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英雄の中の英雄の物語 〜アレスティア建国記〜  作者: 勘八
間章 〜そして時代は動き出す〜
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カルロスとジョセフ

「貴様が俺のところに来るとはな。驚きだ」


カルロスはそう言うと目の前の男……己が血を分けた弟であるジョセフを見る。


第一皇子カルロスは領内にて、待機命令が下っている。

彼の領地は西方に位置する。後ろ盾となっているザクセン大公領と隣り合わせであり、また、軍事大国トラキアとも距離が近い。


それゆえ表向きはトラキアに対する壁として領地に待機する事を命じられているだろう。しかし経歴を考えれば、彼を『守り』で使うのはおかしい。


『ザクセンの虎』ゲオルグと『狂皇子』カルロスは近年『アルカディア帝国の槍』として、常に他国に進軍していたからである。

内陸国への侵攻、また西方トラキアや北方ヴォルフガルドとの戦でも彼らは総大将として前線に向かう事が多かった。


それゆえこの待機命令が先の戦の懲罰であることは、一目瞭然であった。また、彼に変わる存在……『征夷大将軍』アレス・シュバルツァーの台頭も大きかったであろう。事実彼は対異民族への戦の総指揮権をもらい、戦っているのだから。


カルロスとしてはこの現状は面白くない。なんとか覆す方法がないか……考える日々が続いている。


「で、お前が俺に何の用だ?」


カルロスはこの目の前の弟が嫌いである。下級貴族達を子分に置き、好き勝手やっている。カルロス自身も為政者としては、民から重い税金をかけたり、恐怖政治で民衆を縛りつけたり……はては侵略した土地に対して暴虐の限りを尽したりするのだが……それは彼なりの理由……即ち戦を行うためには仕方がないと思っている。


しかし目の前の男は違う。

彼は己が快楽のためにやっているのだ。


戦にも出ず、領民に圧政を敷き、己は帝室という身分を使い、安全なところで酒池肉林をくらう……


幼少の頃より言葉を交わさず、お互いの存在を無視していた。自分の事をあれほど敵視していたのに今更何の用なのか?


カルロスは訝しげにジョセフの様子を伺っている。


対するジョセフはニヤニヤと笑みを見せながらカルロスを眺め、そして口を開いた。


「いや、今までの遺恨を全て水に流して、手を結ばないか?『兄上』」


「……貴様から兄と呼ばれる日が来るとはおもわなかったな。何を考えている?」


「……現在、我らの立場は危ういものだと思わないか?」


ジョセフはそう言うと苦虫を潰したような顔をした。


「エリザベートはロンバルディアに、アンネはローゼンハイム、あの無駄な存在と思っていたコーネリアがシュバルツァーに。それぞれ大公家が後ろ盾としてついた」


「俺にもザクセンがついているがな」


「お前もザクセンも先の戦で失敗し、落ちぶれたではないか」


「……貴様、愚弄してるのか?」


「事実を言ったまでだ。だが、他の者達に離されているのは事実だろう?」


「……」


カルロスは悔しそうな顔をして黙り込んだ。確かにジョセフに指摘されたのは事実なのだ。


「で、お前は一体何が言いたいんだ?」


「『兄上』にはアルカディアの精兵と落ちぶれたとは言え、大公家であるザクセンがついている。俺には帝都にいる多くの貴族が味方になっており、二つを合わせたら大きな勢力になると思わないか?」


ジョセフはそう言ってニヤニヤと笑う。その様子を伺いながら、カルロスは別の事を考えていた。


このボンクラの弟がこのように動き出す……それは父の状態があまり良くないからであろう。サイオンが勝手に起こしている戦も止めず、表にもあまり出てこない……そうなれば、この弟ですら察しがつくということか。


カルロスは皮肉を込めた笑いをみせ、そしてジョセフに言い切った。


「お断りだな」


「っ!?な、なぜ!?」


明らかに狼狽するジョセフ。まさか自分が断られるとは思ってもみなかったのだろう。いや……この我儘な男の事だ。このように自分の意を断られることなど今までなかったのかもしれない。


「貴様の配下にいる下級貴族ごときが味方になっても何の役にもたたぬ。ただのお荷物さ。俺は俺なりに考えている。貴様を頼る気はない」


「しかしっ!!この状況下ではあいつらに出し抜かれるぞっ!!」


「他人の心配より、自分の心配をするんだな。貴様こそ、大公家や公爵家といった大貴族のの後ろ盾もなく、どのように生きていくのか……それを少ない脳みそで考えておけ」


「き、貴様……」


そう言うとカルロスは己が家臣を呼び寄せ告げる。


「さぁ、弟がお帰りだ。丁重に馬車まで連れて行け」


それだけ言うとカルロスは立ち上がり踵を返した。


「このような事をして。ただで済むと思うなよ!」


そう捨て台詞を吐き、立ち去った弟に対してカルロスは誰にも聞こえないような声で呟くのであった。


「まぁ、貴様の命運もあと数年だろう。俺はそんな泥舟を抱えるつもりはない」




ジョセフは大いに焦っていた。


「くそっ!カルロスの奴め!!俺の誘いを断りやがって!!」


ジョセフにはアルカディア内で味方が少ない。それゆえに、今己が味方を増やそうと動いているのだが……誰も相手にしてくれないのが現状だ。


「この高貴な俺様の誘いを断りやがって……全員ただではすまさんぞっ!!」


しかし、その罵声も虚しく馬車の中で響きわたっているだけだ。


その時だった。


「助けてやろうか?」


何処から声がしたのは。


その声と同時に馬車が止まる。


「おいっ!どうした!?何があった??」


ジョセフはそう言うと慌てふためく。それと同時に馬車の扉が開いた。目を向けるとそこには黒いローブを纏った男と、黒い蛇の顔をした男が立っていた。蛇男の手には血のついた鉞があり、その横には首のない死体が転がっている。


「ひゃぁぁぁぁああああああ」


「もう一度しか言わぬ。助けてやろうか??」


黒にローブの男がそう、口にする。


「頼むっ!命は!命だけは助けてくれっ!!」


「なら、我と盟約を結ぶか?」


「なんでもするっ!!助けてくれっ!!」


その姿をみて黒いローブの男は苦笑した。


「契約成立という言質として受け取ろう」


その瞬間ジョセフの胸のあたりが怪しく光り出し、ジョセフはそれを見て卒倒した。


「何とも情けない男よ。こんな奴に価値があるのか?」


蛇男がそう問うと、黒いローブの男は低い声で笑って答えた。


「こいつ……というよりはこいつの『血』が必要だ。まぁ、上手いこと踊って貰おうか」


そう言うと、倒れているジョセフに向かって黒いローブの男は告げた。


「これよりヌシは儂らのものよ。その身体の全て……そう髪の毛一本まで我が主人のために使わせてもらおう。それまで……楽しく生きているが良い」


そういった後一陣の風が吹いたかと思うと2人の姿は何処にも見えなくなるのであった。


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