと女の子の頭を撫でた。


「……こんな所に一人で……寂しかったのでしょうね。いいわ、私と一緒に来なさい」


その女の子は満足そうに笑うと、さらに光り輝くと一本の槍の形に変化する。


『私の名前は『ミネルヴァ』よ。これから貴方の相棒となってあげる』


そう言うとその槍はそっとシャロンの手に収まった。


『私の存在意義は『大切なものを守る』こと。だから貴方の強い思いがきっと私に届いたんだと思う。これからよろしくね』




アレスとリリアナはただ、そのやり取りを見守る事しかできない。ただ……分かったことがある。


「シャロンはあの槍に選ばれたんだろう。だからここに呼ばれた……まるで昔の私のように」


「昔の私?」


「私がこの子に選ばれた時も同じような感じでした。ご主人様」


リリアナが聖剣アルフレックスに選ばれた時も……何処から声が聞こえ、それに導かれるように手にしたと言う。


「シャロンは……相棒を手に入れたんでしょう」


アレスはシャロンの方に視線を向ける。


未だ槍と会話をしている姿が見られる……しかし……その姿はとても美しく、神々しく見えた。




アレスはシャロンからさらに詳しく話を聞き、この地に再び街を作ることを決めた。


「元々街があったからね。水源の確保も簡単だし、とっととやってしまおう」


アレスはハインツに戻るとシャドウ達を派遣する。彼は早急にアンデットを自分の配下を収め、その労働力を持ってあっという間に街を再建した。


その後、多くの解放奴隷達をこの地に送り込み、数年後、この地はグランツの北西の拠点となるほどに大きな街へと成長していく。


この北西の街『ミネルヴァ』の中心には神殿が建てられ、そこには一体の少女の像が作られるのである。






そして……


『黄金の戦乙女』シャロンの武器として、後世まで名が知られている武器といえば『聖槍ミネルヴァ』である。


その槍の能力……それは


『絶対防御』


ありとあらゆる攻撃を跳ね返すと言われるその能力を、彼女は彼女の横にいるもっとも『守りたい人』にむけて使っていたと言われている。




感想にて度々言われる登場人物多すぎ!の件ですが……


そんなに全員覚えようとせず、主要人物のみ覚えて貰えたらどうでしょう?

主人公とその重要な家来と奥さんぐらい……ですかね?


いや、作者本人も時折読み返しては誰やねんこいつ、と思う時があるので……


一応、軽く読める戦記物を目指してるのでそれくらいおおらかな気持ちで読んでくださるとありがたいです。

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